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第2話 全世界に狙われる男
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「と、言う訳で、、、もうすぐ此処に人間の皮を被った怪物達が集まってくる。多分マルコの身体じゃ戦闘の余波を受けただけで木っ端みじんだから急いで逃げな」
ルチアーノは拡声器を降ろし、笑顔で振り返って言った。
その笑顔は一切曇り無く、初めて話掛けられた時と何ら変わらないフレンドリーの極みである。
しかし、この時のマルコにはその言葉を受け入れる脳のキャパシティーが残されていなかった。つい先程明かされた驚愕のカミングアウトで脳内はパンク寸前だったのだ。
(こッ、、、この青年がウチのボス!? こんな辺境の地にレヴィアスの頂点が来る訳、、、だが先程の神業を見せ付けられれば疑う余地は無い! この青年が生ける伝説、ルチアーノ・バラキア!!)
ルチアーノ・バラキア、その名前を裏社会・表社会問わず知らぬ者がいない伝説のマフィアである。
現在最大規模を誇るビッグマフィア『レヴィアスファミリー』のボスであり、政府・マフィア問わず100度の戦争を仕掛け無敗の男。
個人でシチリアーノ政府軍を殲滅し四つの区を占領した、懸賞金は国が保有している総資産の合計よりも高い、政府軍の全兵力を結集させても足止めにしか成らない等々の伝説を保持している。
その中でも最も有名な伝説、其れは『破帝落しの英雄伝説』である。
『破帝』とは嘗てシチリアーノ全土を無秩序で覆い尽くし、裏社会と表社会を一年で引っ繰り返した史上最強のマフィア集団『サンフェルノファミリー』の頂点に君臨していた男の異名。
そしてそのサンフェルノファミリーに最後まで抵抗したのがルチアーノであった。
嘗てのルチアーノは政府軍・マフィア関係無く反サンフェルノ勢力を結集させ、一ヶ月の総力戦の末に『破帝』を討伐したのだった。
そしてルチアーノはサンフェルノファミリーから最大ファミリーの座を奪い、現在最も危険視されるマフィアへと上り詰めた。
見ようによっては無法の時代を食い止めた英雄、しかし少し視点を変えれば今の混沌とした時代の元凶でもある。
光と闇、両方の側面を持った今の時代を象徴する英雄。其れがルチアーノ・バラキアなのだ。
(そんな天上の存在がこんな目の前に! わ、ワシは何て事を・・・ッ!!)
時間経過によって若干動揺から解放されたマルコの脳味噌は、数分前にボスに対して行ってしまった無礼過ぎる言動をクローズアップする。
『・・・恨むんならこの状況を生み出した上の連中を恨むんじゃな。ボスがドラッグの販売を禁止するからこんな事に、、、金さえ有れば、、、』
露骨にレヴィアスファミリーが行っている現在の政策に不満を表した、部下として反意が有ると受け取られても仕方が無い発言。
とてもマルコの様な構成員に数えられているのかどうかも分からない、最下級マフィアが口にして良い内容では無い。この場で殺されても文句を言えない大罪だ、、、
「さ、先程はとんでもない無礼をッ!!」
考えるよりも早く地面に額を押しつけていた。
「今更無様に弁解して貴重なお時間を取らせるつもりはありませ!! しかし一つだけッ!! 一つだけこの命と引き換えに願えるのならッ!! 妻と双子の息子の命だけはッ見逃して頂けないでしょうか!!」
マルコはもう自分の命は諦め、家族の命だけでも守ろうと必死に額を擦りつける。
しかしその姿を見て慌てたのはルチアーノの方だった。
「ちょ、オッサン!! そんなの良いから急いで逃げろって!!」
此処は後数秒で怪物達の密集地帯へと変貌する。
碌な力も無いマルコが残り続ける事は、ワニの池に鶏を放り投げる様な物である。流石のルチアーノも無傷で守り切る事は困難であった。
しかしマルコは擦りつけるのを辞めようとしない。
「いえッ!! 自分のした行いに目を瞑って逃げるつもりは毛頭有りません!! 然るべき裁きを、、、」
「良いから逃げろ、、、」
ルチアーノが無理矢理頭を上げさせようとした瞬間、辺りが突然暗くなって空気に殺意が充満する。
「ほら~、もう来ちゃったじゃんかッ、、、」
ルチアーノの言葉を遮るようにズガァン!!という轟音を迸らせ、凄まじい威力の一撃が頭部に叩き込まれた。
そして彼の姿は衝撃波によって吹飛ばされた土煙と瓦礫の中に飲み込まれていく。
ルチアーノの頭部に叩き込まれた衝撃の正体は一トン以上有りそうなコンクリートの塊。
鼠色で長方形のコンクリートに鉄パイプが突き刺さっている無骨な棒アイス状の物質。
そしてその武器とも形容し難い物質を振り下ろしたのは、腰に布切れ一枚付けた2メートル超の大男。目は少量の血が付着した布で隠され、その下にある口からは呻き声と煙を出している。
「グルゥゥゥゥゥッ! フッフッ!!」
大男は涎を垂らしながら荒い息を上げ、殺人の余韻を噛み締める様に小さく頷いた。
地面が揺れ、衝撃でクレーターが出現する様な攻撃。当然直撃した人間が生存している可能性はゼロだ。
「・・・フッ、、、ウワァァァァッ!!」
マルコが現実を認識し、悲鳴を上げるまで若干のタイムラグが生じた。
だが其れも当然だろう。地面の揺れと轟音を感じ頭を上げると、さっきまで目の前にいたボスが消えて代わりに人間かどうかも分からない大男が血の付いたコンクリートを持って呻き声を上げている、、、
此れを即座に現実だと理解出来る者がこの世に存在するだろうか。
そして『ボスがこの大男に叩き潰されて殺された』という結論に至った瞬間、恐怖は身体の力を奪い膝から崩れ落ちてしまった。
まさかこれ程短いスパンで腰を抜かす事に成るなど、今朝のマルコは思いもしなかっただろう。
「アァ、、、アアーッ!!」
マルコは震えるばかりで全く言う事を聞かない足を手で引き摺り、少しでも大男から逃げようと後退る。
だが意味も無く口から擦れ声の絶叫が漏れ出て、その声が大男の注意を自らに引き寄せてしまった。
「グギギッ!! グモオオオッ!!」
大男は次の獲物を発見して興奮の雄叫びを上げた。
そして新しい地面の染みを増やすため、手に持った巨大なコンクリート塊を振り上げる。しかしその拍子抜けする軽さに思わず前へ蹌踉めいてしまった。
「グウッ?」
大男は身体に似合わない可愛らしい声を上げ、自分が右手に持っている物質を見る。
其処に握られていたのは、コンクリート部分が殆ど切断されて持ち手だけに成った自分の愛武器であった。
「はあ~、、、だからさっき逃げろって言っただろ? ちゃんと直ぐに俺の言うこと聞いてればこんなガチムチの化け物見なくて済んだのに」
大男が武器の異変に気が付いた瞬間、砂煙の中から声がした。
ルチアーノの声である。
「あちゃー、多分アレ気が動転して聞いて無いな」
コンクリートを叩き付けられる前と一切変わらない声が響いた頃、ようやく砂煙が風にさらわれてルチアーノの姿が現われる。
彼の周辺には一辺10センチに揃えられた無数のコンクリート片が転がっていた。
「でも有る意味運が良いな。本物が来てたら即座に逃げても巻き添えで死んでたかも知れないし」
ルチアーノは背後の大男などお構いなしといった感じで悠然と歩き始める。
一方の大男は調子が狂った様に頭を掻き、それから次は拳で頭部を叩き潰す為に右手を振り上げた。
しかしルチアーノは全く振り返ろうとしない。
真っ直ぐにマルコへ向かって歩きながら独り言を呟き続ける。
大男は狙いを定め終え、遂にスイカと同等のサイズを誇る拳に全身の体重を乗せて振り下ろした。
しかし、拳の進行はルチアーノの頭部目前で停止した。
「ギウギィ?」
大男は突然動かなくなった身体に違和感を覚え、驚きとも困惑とも取れる声を上げる。
そして、頭頂から股間に掛けて一直線に切り裂かれた。
「ヒッ、ヒィィィィッ!!」
マルコは二枚に両断され、内臓をぶちまける赤い噴水に変化した大男を見て絶叫する。
理解の外側の出来事が途轍もないスパンで起き、彼の情緒は既に崩壊していた。
「あはは、少し刺激が強すぎたかな?」
ルチアーノは目玉がこぼれ落ちんばかりに顔面を歪ませて絶叫するマルコに苦笑いを向けた。
しかし返答も反応も無い。どうやら本気で肝が潰れたらしい。
「仕方ない。本当は行動の自由を奪ってるみたいでやりたくないんだけど、、、もっとヤバいのが来たら守りきれないからな」
ルチアーノは「ひゃああああッ!!」と絶叫し続けるマルコの横顔の近くに顔を近づけ、囁く様に声を吹き込んだ。
「『逃げろ』」
その声に込められていたのは先程一瞬で街全体の殺意を沈めた最強の威風。
これは最早声では無い、人間の脳に何を差し置いてでも実行しなくてはならないモノとして刻まれる至上命題。
その声を聞いた瞬間、絶叫して失禁を繰り返していたマルコがスッと立ち上がる。
そして身体を180°反転させ、一目散に安全な後方へ逃げ帰って行った。
「・・・ギリギリ間に合ったかな。後は俺が此奴らを皆殺しにすれば戦争終了だ」
ルチーノは真っ直ぐに逃げていくマルコの背中を数秒眺めた後、ゆっくりと背後を振り返りながら言った。
その目に映ったのは殺気を身体から拭きだし、ジリジリと距離を詰めるグレイズファミリーの兵士達。
良くこれ程の人数がこの短時間で集まった物だ、敵ファミリーの行動力と判断速度に拍手を送りたい位だ。
「う~ん、良い子なだけで本物はいないな。だけどデカい声で皆殺しにしてやるって約束しちゃったし、、、」
ルチアーノは値踏みする様に殺気溢れる数十人の敵兵士を眺め、ゆっくりと一歩踏み出した。
しかしその瞬間、瞬き一つの間に敵兵士の一人がルチアーノとの距離を詰める。
「シッ!!」
鋭く息を吐き出す音と共に右手に持ったコンバットナイフを首元に突き出す。
そして、ナイフごと細切れにされ血煙に変化した。真っ赤なミストがルチアーノの身体をしっとりと濡らしていく。
「可哀想だけど、、、マフィアは信頼が資本なんでね」
ルチアーノは血に全身を濡らしながら敵にニイッと凶暴な笑みを向けた。
敵は先程起きた訳の分からない仲間の死と、自分達とは厚みが違う血の匂いを纏った笑みに動けなくなる。
「約束通り皆殺しだ。来ないから此方から行くぞ、グレイズの駄犬共ッ!!」
ルチアーノは拡声器を降ろし、笑顔で振り返って言った。
その笑顔は一切曇り無く、初めて話掛けられた時と何ら変わらないフレンドリーの極みである。
しかし、この時のマルコにはその言葉を受け入れる脳のキャパシティーが残されていなかった。つい先程明かされた驚愕のカミングアウトで脳内はパンク寸前だったのだ。
(こッ、、、この青年がウチのボス!? こんな辺境の地にレヴィアスの頂点が来る訳、、、だが先程の神業を見せ付けられれば疑う余地は無い! この青年が生ける伝説、ルチアーノ・バラキア!!)
ルチアーノ・バラキア、その名前を裏社会・表社会問わず知らぬ者がいない伝説のマフィアである。
現在最大規模を誇るビッグマフィア『レヴィアスファミリー』のボスであり、政府・マフィア問わず100度の戦争を仕掛け無敗の男。
個人でシチリアーノ政府軍を殲滅し四つの区を占領した、懸賞金は国が保有している総資産の合計よりも高い、政府軍の全兵力を結集させても足止めにしか成らない等々の伝説を保持している。
その中でも最も有名な伝説、其れは『破帝落しの英雄伝説』である。
『破帝』とは嘗てシチリアーノ全土を無秩序で覆い尽くし、裏社会と表社会を一年で引っ繰り返した史上最強のマフィア集団『サンフェルノファミリー』の頂点に君臨していた男の異名。
そしてそのサンフェルノファミリーに最後まで抵抗したのがルチアーノであった。
嘗てのルチアーノは政府軍・マフィア関係無く反サンフェルノ勢力を結集させ、一ヶ月の総力戦の末に『破帝』を討伐したのだった。
そしてルチアーノはサンフェルノファミリーから最大ファミリーの座を奪い、現在最も危険視されるマフィアへと上り詰めた。
見ようによっては無法の時代を食い止めた英雄、しかし少し視点を変えれば今の混沌とした時代の元凶でもある。
光と闇、両方の側面を持った今の時代を象徴する英雄。其れがルチアーノ・バラキアなのだ。
(そんな天上の存在がこんな目の前に! わ、ワシは何て事を・・・ッ!!)
時間経過によって若干動揺から解放されたマルコの脳味噌は、数分前にボスに対して行ってしまった無礼過ぎる言動をクローズアップする。
『・・・恨むんならこの状況を生み出した上の連中を恨むんじゃな。ボスがドラッグの販売を禁止するからこんな事に、、、金さえ有れば、、、』
露骨にレヴィアスファミリーが行っている現在の政策に不満を表した、部下として反意が有ると受け取られても仕方が無い発言。
とてもマルコの様な構成員に数えられているのかどうかも分からない、最下級マフィアが口にして良い内容では無い。この場で殺されても文句を言えない大罪だ、、、
「さ、先程はとんでもない無礼をッ!!」
考えるよりも早く地面に額を押しつけていた。
「今更無様に弁解して貴重なお時間を取らせるつもりはありませ!! しかし一つだけッ!! 一つだけこの命と引き換えに願えるのならッ!! 妻と双子の息子の命だけはッ見逃して頂けないでしょうか!!」
マルコはもう自分の命は諦め、家族の命だけでも守ろうと必死に額を擦りつける。
しかしその姿を見て慌てたのはルチアーノの方だった。
「ちょ、オッサン!! そんなの良いから急いで逃げろって!!」
此処は後数秒で怪物達の密集地帯へと変貌する。
碌な力も無いマルコが残り続ける事は、ワニの池に鶏を放り投げる様な物である。流石のルチアーノも無傷で守り切る事は困難であった。
しかしマルコは擦りつけるのを辞めようとしない。
「いえッ!! 自分のした行いに目を瞑って逃げるつもりは毛頭有りません!! 然るべき裁きを、、、」
「良いから逃げろ、、、」
ルチアーノが無理矢理頭を上げさせようとした瞬間、辺りが突然暗くなって空気に殺意が充満する。
「ほら~、もう来ちゃったじゃんかッ、、、」
ルチアーノの言葉を遮るようにズガァン!!という轟音を迸らせ、凄まじい威力の一撃が頭部に叩き込まれた。
そして彼の姿は衝撃波によって吹飛ばされた土煙と瓦礫の中に飲み込まれていく。
ルチアーノの頭部に叩き込まれた衝撃の正体は一トン以上有りそうなコンクリートの塊。
鼠色で長方形のコンクリートに鉄パイプが突き刺さっている無骨な棒アイス状の物質。
そしてその武器とも形容し難い物質を振り下ろしたのは、腰に布切れ一枚付けた2メートル超の大男。目は少量の血が付着した布で隠され、その下にある口からは呻き声と煙を出している。
「グルゥゥゥゥゥッ! フッフッ!!」
大男は涎を垂らしながら荒い息を上げ、殺人の余韻を噛み締める様に小さく頷いた。
地面が揺れ、衝撃でクレーターが出現する様な攻撃。当然直撃した人間が生存している可能性はゼロだ。
「・・・フッ、、、ウワァァァァッ!!」
マルコが現実を認識し、悲鳴を上げるまで若干のタイムラグが生じた。
だが其れも当然だろう。地面の揺れと轟音を感じ頭を上げると、さっきまで目の前にいたボスが消えて代わりに人間かどうかも分からない大男が血の付いたコンクリートを持って呻き声を上げている、、、
此れを即座に現実だと理解出来る者がこの世に存在するだろうか。
そして『ボスがこの大男に叩き潰されて殺された』という結論に至った瞬間、恐怖は身体の力を奪い膝から崩れ落ちてしまった。
まさかこれ程短いスパンで腰を抜かす事に成るなど、今朝のマルコは思いもしなかっただろう。
「アァ、、、アアーッ!!」
マルコは震えるばかりで全く言う事を聞かない足を手で引き摺り、少しでも大男から逃げようと後退る。
だが意味も無く口から擦れ声の絶叫が漏れ出て、その声が大男の注意を自らに引き寄せてしまった。
「グギギッ!! グモオオオッ!!」
大男は次の獲物を発見して興奮の雄叫びを上げた。
そして新しい地面の染みを増やすため、手に持った巨大なコンクリート塊を振り上げる。しかしその拍子抜けする軽さに思わず前へ蹌踉めいてしまった。
「グウッ?」
大男は身体に似合わない可愛らしい声を上げ、自分が右手に持っている物質を見る。
其処に握られていたのは、コンクリート部分が殆ど切断されて持ち手だけに成った自分の愛武器であった。
「はあ~、、、だからさっき逃げろって言っただろ? ちゃんと直ぐに俺の言うこと聞いてればこんなガチムチの化け物見なくて済んだのに」
大男が武器の異変に気が付いた瞬間、砂煙の中から声がした。
ルチアーノの声である。
「あちゃー、多分アレ気が動転して聞いて無いな」
コンクリートを叩き付けられる前と一切変わらない声が響いた頃、ようやく砂煙が風にさらわれてルチアーノの姿が現われる。
彼の周辺には一辺10センチに揃えられた無数のコンクリート片が転がっていた。
「でも有る意味運が良いな。本物が来てたら即座に逃げても巻き添えで死んでたかも知れないし」
ルチアーノは背後の大男などお構いなしといった感じで悠然と歩き始める。
一方の大男は調子が狂った様に頭を掻き、それから次は拳で頭部を叩き潰す為に右手を振り上げた。
しかしルチアーノは全く振り返ろうとしない。
真っ直ぐにマルコへ向かって歩きながら独り言を呟き続ける。
大男は狙いを定め終え、遂にスイカと同等のサイズを誇る拳に全身の体重を乗せて振り下ろした。
しかし、拳の進行はルチアーノの頭部目前で停止した。
「ギウギィ?」
大男は突然動かなくなった身体に違和感を覚え、驚きとも困惑とも取れる声を上げる。
そして、頭頂から股間に掛けて一直線に切り裂かれた。
「ヒッ、ヒィィィィッ!!」
マルコは二枚に両断され、内臓をぶちまける赤い噴水に変化した大男を見て絶叫する。
理解の外側の出来事が途轍もないスパンで起き、彼の情緒は既に崩壊していた。
「あはは、少し刺激が強すぎたかな?」
ルチアーノは目玉がこぼれ落ちんばかりに顔面を歪ませて絶叫するマルコに苦笑いを向けた。
しかし返答も反応も無い。どうやら本気で肝が潰れたらしい。
「仕方ない。本当は行動の自由を奪ってるみたいでやりたくないんだけど、、、もっとヤバいのが来たら守りきれないからな」
ルチアーノは「ひゃああああッ!!」と絶叫し続けるマルコの横顔の近くに顔を近づけ、囁く様に声を吹き込んだ。
「『逃げろ』」
その声に込められていたのは先程一瞬で街全体の殺意を沈めた最強の威風。
これは最早声では無い、人間の脳に何を差し置いてでも実行しなくてはならないモノとして刻まれる至上命題。
その声を聞いた瞬間、絶叫して失禁を繰り返していたマルコがスッと立ち上がる。
そして身体を180°反転させ、一目散に安全な後方へ逃げ帰って行った。
「・・・ギリギリ間に合ったかな。後は俺が此奴らを皆殺しにすれば戦争終了だ」
ルチーノは真っ直ぐに逃げていくマルコの背中を数秒眺めた後、ゆっくりと背後を振り返りながら言った。
その目に映ったのは殺気を身体から拭きだし、ジリジリと距離を詰めるグレイズファミリーの兵士達。
良くこれ程の人数がこの短時間で集まった物だ、敵ファミリーの行動力と判断速度に拍手を送りたい位だ。
「う~ん、良い子なだけで本物はいないな。だけどデカい声で皆殺しにしてやるって約束しちゃったし、、、」
ルチアーノは値踏みする様に殺気溢れる数十人の敵兵士を眺め、ゆっくりと一歩踏み出した。
しかしその瞬間、瞬き一つの間に敵兵士の一人がルチアーノとの距離を詰める。
「シッ!!」
鋭く息を吐き出す音と共に右手に持ったコンバットナイフを首元に突き出す。
そして、ナイフごと細切れにされ血煙に変化した。真っ赤なミストがルチアーノの身体をしっとりと濡らしていく。
「可哀想だけど、、、マフィアは信頼が資本なんでね」
ルチアーノは血に全身を濡らしながら敵にニイッと凶暴な笑みを向けた。
敵は先程起きた訳の分からない仲間の死と、自分達とは厚みが違う血の匂いを纏った笑みに動けなくなる。
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精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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