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仮面舞踏会第二幕
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流れるようにターンを踊るノアーチェ。
金糸の髪がふわりと舞い、スカートの裾が光を反射して咲き誇る。
(……本当に、綺麗すぎる……)
カリスは思わず息を呑んだ。
ターンをするたび、まるで舞い降りた女神が現れたようで、視線が離せない。
ノアーチェが微笑む。
その笑顔は月光のように柔らかく、そして——甘く危険だ。
(そ、その微笑みは反則ですノア殿下!!わたしの理性がっ……!はぁっ、落ち着け私!これは任務、任務!スーハースーハー……!)
そんなカリスの動揺を楽しむように、ノアーチェがくすりと笑う。
その直後、視線をすっとホールの隅へ。ザンジス宰相と側近たちが動き出していた。
ノアーチェとカリスは視線で合図を交わし、
誰にも気づかれぬようにホールを抜け出した。
夜風が吹き抜ける廊下、手を繋いだまま二人は静かに足を進める。
⸻
ノアーチェが唇をカリスの耳元に寄せ、囁く。
「いいかい、カリス。これから僕たちは“愛し合う恋人たち”になるんだ。」
「へっ!?」
「仮面舞踏会、それもカップル限定のパーティーなら、
廊下でキスしてる恋人たちなんて日常茶飯事だよ。
ほら、来る途中にも見ただろう?あの、扉の前で延々とキスしてた二人。」
「た、確かに見ましたけど……あれを私たちも!?」
「そう。油断させるには、これが一番手っ取り早い。」
ノアーチェの唇が悪戯っぽく上がる。
「どれだけ“甘い空気”を出せるかは……君次第だよ、カリス?さっきみたいに僕をドキドキさせてごらん。」
(ひぃぃ!!自分から挑発してくるタイプだこの人ぉぉぉ!!)
⸻
「そ、そんな大役……で、でも、やるしかないっ!!」
拳を握って意気込むカリス。
ノアーチェはそんな様子にくすっと笑い、
「意気込む君も可愛いね。でも気を張りすぎないで。
それと――盗聴用の魔石は、さっきダンス中にザンジス宰相の側近のポケットへ忍ばせておいたよ。」
「!?」
(いつの間に!?さすがノア殿下、踊るだけでスパイ活動を完遂するなんて!!)
⸻
その時、遠くから足音が近づいてくる。
貴族たちが廊下を通る気配だ。
カリスは覚悟を決めると、ノアーチェを壁際に押し付けた。
その壁の向こう――ザンジス宰相たちの密談の声が微かに聞こえる。
ここなら会話を盗み聞きできる。
が、そのためには——演技を完遂する必要があった。
⸻
「殿下……お咎めならなんでも受けますので、どうかお許しを……!」
カリスは、ノアーチェの顎に手を添え、そのまま唇を重ねた。
驚いたように目を見開いたノアーチェだったが、
次の瞬間、彼の腕を掴み返し――
逆に舌を絡めてきた。
柔らかく、しかし深く。
そのキスは、演技を超えていて。
(まっまままって殿下!?深くなってます!!これ演技の域を超えてますからぁぁ!!)
だが、廊下の向こうを通り過ぎる貴族たちは、
ちらりと二人を見て頬を染め、微笑むだけだった。
「……お熱いわねぇ」「若いっていいわね」
誰も二人の存在を疑わない。完璧な“偽りの恋人”だった。
⸻
唇が離れた瞬間、二人の息が混ざる。
ノアーチェの紅い瞳が、カリスをまっすぐに見つめた。
「ん…。上出来だよ、カリス。今のキス、……本気だったね?」
「な、ななな何のことでしょう!?これは潜入任務です!そう、任務なんです!!」
「ふふっ……そういうことにしておこうか。」
ノアーチェの指先がカリスの頬をそっとなぞる。
(うわぁぁぁ!!理性が崩壊するぅぅぅ!!)
⸻
だが、その甘い空気の奥――
扉の向こうでは、ザンジス宰相の低い声が響いていた。
「……“次の輸送ルート”は、例の国境地帯から動かせ。あの騎士団には手を出すな。」
「はっ。では、殿下方への牽制は……?」
「もうすぐ“証拠”を消せる。あの小僧も一緒にな。」
ノアーチェとカリスは、視線を交わした。
その瞳には、甘さの奥に鋭い決意が宿っていた。
金糸の髪がふわりと舞い、スカートの裾が光を反射して咲き誇る。
(……本当に、綺麗すぎる……)
カリスは思わず息を呑んだ。
ターンをするたび、まるで舞い降りた女神が現れたようで、視線が離せない。
ノアーチェが微笑む。
その笑顔は月光のように柔らかく、そして——甘く危険だ。
(そ、その微笑みは反則ですノア殿下!!わたしの理性がっ……!はぁっ、落ち着け私!これは任務、任務!スーハースーハー……!)
そんなカリスの動揺を楽しむように、ノアーチェがくすりと笑う。
その直後、視線をすっとホールの隅へ。ザンジス宰相と側近たちが動き出していた。
ノアーチェとカリスは視線で合図を交わし、
誰にも気づかれぬようにホールを抜け出した。
夜風が吹き抜ける廊下、手を繋いだまま二人は静かに足を進める。
⸻
ノアーチェが唇をカリスの耳元に寄せ、囁く。
「いいかい、カリス。これから僕たちは“愛し合う恋人たち”になるんだ。」
「へっ!?」
「仮面舞踏会、それもカップル限定のパーティーなら、
廊下でキスしてる恋人たちなんて日常茶飯事だよ。
ほら、来る途中にも見ただろう?あの、扉の前で延々とキスしてた二人。」
「た、確かに見ましたけど……あれを私たちも!?」
「そう。油断させるには、これが一番手っ取り早い。」
ノアーチェの唇が悪戯っぽく上がる。
「どれだけ“甘い空気”を出せるかは……君次第だよ、カリス?さっきみたいに僕をドキドキさせてごらん。」
(ひぃぃ!!自分から挑発してくるタイプだこの人ぉぉぉ!!)
⸻
「そ、そんな大役……で、でも、やるしかないっ!!」
拳を握って意気込むカリス。
ノアーチェはそんな様子にくすっと笑い、
「意気込む君も可愛いね。でも気を張りすぎないで。
それと――盗聴用の魔石は、さっきダンス中にザンジス宰相の側近のポケットへ忍ばせておいたよ。」
「!?」
(いつの間に!?さすがノア殿下、踊るだけでスパイ活動を完遂するなんて!!)
⸻
その時、遠くから足音が近づいてくる。
貴族たちが廊下を通る気配だ。
カリスは覚悟を決めると、ノアーチェを壁際に押し付けた。
その壁の向こう――ザンジス宰相たちの密談の声が微かに聞こえる。
ここなら会話を盗み聞きできる。
が、そのためには——演技を完遂する必要があった。
⸻
「殿下……お咎めならなんでも受けますので、どうかお許しを……!」
カリスは、ノアーチェの顎に手を添え、そのまま唇を重ねた。
驚いたように目を見開いたノアーチェだったが、
次の瞬間、彼の腕を掴み返し――
逆に舌を絡めてきた。
柔らかく、しかし深く。
そのキスは、演技を超えていて。
(まっまままって殿下!?深くなってます!!これ演技の域を超えてますからぁぁ!!)
だが、廊下の向こうを通り過ぎる貴族たちは、
ちらりと二人を見て頬を染め、微笑むだけだった。
「……お熱いわねぇ」「若いっていいわね」
誰も二人の存在を疑わない。完璧な“偽りの恋人”だった。
⸻
唇が離れた瞬間、二人の息が混ざる。
ノアーチェの紅い瞳が、カリスをまっすぐに見つめた。
「ん…。上出来だよ、カリス。今のキス、……本気だったね?」
「な、ななな何のことでしょう!?これは潜入任務です!そう、任務なんです!!」
「ふふっ……そういうことにしておこうか。」
ノアーチェの指先がカリスの頬をそっとなぞる。
(うわぁぁぁ!!理性が崩壊するぅぅぅ!!)
⸻
だが、その甘い空気の奥――
扉の向こうでは、ザンジス宰相の低い声が響いていた。
「……“次の輸送ルート”は、例の国境地帯から動かせ。あの騎士団には手を出すな。」
「はっ。では、殿下方への牽制は……?」
「もうすぐ“証拠”を消せる。あの小僧も一緒にな。」
ノアーチェとカリスは、視線を交わした。
その瞳には、甘さの奥に鋭い決意が宿っていた。
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