籠の鳥

橘 薫

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馴れ合いは傲慢となる

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 一真くんとの共同生活は、年が変わっても続いた。
「美彩さん、ご実家とか帰らないんですか」
「うん、もう何年も帰ってないし」

 そう答えると不思議そうな顔をして見る。なに、と聞くと「帰るところがあるのに帰らないって、不思議だなって思って」と言われ今度はこちらが答えに困る。
 愛児園で育った彼は、帰るべき家、実家、というものがないのだから、わたしのような人間を理解できないのだろう。

 私の仕事は年末年始は休みだけれども、一真くんは大晦日のギリギリまで働いていた。お正月は休みなの? と聞くと、元旦だけが休みだと言う。
 じゃあ、年越し蕎麦一緒に食べて、初詣でも行こうか、と誘うと嬉しそうに大きく頷く。その様子は、まるで仔犬が尻尾をぶんぶんと振っている様子と同じだ。

 イブの日、わたしと彼は一緒に暮らし始めてから初めて、互いの欲を見せ合った。正確には、わたしは見せてはいないけれども。わたし自身の昂りと、少々特殊なこの性癖は彼の痴態で充分に満足したのだ。

 一真くんの、わたしに対する態度が変わるかと思った。でも彼は、変わらずだった。一息つくとシーツを汚したことを詫び、わたしが足の拘束を解くと「めっちゃ気持ち良かったです」と恥ずかしそうに言い、シーツを取り替えてくれた。

 正直、その後の彼の出方によってはもう追い出すしかないと覚悟を決めていたから、肩透かしを食らった気分だった。
 普通の若い男の子なら、例え一度は自分で達しても、まだ収まらない欲をぶつけようとしてくるのではないか。そのときは、力では敵うはずがないのだから警察を呼ぶか、それとも、と頭の中でシミュレーションしていたのだ。でもそれは不要だった。

 一真くんは言った。僕、セックスってよくわかんないのかもしれないです。美彩さんを抱きたいか、って言われたら……わかんないんですよ。魅力的だとは思うし、素敵だと思ってます。けど、僕如きが抱いちゃいけない人だ、って制御しちゃうんですよ、と。

 それに、と一真くんは微笑む。
 手足の自由を奪われて、見られて、っていうのがこんなに気持ち良いなんて思っても見なかったです、と……。
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