51 / 94
カエルの歌が聴こえない
第7話
しおりを挟む
なんだって?
僕は、ミコが言った事を友人に伝えた。彼は少し考えるようにしてから、尤もだろう、と答えた。僕はミコの方を見て、どういう事? と訊いた。
「だって」ミコが言った。「じゃあ、なんでキミは、自分や、コスプレの先輩とかに歌って貰わずに、ボクに歌わせるの?」
そりゃあ、僕は歌が得手じゃないし、先輩に依頼するのは気が引けるし、思い通りに歌ってくれるかもわからないし…。
「でしょ?」ミコが言った。「まず、キミは自称コミュ障で、歌ってくれる人がいない」
なんだか棘のある言い方だな。
「でもそれだけじゃないよ」ミコが諭すように言った。「まだ、重要な事を忘れてるよ」
重要な事ねえ…。と思った瞬間、ミコが突然、顔を僕に近づけて来た。タルパとは言え、ドキッとした。それから、少し呆れ顔を作ると、目を閉じて、僕にキスをしてきた。あれ? ミコとキスするの、大分久しぶりだな、なんて思いながら、友人の見ている前でやるなよ、と思った。
「解った?」
ミコが少し怒った様に言った。いいえ、解りません。僕は助けを求めるように、友人の方を見た。彼は、僕がミコと何か会話をしている事を察しながら、両手の仕草で以て、さあ、と答えた。
僕はまた、ミコと向き合った。
「呼吸だよ」ミコが言った。「ボク、呼吸してないでしょ」
ああ、確かに。前にセックスしようとした時は、上気だって息を荒げていた気もするけれど、原則、彼女に呼吸は不要だ。
あ、そうか。
「解った解った。」思わず、僕は友人の前にも関わらず、声に出して言ってしまった。「息継ぎ要らないんだ、ミコは」
僕の言葉に、彼女は大きく頷いた。
「それに、キミが作る23拍子みたいな変態曲を一発で歌える歌い手さんは、そうそういないよ?」ミコは得意げに言った。「人間には歌えないけれど、ボカロには歌える歌が沢山あるって事だよ」
それは間違っていない。人間だと言葉が追い付かないよう速いBPMの楽曲でも、ボカロは、ボカロにも依るけれど、早口でちゃんと歌ってくれる。人間に近い声、言葉で以て、人間では不可能な歌を歌ってくれているのだ。そんなありがたい存在だったか、君は。
僕は、ミコの言葉を友人に話した。彼は、数度うんうんと頷いた。それから、折角DTMで生楽器使わない作曲やってるんだから、生楽器では出来ない奏法なんかだって積極的にやるべきだ、と言った。翻れば、奏法なんて知らなくたって、いいんだ、楽器が弾けないからこそ、現実ではありえない演奏が可能になるんだろ、と言った。僕は黙って頷いていた。彼のいう事は的を射ていた。確かに僕は、現実の楽器の模写に拘ろうとしていたのかもしれない。よく、ドラムの叩き方をDTMでシミュレートする為に、右手で叩けるのはここまで、左手はここまで、だから、この叩き方の組み合わせは人間ではできないから、在り得ない、だからすべきではない、みたいな話がされるけれど、縛られる必要はないんだ。だって、僕は生音でバンドをやってる訳じゃない。そりゃあ、勿論基礎は必要だろうし、楽器だって弾けるに越したことはないんだろうけれど、少なくとも僕が音楽で創作活動をしているのは、楽器のシミュレーションをして現実的な清く正しい音の鳴らし方をする為ではなく、コミュニケーションの用具として、発話に代わる通信手段として行っているのだから、自由だ。
よし、じゃあ、何を作ればいい? と、僕は彼に言った。
「やっぱり、カエルの歌がいいよ」
ミコが横槍を入れて来たけれど、無視した。友人は、そうだなあ、と少し考えるようにしてから、とりあえず曲を作る事が大事なんだから、カエルの合唱の歌あたりをアレンジしてみたらどうだ、と答えた。なんだよ、ミコと同じ思考回路かよ。
ミコの方を見ると、彼女は、口に手をあてながら、キシシ、と笑った。
僕は、ミコが言った事を友人に伝えた。彼は少し考えるようにしてから、尤もだろう、と答えた。僕はミコの方を見て、どういう事? と訊いた。
「だって」ミコが言った。「じゃあ、なんでキミは、自分や、コスプレの先輩とかに歌って貰わずに、ボクに歌わせるの?」
そりゃあ、僕は歌が得手じゃないし、先輩に依頼するのは気が引けるし、思い通りに歌ってくれるかもわからないし…。
「でしょ?」ミコが言った。「まず、キミは自称コミュ障で、歌ってくれる人がいない」
なんだか棘のある言い方だな。
「でもそれだけじゃないよ」ミコが諭すように言った。「まだ、重要な事を忘れてるよ」
重要な事ねえ…。と思った瞬間、ミコが突然、顔を僕に近づけて来た。タルパとは言え、ドキッとした。それから、少し呆れ顔を作ると、目を閉じて、僕にキスをしてきた。あれ? ミコとキスするの、大分久しぶりだな、なんて思いながら、友人の見ている前でやるなよ、と思った。
「解った?」
ミコが少し怒った様に言った。いいえ、解りません。僕は助けを求めるように、友人の方を見た。彼は、僕がミコと何か会話をしている事を察しながら、両手の仕草で以て、さあ、と答えた。
僕はまた、ミコと向き合った。
「呼吸だよ」ミコが言った。「ボク、呼吸してないでしょ」
ああ、確かに。前にセックスしようとした時は、上気だって息を荒げていた気もするけれど、原則、彼女に呼吸は不要だ。
あ、そうか。
「解った解った。」思わず、僕は友人の前にも関わらず、声に出して言ってしまった。「息継ぎ要らないんだ、ミコは」
僕の言葉に、彼女は大きく頷いた。
「それに、キミが作る23拍子みたいな変態曲を一発で歌える歌い手さんは、そうそういないよ?」ミコは得意げに言った。「人間には歌えないけれど、ボカロには歌える歌が沢山あるって事だよ」
それは間違っていない。人間だと言葉が追い付かないよう速いBPMの楽曲でも、ボカロは、ボカロにも依るけれど、早口でちゃんと歌ってくれる。人間に近い声、言葉で以て、人間では不可能な歌を歌ってくれているのだ。そんなありがたい存在だったか、君は。
僕は、ミコの言葉を友人に話した。彼は、数度うんうんと頷いた。それから、折角DTMで生楽器使わない作曲やってるんだから、生楽器では出来ない奏法なんかだって積極的にやるべきだ、と言った。翻れば、奏法なんて知らなくたって、いいんだ、楽器が弾けないからこそ、現実ではありえない演奏が可能になるんだろ、と言った。僕は黙って頷いていた。彼のいう事は的を射ていた。確かに僕は、現実の楽器の模写に拘ろうとしていたのかもしれない。よく、ドラムの叩き方をDTMでシミュレートする為に、右手で叩けるのはここまで、左手はここまで、だから、この叩き方の組み合わせは人間ではできないから、在り得ない、だからすべきではない、みたいな話がされるけれど、縛られる必要はないんだ。だって、僕は生音でバンドをやってる訳じゃない。そりゃあ、勿論基礎は必要だろうし、楽器だって弾けるに越したことはないんだろうけれど、少なくとも僕が音楽で創作活動をしているのは、楽器のシミュレーションをして現実的な清く正しい音の鳴らし方をする為ではなく、コミュニケーションの用具として、発話に代わる通信手段として行っているのだから、自由だ。
よし、じゃあ、何を作ればいい? と、僕は彼に言った。
「やっぱり、カエルの歌がいいよ」
ミコが横槍を入れて来たけれど、無視した。友人は、そうだなあ、と少し考えるようにしてから、とりあえず曲を作る事が大事なんだから、カエルの合唱の歌あたりをアレンジしてみたらどうだ、と答えた。なんだよ、ミコと同じ思考回路かよ。
ミコの方を見ると、彼女は、口に手をあてながら、キシシ、と笑った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる