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旧友という名の痛み
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セレスタイン城、応接室。
午后の陽光がカーテン越しに揺れ、窓辺に影を落とす。静かな室内には、上品な茶器の音と、優雅な笑い声が響いていた。
「ふふ……あの時は、まだ私たち、幼かったですわね」
マリアが微笑みながら、紅茶を口元に運ぶ。金糸のような髪が揺れ、まるで絵画の中から抜け出たように美しかった。
「ああ。……魔物に襲われかけた俺を、君が助けてくれたな」
ラファエルの紅い瞳が、ふっと和らぐ。
「月の力を、初めて発動できたのも、あの時でした。あの出会いがあったからこそ、私は聖女になれたんですのよ。ラファエル様のおかげですわ」
「……そんなことはない。君の努力だろう?」
「そう、だといいのですけれど……」
マリアは、紅茶を置き、ラファエルの目を見て微笑んだ。
「それより、結婚生活はどうです? まさかラファエル様が、スカーレット様との婚姻を許諾なさるとは、私も少々驚きましたわ」
「……まあな。色々と思うところがあってな」
ラファエルは視線を窓へと移す。風に揺れる木々を見つめながら、ぽつりと続けた。
「だが……この生活も、悪くはないと思えるようにはなってきた」
「……そう、ですか」
マリアの指が、カップの縁をなぞる。その声には、一瞬の影が差したが、すぐに上品な笑みに戻る。
「そうだ。マリア、俺は……」
(まだ、マリアが俺を思っていてくれるなら……この数十年、燻り続けた気持ちを――)
だがその言葉は、遮られた。
「そうですわ! 近日、私とセシル王子の婚約式がございますの。よろしければ旧友として、ぜひご参加なさってくださいませんか?」
「ああ……。わかった」
ラファエルの声はどこか遠かった。彼の瞳が伏せられるのを、マリアは微笑を絶やさず見ていた。
⸻
その頃――扉の外。
壁に背をつけ、片耳をそっとドアに当てる影があった。スカーレットだ。
(……この声……)
扉越しに聞こえるのは、優しい声。穏やかで、どこか懐かしささえ漂うやり取り。
そして、その中に、ラファエルの――笑い声。
(ラファエルが……笑ってる)
スカーレットは、心臓をきゅっと掴まれたような感覚に襲われた。
(私の前では、あんな顔しないのに)
仏頂面。皮肉。冷たい言葉。それが、スカーレットが知っている彼の姿だった。
(……知ってる。ラファエルはマリア様のことが好きなんだって。でも)
でも――
(それでも……こうして目の前で“好きな人と楽しそうに笑う彼”を見せられると……なんで、こんなに胸が苦しいの?)
知らず、スカーレットの胸には、切ない痛みが広がっていた。
ラファエルの幸せを願うはずの自分が、あの笑顔に、なぜこんなにも心を痛めているのか。
その答えは、まだ、彼女自身さえも知らなかった――。
午后の陽光がカーテン越しに揺れ、窓辺に影を落とす。静かな室内には、上品な茶器の音と、優雅な笑い声が響いていた。
「ふふ……あの時は、まだ私たち、幼かったですわね」
マリアが微笑みながら、紅茶を口元に運ぶ。金糸のような髪が揺れ、まるで絵画の中から抜け出たように美しかった。
「ああ。……魔物に襲われかけた俺を、君が助けてくれたな」
ラファエルの紅い瞳が、ふっと和らぐ。
「月の力を、初めて発動できたのも、あの時でした。あの出会いがあったからこそ、私は聖女になれたんですのよ。ラファエル様のおかげですわ」
「……そんなことはない。君の努力だろう?」
「そう、だといいのですけれど……」
マリアは、紅茶を置き、ラファエルの目を見て微笑んだ。
「それより、結婚生活はどうです? まさかラファエル様が、スカーレット様との婚姻を許諾なさるとは、私も少々驚きましたわ」
「……まあな。色々と思うところがあってな」
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「だが……この生活も、悪くはないと思えるようにはなってきた」
「……そう、ですか」
マリアの指が、カップの縁をなぞる。その声には、一瞬の影が差したが、すぐに上品な笑みに戻る。
「そうだ。マリア、俺は……」
(まだ、マリアが俺を思っていてくれるなら……この数十年、燻り続けた気持ちを――)
だがその言葉は、遮られた。
「そうですわ! 近日、私とセシル王子の婚約式がございますの。よろしければ旧友として、ぜひご参加なさってくださいませんか?」
「ああ……。わかった」
ラファエルの声はどこか遠かった。彼の瞳が伏せられるのを、マリアは微笑を絶やさず見ていた。
⸻
その頃――扉の外。
壁に背をつけ、片耳をそっとドアに当てる影があった。スカーレットだ。
(……この声……)
扉越しに聞こえるのは、優しい声。穏やかで、どこか懐かしささえ漂うやり取り。
そして、その中に、ラファエルの――笑い声。
(ラファエルが……笑ってる)
スカーレットは、心臓をきゅっと掴まれたような感覚に襲われた。
(私の前では、あんな顔しないのに)
仏頂面。皮肉。冷たい言葉。それが、スカーレットが知っている彼の姿だった。
(……知ってる。ラファエルはマリア様のことが好きなんだって。でも)
でも――
(それでも……こうして目の前で“好きな人と楽しそうに笑う彼”を見せられると……なんで、こんなに胸が苦しいの?)
知らず、スカーレットの胸には、切ない痛みが広がっていた。
ラファエルの幸せを願うはずの自分が、あの笑顔に、なぜこんなにも心を痛めているのか。
その答えは、まだ、彼女自身さえも知らなかった――。
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