コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

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サンタの存在証明

第4話

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 僕は、リビングのテーブルに案内された。先輩は、まだ乾かしていない髪をそのままに、紅茶しかないけど、何がいい、と訊いて来た。僕は一瞬回答に詰まったが、つまり、葉の種類を訊いてきていた。中野の友人の、コーヒー豆の種類に対する質問に関しては、コーヒーのテイスト表現は或る程度定型化されているから比較的容易に回答可能だけれど、紅茶となると訳が解らない。とりあえず、アールグレイで、と、知っている名前を伝えた。先輩は、おっけー、と言いながら、缶から茶葉を出して、透明なガラスのポットに入れると、お湯を注いでくれた。この、葉が踊る瞬間が一番いいよね、とか同意を求められたけれど、よく解らないので、いい香りですね、とだけ答えた。

 先輩は僕の前に紅茶のポットとカップを置くと、髪の毛を乾かしにバスルームに入って行った。何となく、その仕草が、ミコがトイレに入って行く姿と重なり、おやおや、先輩も実は僕のタルパだったのか、という妙な考えに刹那的に取りつかれて、思わず苦笑してしまった。

 ドライヤの大きな音が、扉越しに聞こえて来た。

「今から髪を乾かして、化粧して、ウィッグするとなると、大分時間がかかるよ」ミコが言った。「退屈だな」
 まあ、大抵の女性がそういう物だから、とは決めつけないけれど、少なくとも先輩はそういう性格だから、僕は紅茶を飲みながら大人しく待つ事にするけどね。

「旦那さんは今日はいないのかな?」
 出かけてるんだろうね。それか、普段から別居しているか。洗面所でも見れば、並べられた用品の種類で状況が解るんだろうけれど。
「興味あるでしょ? 訊いてみてよ」ミコが言った。「適切なタイミングでアドバイスするからさ」
 ミコの言う、適切なタイミングは、信用してません。
「ちぇっ」

 そうか、よく考えれば、ミコは実在しないんだから、この部屋の中には、僕と先輩しかいないのか。と思うと少しドキドキしたけれど、さっきの先輩の対応を見ると、当然僕なんかには気はないし、やっぱり男には興味がないんじゃないか、と思えた。逆に、女性を招く時の方が気を遣うのかな。

 ドライヤが完了して、手櫛で髪の毛を櫛りながら、先輩が出て来た。それから髪の毛を後ろで縛ると、なんかゴテゴテした装飾の鏡を手に取り、テーブルの僕の向かいに座った。それから化粧ポーチを開いて、化粧を始めた。

 準備終わってなくてごめんね、ちょっとだけ待っていてね、と先輩は手を動かしながら言った。僕は、構わない旨を伝えてから、紅茶を啜りながら、今日は何のコスプレですか、と訊いた。先輩は、鏡から一瞬だけ視線を外し、上目遣いで僕を見ると、微笑しながら、今回もミコだよ、と答えてくれた。池袋に、同人のCDばかりを扱うお店があり、そこでボカロコスプレのイベントが行われるらしい。先輩は、君に同伴をお願いしたのは、きっとそのお店の事を気に入ると思ったからだよ、と言った。つまり、僕が作る様なCDを委託販売できるし、他のボカロPが作ったCDを、M3の様なイベントに行かずとも購入できるから、という事らしい。なるほど。実店舗での物販には、少なくとも同人の観点ではあまり期待していないので、そこまで乗り気にはならなかったが、わざとらしく、それは興味深いですね、と答えた。ん? でも、僕は店の入口までしか付いて行かないつもりなんだけれどな。
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