推しカプを愛でるために、悪役令嬢の私は壁姫になろうと思います!

明夏 向日葵

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壁姫、聖地(キャンパス)へ降臨します!

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ロイエンス王立魔導学院。
王族・貴族、そして選ばれし一部の特待生のみが通う、名門中の名門。
政治・剣術・魔導・礼儀・社交――さらには恋愛!?までもが、王国の未来を担う科目として教えられる。

そう――ここ、こそが、推しカプが恋を育む聖地!!

「ルチア様とシルビア様の青春がここで始まるのですわ……!!」

入学早々、ロゼリス・アーバートンは校門前で両手を胸の前で組み、熱く語っていた。
通りすがる新入生たちが「えっ誰あの人」「アーバートン家のご令嬢……?」とヒソヒソするが、本人は聞こえていない。

「ゲーム内のロゼリスは、この学院でルチア様をいじめて破滅ルート一直線でしたのよ!?でも私は違います! いじめなんて言語道断!罪悪!即破滅フラグですわ!!」

そう、ここは恋と青春のキャンパス。
推しカプ育成フィールド。
彼女の中では、もう完全に聖域指定済みである。

「まずは……まずは原作の初イベントを死守しなくては!」

ロゼリスの目が輝く。
入学初日に行われる、あの伝説の出会い。
“ルチア転倒→シルビアが支える”の神スチルイベント。

乙女ゲーム史に残る尊き邂逅。
通称、『お姫様抱っこ・黄金の微笑み事件』。

「ここでルチア様が転んで、シルビア様が抱きとめて……あぁっ!!あのスチルの再現度!尊すぎて息ができなかった……!!」

ロゼリスは木陰からこっそりと石畳を点検している。
腰をかがめ、段差を指でなぞり、何やらメモまで取っていた。

「段差チェック完了ですわ。尊い転倒は演出が命!」

※傍目には完全に不審者。

近くを通りかかった護衛騎士見習いが「……アーバートン嬢、何を?」と怪訝な顔をするが、彼女は聞こえない。
耳の中ではすでに“運命のBGM”が流れているからだ。

そして、運命の瞬間。

中庭を歩いてくる一人の少女。
淡い金髪に白いリボン。
陽の光を浴びてきらめく微笑。

「き、き、きたぁぁぁぁっっ!!!」

ロゼリスの心拍数が一気に跳ね上がる。
前世で何百回も見たスチルの主――ルチアルーアン、その人。

そして彼女の背後から、銀の髪をなびかせて現れた青年。
凛とした瞳。端正な顔立ち。白い制服が眩しい。

(シ、シルビア殿下ぁぁぁぁぁぁっっ!!!!)

ロゼリス、静かに壁に張り付く。
両手で壁を押さえ、顔だけひょっこり出すその姿は、もはや壁の一部。
息をひそめ、見守るその目は真剣そのもの。

そして、ルチアが足元の段差につまずいた。

「きたああああああああああああああ!!!!」

シルビアが素早く手を伸ばし、ルチアを抱きとめる。
時間がゆっくりになる。
光が差し込む。
美麗スチルまんまの構図。

ロゼリスの目には、二人の背後から後光が差して見えた。
キラキラと舞う花びら。尊みのオーラ。
もはや現実が二次元化している。

「お、推しが……動いてる……!?
実際に見る推しカプの威力……恐るべし……!!」

感極まったロゼリスは、鼻から鮮血を噴き、慌ててハンカチで押さえる。
彼女の足元に、ぽたり、と赤い一滴。

「ルチア様ぁ……尊いですわ……シルビア様も……あぁ、光背が見える……」

涙ぐみながら壁に溶け込む令嬢。
周囲の生徒はざわめき、誰もが距離を取る。

「おい……あれ、アーバートン家のご令嬢じゃないか?」
「なんで壁と一体化してるの……?」
「……怖い」

だが、本人は至福の笑みを浮かべたまま、動かない。

(あぁ……これが、生きる意味……推しが同じ空間で呼吸してるなんて……)

学院初日。
ロゼリス・アーバートンは、誰よりも尊く、誰よりも危険な壁姫として――その名を刻んだのだった。
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