男装悪役令嬢は、女装王子に溺愛される！？ー死刑回避のための男装ライフ、恋愛フラグが乱立中ー

恋人を演じる2人の密命

ザンジス宰相が主催する「慈善を装った仮面舞踏会」。
表向きは戦災孤児のための募金パーティーだが、裏では
「密輸ルートの契約」「資金洗浄」「反乱派への援助」などの闇取引が行われていると噂されている。

「その仮面舞踏会に、潜入しようと思っているんだ。」
ノアは紅い瞳を鋭くしながら、カリスとラスタに告げる。
「陛下の誕生祭であれだけの騒ぎを起こしたんだ…。当分の間は、向こうが刺客を仕向けてくることはないだろう。だからこそ、その隙を狙い、ザンジス宰相を追い詰める証拠を見つけ出す必要がある。」

ノアは真剣な顔で、計画を練る。
「この仮面舞踏会は、カップルでの参加が、絶対条件なんだ。」
ノアはカリスを見て笑う。
（なんだか、嫌な予感が…。）
「君と僕でカップルとして潜入しようと思う。もちろん、ノアーチェとカリスとしてね。」

1週間後ー。
ついに仮面舞踏会へと潜入する日になる。
控室の鏡の前。
カリスは燕尾服のネクタイをキュッと結びながら、緊張した面持ちで深呼吸をした。

（よし、落ち着け私。これは任務。決してデートじゃない。任務。任務…）

背後から、やけに軽やかな声が響く。

「ねぇカリス、どう？　このドレス、似合ってる？」

振り返った瞬間、カリスの脳が一瞬フリーズした。
煌めく金髪、淡いピンクのリボン、腰まで流れるシフォンのスカート。
完璧に仕上がったノア殿下は、女神そのもの。

（……美しすぎる…。どこの国の姫様！？！？！？）

「そんなに見つめられると、照れるなぁ。やっぱり惚れ直した？」
「いえ！あのっ！任務前に心臓を撃ち抜くのやめてもらっていいですか！？」
「あはは、だって“恋人設定”だよ？　慣れておかないと♡」

（軽やかにウインク）

「……殿下、そういうウインクの破壊力、犯罪級ですから！！」
「ふふ、捕まるなら君の心の中がいいな～
じゃあ僕を“ノアーチェ”って呼んでみて？」
「……え、いきなり！？（心の準備が……！）」
「“殿下”って呼ばれたらバレるでしょ？　はい、練習！」

「の、ノアーチェ……♡」
「うん、最高。あと5回くらい言って？」
「恥ずかしいから却下ですっ！！！」

ノアは楽しそうに笑いながら、そっとカリスのネクタイを直す。
その距離、指先が触れるほど近い。

「緊張してるね。」
「あ、当たり前ですよ！国家級任務ですよ！？仮面舞踏会で証拠取るとか、スパイ映画でも中盤クライマックスですよ！？」
「でも大丈夫。君がいるなら、僕はどんな敵にも勝てる。」
「……そんな真っ直ぐに言われたら、余計心拍数上がるんですけどぉぉ！！」

「あ、そうだ。任務成功の報酬、何がいい？」
「そうですね、無事に生きて帰れることとか……」
「じゃあ、僕と次のデート確定ね。」
「……ちょっと、殿下！？！？報酬が強制恋愛イベントなんですけど！？」
「ノアーチェ、だよ？」
カリス「……ぐっ……ノ、ノアーチェ様！！」（反射的に言っちゃったぁぁ！！）

ノアは満足そうに微笑み、白い仮面を装着する。
その紅い瞳は、仮面の奥でもなお輝きを放っていた。

＊＊＊

黄金のシャンデリアが夜空の星々のように輝き、
弦楽の旋律が静かに流れる。

扉が開かれた瞬間、全ての視線が一点に集まった。

白い仮面をつけた金髪の令嬢、ノアーチェ。
その隣に、群青の瞳を持つ美丈夫――カリス。

二人が並んだ瞬間、まるで“絵画の中の恋人”が現れたように、
会場の空気が一変した。

⸻

「……なんて美しい二人なの……！」
「まるで恋愛叙事詩の登場人物みたい……！」

⸻

カリスは、ノアーチェの腰にそっと手を添えた。
触れた瞬間、ドクンと心臓が跳ねる。

（落ち着け……今はカリス。男だ。ノア殿下――いや、ノアーチェ様を必ず守るんだ……！）

その決意に応えるように、ノアーチェが指先でカリスの手を優しく握り返す。
ほんの一瞬の仕草なのに、それだけで胸の奥がじんわり熱くなった。

「人気だね、僕たち。」
ノアーチェが、小声でカリスに話しかける。
「え、ええ……これは任務ですから、浮かれてる場合ではありません！」
「そうだね。でも、“恋人設定”を完璧に演じるには……もう少し距離を詰めた方がいいかも……？」

その囁きと同時に、ノアーチェがちらりと視線を送る。
それは明らかに――「腰を、引き寄せて？」というサインだった。

⸻

（わたしが、ノア殿下を、腰を……！？
よし、やるのよカリス！
前世で恋愛小説1000冊読破した私の知識を今こそ活かす時！！）

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意を決して、カリスはノアーチェの腰を抱き寄せ、
顔を近づけると――

「君の、その薔薇のように煌めく瞳が……愛おしい。好きだ。僕のそばから、離れないでくれ。」

そして、頰に軽くキス。

ノアーチェの瞳が一瞬大きく見開かれ、
そのあと頬がみるみる紅く染まる。

⸻

（よっしゃあああああ！！決まった！！セリフ完璧！！
ありがとう恋愛漫画界の偉大なる先輩たち！！）

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その瞬間、弦楽が高まり、
会場に甘い旋律が響いた。

舞踏会のメイン――ペアダンスの時間だ。

カリスはノアーチェの手の甲にキスを落とし、
そのまま会場中央へとエスコートする。

（私、今きっと顔真っ赤よ……でも、ここは“群青の王子”。私は女優、私はプロ、私は――生きる舞台装置！！）

ノアーチェの腰に手を添え、二人の身体がゆっくりと回転する。
視線を交わすたび、周囲の喧騒が遠のいていく。

ノアーチェの唇がふっと動き、カリスの耳元で囁く、
「上手だね……カリス。」
「れ、練習の成果です……！（漫画的な意味で！）」

そして、二人の指がぎゅっと絡み合う。
まるで“嘘の恋”を演じながら、
“本当の想い”を確かめ合うように――。