コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

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そよよ

第10話

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 僕等はゆっくりと有楽町へ向かった。泰明小学校を横目に、岡本太郎のオブジェを過ぎて、国際フォーラムに辿りついた。

 僕は、ミコの誘導に対し、段々と不安を感じなくなってきた。彼女は、明らかに、僕が忘れている、有香に関する、恐らく必要な記憶を、関連するシチュエーションや情報を使って、上手く呼び起こそうとしてくれている。僕にとってのゴールは、有香の誕生日の贈物を選ぶ事だが、ミコ自身は、何かそれ以上の大切な記憶に辿りつく事を目的としているようにも思える。解っているのであれば、始めから、言葉で以て僕に伝えればよい。それをしないという事は、何かしら彼女なりの考えがある、という事なのだろうか。それとも、こうして僕と有香の仲をとりなすような素振りを見せながら、心の中ではどこか、僕と有香が再び恋仲になる事で自身が消失するリスクについて、戸惑いを残しているのだろうか。
「それはちょっと違うかな」ミコが、突っ込んできた。「だって、そう思ってるとしたら、それはキミ自身なんだからね」
 ミコの、この返し、久々に耳にした気がする。そして、改めて、ミコはタルパであり、僕の無意識の具象体である事を再認識させられた。
「じゃあ、なんで、こんな持って回ったようなやり方をするんだ?」
 僕が言うと、ミコは少しだけ俯き、寂しそうな表情をした。が、すぐに僕に向き直ると
「たまには、ボクにも、デートの感覚を味わわせてよ」
と返して来た。

 国際フォーラムのミュージアムショップは、未だに、どの美術館、または博物館に紐づくショップなのかが理解できていない。地下鉄に通じる階下には有名な詩人のミュージアムがあった気がするけれど…。まあ気にしないでおこう。

 僕はミコと、店内を適当に歩き回った。何か目ぼしいものがあるか…と思ったけれど、なんだかイマイチだった。中世ヨーロッパを彷彿とさせるような、コンパスやら地球儀みたいな輸入雑貨は、なんとなく有香の気に入るような気もしたけれど、それは単に、僕が気になる物は彼女も気になるだろう、という一方的な推論でしかないし、結局はそういう空気の読めなさがコミュ障としての忌むべき特性を助長するような心持がしたので、辞めた。かといって、クリムトやゴッホなんかの作品がプリントされたグッズなんかは、様相は面白いけれども、相応しくない。では、歌詞なんかを書くときに役立つような実用的な物が良いのだろうか。別に、付き合っている訳ではないのだから、あまり高価な物は嫌がられるかもしれないし、ある程度彼女の生活嗜好に合わせた用品の方が適当だろう。
「ハンドクリームとかソープのセットなら無難なんだろうけれどね」ミコが言った。「でも、キミもあの娘も、そういう類の人種ではないんだもんね」
 解ったような口を利く。まあ、それが僕の理解なんだけれども。

 ミコは、陳列棚に置かれた、凝った外観とギミックのオルゴールを手に取ると、螺子を巻き始めた。勿論、実際に手に取っている訳ではなく、タルパの一部として、僕がそういう幻覚を見ているだけなんだけれども。

 ミコが螺子から手を放すと、オルゴールに設えられた擬人化されたブリキのカエルが、その手に持った如雨露の先端を、目の前に固定された植木鉢に注ぐような動作を繰り返しながら、オルゴールは音を奏で始めた。ああ、良くできたオルゴールだな、と思った。曲は、なんとなく聴いた事のある物だったが、思い出せない。ただ、そのカエルと植木鉢のモチーフに適当なタイトルの曲だったような気がする。
「違うよ」ミコが、オルゴールを手に載せたまま、すました顔で言った。「このモチーフと曲は、全く関係がないよ。キミ以外の人間にとってはね」
 どういう事?
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