男装悪役令嬢は、女装王子に溺愛される!?ー死刑回避のための男装ライフ、恋愛フラグが乱立中ー

明夏 向日葵

文字の大きさ
40 / 47

王の裁きと紅の誓い

しおりを挟む
ノアの紅い瞳に映るのは、絶望の淵――。
ルイの剣が今まさに振り下ろされようとした、その時だった。

大広間に、重厚な声が響き渡った。

「――何事だ!」

その声を聞いた瞬間、場の空気が一瞬で凍りつく。
振り向いた貴族たちの間から、黒衣の衛兵たちを従えた男が現れる。
銀の王冠に刻まれた王家の紋章。
ノルヴィス王国の頂点、ルノス国王陛下だった。

「父上!?」
驚いたのはルイだ。だが、ノアは静かに微笑んでいた。
まるでこの状況を――最初から読んでいたかのように。

「ラスタ、よくやった」
人混みの陰から、ラスタが深く頭を下げる。
すべては、ノアが仕組んだ一手だった。

***

「父上、聞いてください!」
ルイは慌てて態度を改め、必死に言葉を並べ立てた。
「ノアが女装して国家機密の情報を捜査していたのです!
それに、このラービス・カリーナもラービス・カリスとして男装していた!
性別詐称は国家反逆罪にあたります!
ですから、父上のお手を煩わせるまでもないと思い、私が独断で――」

その瞬間、ぱしん、と乾いた音が大広間に響いた。
国王の手が、ルイの頬を打っていた。

「……それでもお前は、ノアの兄か!」

雷鳴のような叱声。
ルイは顔を押さえ、呆然と立ち尽くす。

「兄弟同士が殺し合うように育てた覚えはない。
それに、“私の名の下に処刑”するというなら、私に話の一つや二つあってもおかしくないだろう。
だが、何一つ報告はなかったな?」

ノクス国王の金の瞳が、鋭くルイを射抜いた。
「ノアが女装していたことはすでに知っている。彼はきちんと事情を説明した。
……だがな、私の名を勝手に使い、独断で刑を下そうとしたお前の方が――余程の罪だ!」

ルイは何も言えず、唇を噛むだけだった。

王はゆっくりとノアとカリーナの前に歩み寄った。
その瞬間、カリーナはノアの前に一歩出て、深く頭を下げた。

「陛下、すべては私の独断によるものです!
ノア殿下は何も関係ありません。
どうか、ノア殿下をお許しください。
私がすべての罪を背負います。極刑でも、死刑でも構いません……!」

声が震えていた。それでも真っ直ぐに国王を見上げるその瞳は、恐怖よりも誇りに満ちていた。

ノアはそんなカリーナを見つめ、首を横に振る。
「きみがいなきゃ……僕は生きていけない。僕を置いていくのか?」
彼の紅瞳から、ぽたりと涙が零れる。

「陛下……」
ノアはカリーナの手を握ったまま、膝を折る。
「彼女を処刑すると言うなら、私も共に処刑を……。彼女のいない世界など生きていけません。」

ルノス国王はしばらく二人を見つめ、深いため息をついた。
そして、静かに言葉を紡ぐ。

「……ルイの言う通り、確かに“性別詐称”は国家反逆罪に等しい。
だがな、ノアもカリーナ嬢も、国のために命を懸けて働いてくれた。
特にカリーナ嬢――そなたは民を守り、宰相の陰謀を暴いた。
その功績、王として讃えねばならぬ。」

ルノス国王の声が柔らかくなった瞬間、カリーナの肩の力が少し抜けた。

「よって――二人の死罪は免除する。」

大広間がどよめく。だが、王の言葉は続いた。

「だが、世間を欺いた罪は残る。
ラービス・カリーナ嬢。そなたには半年間、ノアの専属侍女として労役を命じる。
そしてノア、お前には半年の減俸と――女装捜査の禁止を命じる。」

「……えっ、禁止……?」
ノアがちょっとだけショックな顔をした。

カリーナは吹き出しそうになりながらも、深く頭を下げる。
「ありがたき幸せにございます、陛下。」

「承知いたしました、父上。」
ノアも、ほっと息をついて笑った。


怒涛の展開に、貴族たちはただ口を開けたまま立ち尽くす。
誰もが今の出来事を理解できずにいる中――

ルイは頬を押さえたまま、呆然と固まっていた。
マーガレットはというと、すでに騎士団の手により拘束され、
「ザンジス宰相隠蔽の罪」により、連行されていった。

場が静まり返る中、ノアはそっとカリーナの身体を抱き上げた。

「ちょっ、ノア殿下!? 歩けますので、降ろしてください~!」
「ダメだよ。もう二度、僕から離れないって言わせるためにも……」
ノアは真面目な顔のまま、くすっと笑う。
「僕が君をどれだけ愛してるか、ちゃんとわかってもらわないとね」

「も、もう……本当にずるいんだから……」
カリーナの頬が真っ赤に染まる。

二人は互いの額をそっと合わせ、
“生きていること”――その奇跡の温かさを噛み締めていた。

紅い瞳と蒼い瞳が交わる。
その瞬間、すべての悲劇はひとときの幸福に変わっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守護契約のはずが、精霊騎士の距離が近すぎて心拍がもちません―― 距離ゼロで溺愛でした。

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済:全8話⭐︎ ーー条項:心拍が乱れたら抱擁せよ(やめて) 村育ちの鈍感かわいい癒し系ヒロイン・リリィは、王都を目指して旅に出たはずが――森で迷子になった瞬間、精霊騎士エヴァンに“守護契約”されてしまう! 問題は、この騎士さまの守護距離が近すぎること。 半歩どころか背後ぴったり、手を繋ぐのも「当然」、心拍が乱れたら“抱擁条項”発動!? 周囲は「恋人だろ!」と総ツッコミなのに、本人たちは「相棒です!」で通常運転。 守護(と言い張る)密着が止まらない、じわ甘コメディ異世界ファンタジー!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

処理中です...