キング・オブ・アウト ～半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す！！

第24話 ディーノの誕生日

　10月3日の朝、ディーノは浮かない表情で窓の外を見ていた。

　今日は彼の誕生日、一年で一度だけ外出する事を許される特別な日。

　しかし少年は窓に顔を押しつけて、浴びれば気持ちが良いに違いない日差しがサンサンと降り注ぐ外の世界を唯黙って眺める事しか出来ない。



「如何してパパは来てくれないの？　去年も、その前も誕生日の日だけは一緒に居てくれたのに、、、」



　ディーノは拗ねた様に唇をとがらせる。

　その表情をトムハットは意暖まれない表情で見詰め、数秒間言葉を探して口をモゴモゴさせた後に纏まらない言葉を吐き出した。



「あぁ、、、済まない、ディーノ。ボスは本当にお前と誕生日を過ごす為にッ、色々と仕事を片付けて、予定を入れない様に管理をしていたんだ。だが急に、まさかこの日に攻め来る必要も無いのに、、、グレイズとベリアスが大規模侵攻を行ってきたんだ」



　本当に運が悪かったとしか言いようが無い出来事。

　ディーノが家で過ごせる最後の日、そしてルチアーノがディーノと顔を合わせて言葉を交わせる最後の日に敵対しているファミリーが未だ嘗て無い規模の攻撃を行ってきたのだ。



「ボスも、敵が攻め来た時の事は考えていて、、、そのために予め多くの兵士を前線に送っていたし、停戦を盛り込んだ条件付きの条約批准を求めていた。だがッ、突然二つのファミリーが示し合わせた様に、同時に大群を送ってきた。しかもほぼ全ての敵幹部達が出撃している、、、ボスが前線に出向かないと対処が困難で、、、仕方なく、、、」



　トムハットは何を言っても言葉が言い訳にしか聞こえず、そして自分が何を言ってもディーノが負った心の傷は癒やされないと悟った。

　この大切な日に襲撃してきたグレイズとベリアスに倒して憎しみを覚え、息子の様に思っている少年の小さな願い一つ叶えてあげられない弱い自分が恨めしくて仕方がない。



「済まないディーノ、、、お前との約束を踏みにじった、大人達の勝手な事情を許してくれッ」



　始めから自分にディーノの心を慰める言葉など出せるわけが無いと気付き、トムハットは強くディーノを抱きしめる。

　意味が無いと分かっていても、強く強く抱きしめた。



「ぱぁ、パパとッ、パパと一緒に外出するって約束、、、したんだぁ。ずっと、何年も前から約束してッ。うぅッ、約束してのにぃ!! うぁぁぁぁんッ！！」



　トムハットの腕の中でディーノは涙を流し始めた。



　彼も父がやむ負えない理由で来れないという事は理解している。

　しかし、だからと言って悲しみが消える訳では無い。

　ディーノにとってこの日は普通の誕生日では無い、ルチアーノと一緒に過ごせる最後に日であり彼の短い人生の中で一番楽しみにしていた日だ。

　『仕方ない』で済ませる事など断じて出来ないのである。



「ねえ、トムハット。僕はもうパパには会えないの？　パパに会えないままッ何処か遠くに行かないといけないの？？　そんなのぼくッいやだよぉ、、、」



「グゥッ、、、！」



　少年の純粋な言葉がトムハットの心を串刺しにして、息も出来ないほどの激痛が胸の奥から迸る。

　当然答えは分かっている、例え親子が分かれの言葉を交わせていなかったとしてもディーノが家を出る事は変わらない。

　しかし、そんな残酷過ぎる言葉を発する事など絶対にできない！！



　結局トムハットは何も言葉を発する事は出来ず、二人は抱き合って互いに涙を流しながら一時間の時が流れた。

　時刻はもう正午である。



「・・・ディーノ、そろそろ昼食の時間だ。ボスがお前の為に豪華な料理を大量に用意してくれている、、、ローストチキンもオムライスも、アイスクリームもだ。腹を膨らませれば、少しは気持ちが和らぐかもしれない」



　トムハットはディーノを包んでいた両腕を解き、小さく震えている肩を優しく掴んで言った。

　涙がいっぱいに詰まった両目を無理矢理まげて笑顔を作るトムハットの顔を見て、ディーノも弱々しく笑顔を作って頷く。



「よし、じゃあ下の階に行こうか」



　二人は手を繋いで立ち上がり、ゆっくりと家の隅々まで目に焼き付けながら食堂に向かった。

　こうして一緒に家の中を見て回れる時間も残りわずか、手すりの触感・木の匂い・軋む床の音・壁に着いた染みまでもが名残惜しい。

　ディーノは幾度と無くこの窮屈な家を飛び出して、自由に外の日差しを浴びながら生きてみたいと思っていたが、もう帰って来れないとなって初めて自分がどれだけこの家を愛していたか痛感した。

　全てのものが涙腺を刺激する。



　そして一階に降りる為の階段に辿り付き、一歩ずつ噛みしめる様に会談を下りていく。

　この階段でトムハットの涙腺が再び限界を迎えた、嘗て幼いディーノと一緒にこの会談を上った時の思い出がフラッシュバックしたのだ。



「本当に、、、大きくなったな、、、」



　トムハットは隣で目の下を赤くしながら階段を一歩一歩下りていく少年の顔を見た。

　初めてディーノに会った時は未だよちよち歩きで、この階段を不安定な足取りで背中を支えながら一緒に上ったものである。

　それが今や自分の助けなしで、余裕の足取りで階段を下りている事がもう溜まらなかった。

　出来る事ならこの先も成長を見届けたかったが、其れが不可能であるという事実が何よりも苦しいのだ。



　トムハットの視界が再び涙で埋まり始めたその時、階段の先にある屋敷の玄関がスッと開いた。

　そしてディーノが繋いでた手を放し、風の様に会談を駆け下りながら叫けぶ。



「パパだッ、パパが来た！！！！」



　ディーノは一段飛ばしで駆け下り、最後は三段上から飛び降りて平いた扉へ向かって走り寄る。

　そして完全に扉が開ききり、家の中に入り込んできた外界の光に包まれた人物をみてトムハットは息を吞んだ。

　その人物はディーノを受け止めて後方に転がる。



「ハハッ、ただいまディーノ。約束通り帰って来たぜ」



　その人物とは、現在二つのファミリーを相手に戦いの真っ最中である筈のルチアーノであった。