キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第25話 最後の外出

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「ディーノの奴、デカく成ったな。俺にはまだ初めて物に掴まらず、一人で立った光景が昨日の様に感じるのに」



「全くです。まるで私達とは時間の流れが異なっているような」



 ルチアーノとトムハットは喫茶店の外に置かれたベンチに腰掛け、町の中を興奮した面持ちで走り回るディーノの姿を見ていた。

 一年ぶりの外の世界を体全体で満喫している。



「変わってましたね。ディーノが入りたがる店は、、、」



「ああ、外の世界の物は何でも新鮮に感じているんだろうな。民家にだって興味を示した位だ」



 ルチアーノとトムハットはディーノが入りたいと言った場所には極力入らせてやったが、流石にただの民家を指さした時は止めた。

 ディーノが入りたがる店は玩具屋やお菓子屋などの子供が好きそうな場所では無く、空気が埃っぽい古本屋、傍目には違いが分からない同じ見た目の革靴が大量に並んだ靴屋、奇妙でグロテスクな物体が大量に吊るされている漢方屋などの風変りな場所ばかりである。

 昼食も屋敷に用意されていた大量の料理を放置して外食にしたのだが、ディーノが選んだ店は薄暗く酒臭い酒場であった。



「恐らくディーノが求めているのは具体的な物体じゃなく、非日常的な体験なんでしょうね。ダンジョンを冒険している気分なんでしょう」



「はは、ならコレはダンジョンに隠された神秘の秘宝か」



 そう言ってルチアーノはお土産に買った大量のガラクタを持ち上げる。

 ピカピカな革靴、ヒスイの勾玉、古びたメモ帳、乾燥してミイラになったトカゲなど大人には何が良いのか分からない様な物ばかり。



「多分これ自体に意味が有るんじゃなく、今日の日の記憶を思いだす為の切っ掛けとして大切な物なんだろうな」



「そうですね、、、」



 ルチアーノの言葉に同意を示し、数秒間の沈黙が流れる。

 そしてトムハットはディーノがショーケースに入れられた商品に注意を引かれている間に、ずっと気に成っていた質問を投げ掛けた。



「ボス、何でこんなにも早く戻って来れたんですか?」



 ルチアーノは現在当然の様にトムハット・ディーノと同じ空間に存在し、同じ空気を吸って同じ日差しを浴びている。

 しかし此れは本来有り得ない事だ、現在レヴィアスファミリーは歴代に受けた侵攻の中でも指折りの規模を誇る攻撃を受けている戦争中だ。

 当然レヴィアスファミリーの大将であるルチアーノが前線から遠く離れたこの場所にいて良い訳が

無く、彼がいなければ冗談抜きに戦力が半減してしまう。



「・・・俺の人生で初めての我儘を通してもらった。オーウェンもディオンもアンベルトまでも、俺にディーノの元へ行けって言ってくれてさ。本当は許されない事なんだが、ついつい息子の顔を最後に一目見たいっていう欲望に負けちまった」



 ルチアーノは複雑な笑みを浮かべた。

 その笑顔はまるで、息子の事に成るとここまで非理性的な行動を取てしまう自分に呆れ、同時に息子の為に非理性的な行動を取れた自分を嬉しく思っている様な笑顔。

 正真正銘、父親の笑顔である。



「他の幹部達は、ディーノが明日ライオネル・ウィンザーの元へ修行に入る事は、、、」



「いや、知らない筈だ、、、だが全員俺がディーノと誕生日を一緒に過ごす約束を知っててくれたようでな。特攻に近い攻撃を見せて三人合わせて五人の幹部を仕留めやがった、ほんと馬鹿な弟子達だよ。其処まで馬鹿な働きをしてもらったら、頼らない訳にはいかないだろ」



 ルチアーノは嬉しそうに笑う。

 初めて会った時には考えられない様な人間的で、暖かい笑顔にトムハットは衝撃を覚えた。

 ディーノが生まれた事でルチアーノの何かが大きく変化したのだろう。



「ま、俺は一人で十人の幹部を仕留めてやったけどね」



 変わっていない部分は変わっていない様である、、、



「・・・という事は、護衛を誰もつけずに此処へ来たってことですか?」



「ああ。貴重な兵士を前線から引き抜く訳にもいかねえし、幹部は全員が駆けずり回ってようやく持ちこたえてる状況だしな」



 ルチアーノは当然の様に肯定した。

 しかしこれは確実にまずい状況だ、ファミリーのボスが戦闘能力皆無な人間だけを連れて行動しているという暗殺者が涎をたらすシチュエーション。



「あの、大丈夫なんですか? このタイミングで暗殺者に狙われたら、、、」



 トムハットは慌てて周囲を見渡し警戒する。

 しかしその程度の警戒では無意味だ、ルチアーノクラスの暗殺任務を担う人間であれば確実に則のコントロールをマスターしており凶器は必要ない。

 一切の動作なしに人間の首を跳ね飛ばしたり、数キロ離れた場所から音も無く目に見えない弾丸を飛ばして眉間を撃ち抜く事も容易いのだ。



「安心しろ、俺が常に警戒しているから何も問題ない。敵が則を使用したならエネルギーの流れを俺が即座に感知して攻撃を発する前に殺す、、、常に半径10キロメートルは神経を張り巡らせているから大丈夫だ」



 ルチアーノは大丈夫だと言い切った。



 彼の大丈夫には人間を否応なしに納得させる不思議な力が込められている

 そしてトムハット自身も嘗て何度かルチアーノが本気を出した瞬間を見ており、その鬼神の様な男が暗殺者程度に後れを取るとは思えなかった。



「だが、完全に穴が無い訳でも無い。俺が感知できないレベルに則を制御して、気配を消せる人間、、、それこそビッグネームクラスの人間が現われれば半径500メートル以内に入らないと感知できない。もしも俺がやられた時は、ディーノを頼んだぞ」



 ルチアーノの言葉にトムハットは固唾を飲んだ。

 確かにルチアーノといえど何度も不意を突かれて死にそうなり、数度の敗北を経験している。

 世界最強が隣に居るからといって確実に安全であるとは限らない。



「はい、、、その時はッ身を挺してでも」



 最悪の事態を想像し、ひ弱な自分は命を捧げて時間を稼ぐ程度の役割しか果たせないだろうと理解しながらトムハットは強く頷く。

 ディーノの為に命を捧げられるのなら本望であった。



 ルチアーノは真顔で頷いたトムハットの顔面をジッと見詰めて、それからプッと吹き出しながら破顔する。



「冗談だよ、そんな事が起こる可能性は殆ど無いから。其れこそ最悪の事態に最悪の事態が重なって、其処にサービスで最悪の事態を乗っけない限り大丈夫だ」



 ルチアーノは非常にリラックスした状態で、背伸びしながら後頭部で腕を組みながら言った。

 その時ディーノがこっちを向いて楽しそうに手を振ってきたので、ルチアーノは笑いながら手を振り返す。



「その最悪の事態っていうのは?」



「ん? 聞きたいの? もしかしてトムハットってば組織転覆狙ったりなんかしちゃったりしてるの?」



「い、いえ、、、唯の興味です」



 好奇心を抑えきれなかったトムハットの質問に、ルチアーノが茶化すような反応を返してくる。



「じゃあ特別に教えてやるよ。一つ目がビッグネームクラスの人間が複数人、最低でも三人が殺しに来ること」



 ルチアーノは一つ目という意味で右手の人差し指を一本立てた。



 この条件の時点でかなり現実味の無い話だ。

 ビッグネームは全員漏れなく敵対関係で自己中心的な連中だ、そのビッグネームが複数人で連携してルチアーノを殺しに来る可能性はかなり低い。



「二つ目は、幹部クラスの人間が組織的に俺を裏切って嵌めている事」



 ルチアーノは何故か右手の小指を立てた、他人の予想の外側を突く事が趣味な人間なのだ。



 この二つ目の条件もかなり厳しい。

 レヴィアスファミリーは無理矢理服従させて取り込んだファミリーの集合体ではなく、ルチアーノ個人に惚れ込んだ人間が集まって作った集合体である。

 その結束力は他のファミリーとは隔絶しており、何が有ろうともルチアーノを裏切るような真似をいする人間はいないだろう。



「三つ目が、何らかの形で逃走という選択肢を奪われる事」



 ルチアーノは左手の親指を立てた、あざ笑うかの様な表情に若干ムッとする。



 いままで一つ目・二つ目と難関条件が続いたが、その二つと比較してもこの条件は格が違った。

 もしも戦って勝てない相手が現われれば逃げれば良い、ルチアーノがその気に成れば空中を高速で飛んだり、地面に大穴を掘って逃げるなど造作も無いのだ。

 物理的に逃走経路を完全にシャッタアウトする事は不可能であり、可能性が有るとすれば則獣の能力か、、、



「人質を取られるか、、、」



 現実的に考えて可能性が高いのは人質の方で有る。

 ルチアーノにはディーノという明確な弱点が存在しており、その弱点を人質に取られればその瞬間ゲームセット。

 今のルチアーノに息子の命を切り捨てて、自らの命を守る為に逃走するという選択肢が取れるとは思えなかった。



「この三つの条件を同時に揃えられたら流石に厳しく成る、其れでも未だ負ける確率は五分だけどね」



 そう言ってルチアーノは豪快に笑う。

 トムハットには其れだけの条件を揃えられれて、何をどうすれば半分の確率で生き延びる事が出来るのか理解不能。

 だがそれでも、この男ならどうとでも出来るのでは?という漠然とした確信があった。



「だからさ、此れは俺がお前に掛けている信頼の証。お前は世界最強の命に一番近い存在だ、、、なにせ俺自身の命よりも重い存在を預けているんだからな」



「ええ、命に代えてその信頼に報いてみせます」



 ルチアーノの言葉にトムハットは強く頷く。



 前から思っていたが、何故ルチアーノは自分にこれ程信頼を置いてくれるのかトムハットは不思議でならなかった。

 特に忠誠心を示す様な行いをした訳でも無いし、ルチアーノが信頼を置く程長い付き合いや血縁関係が有る訳でも無い。



「勘だよ。それが全てで、それで充分だ」



 トムハットは声に出してその疑問を発した訳でも無いのに、ルチアーノは胸中を見透かしたかの様にそう薄笑いを浮かべながら言った。



「よし、そろそろ夕飯食べに行くぞ~!! ディーノ! 戻って来い!!」



 ルチアーノが突然立ち上がって息子を呼んだ。

 気が付けばかなり時間が経っていたようで、太陽を見てみると傾き始めてビルの陰に隠れそうに成っている。



(あっという間だったな、、、)



 トムハットは駆け寄ってくる少年の姿を見ながら、まるでこの日が自分の余命最後の日である様な感覚に襲われた。

 今も砂時計の粒に様に止まることなく流れている一秒一秒が名残惜しい。



(せめて今日だけは、ディーノに幸福な時間だけを)



 そんな願いを天に祈りながら、トムハットは父に抱きかかえられて肩車してもらったディーノを眺める。

 掛け替えの無い時間は、普段の百倍速で流れていったのであった。





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