キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第26話 幸福なまま一日を

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 ルチアーノ・ディーノ・トムハットの三人が外出から戻ったのは、日がすっかり沈んだ8時頃である。

 ディーノは途中で寝てしまい、ルチアーノにおぶられて家に帰ってきた。



「ぐっすり眠っていますね、、、このまま寝かせてあげますか? それとも最後に何か話されますか?」



 トムハットはディーノを起こさない様に、小声でヒソヒソと聞いた。



 ディーノはこの世に不安など何もない様に穏やかで幸せそうな笑顔を浮かべて眠っている。

 だが明日に成ればこの少年は生家を出て、大好きな唯一の肉親である父親と離れた生活を余儀なくさせられるのだ。

 だとすれば、一秒でも長く父親と言葉を交わした方が良い気もした。



「いや、このまま寝かせよう。わざわざ難しい現実世界に、幸せな夢の世界から引きずり戻される必要なんてない。今日くらいは幸せなままで、、、」



 ルチアーノはそう言って優しくディーノの頭を撫でた。

 確かにディーノは今日ルチアーノが帰って来てから、其れまで抱えていた不安を忘れて楽しそうに走り回っていた。

 しかしこのタイミングで目を覚ませば確実に明日への不安が再燃してしまうだろう。

 其れは余りに残酷に思え、出来る事なら今日くらいは不安を完全に忘れたまま過ごして欲しかった。



「そうですね。起こさない様にそっと寝室まで連れて行きましょう」



 トムハットも同意し、二人は物音を立てない様に注意しながら寝室へ向かった。

 トムハットは軋む階段を音を立てないよう慎重に登っていくが、ルチアーノは一切意識を足元に向けている様子も無いのに無音で階段を登っていく。

 その姿はまるで肉体が既に消滅している幽霊の様だった。



「なあトムハット、もしもディーノが将来自分が預けられた意味を知ったら。こいつは俺を恨むかな?」



 静かで暗い階段の途中、ルチアーノが突然質問をしてきた。

 トムハットはどのように受け答えるか迷ったが、結局自分が思った事を正直にいう事に決める。



「恨むと思います。ディーノは親に死んでくれと言われるよりも、殺してくれと言われる方が心を痛める、、、この子はそんな子です」



 その言葉を聞いたルチアーノは、あらかじめ予想していた返答であったにも関わらず言葉が出て来なくなってしまった。



「ですが恨んだとしても、貴方の事は嫌いにならない筈です。 その結果世界が少しでもいい方向に進むなら、父を殺すのがどれ程の大罪かを理解して貴方を殺してくれる筈、、、」



 ルチアーノは何も言わず耳を傾ける。



「貴方が昔教えてくれましたよね? 世界を変えられるのは引き金を引く勇気も無い人間でも、人を殺す事に何も感じない欠落者でもない、その人間を殺した事で発生する全ての痛みと憎しみを理解した上で其れでも引き金を引ける人間だと。この子は貴方に似て、その人間ですよ」



 その言葉にルチアーノはどんな表情をするべきなのか分からなかった。

 痛みと憎しみを理解しながら其れでも引き金を引き続ける人生が、どれ程過酷でどれ程悲劇に溢れた人生であるのかを彼自身が一番理解しているから。 

 その人生以外の選択肢を与えてやれなかった自分の弱さに失望したから。



「ならせめて、俺の死が少しでも賞賛されるモノに成るよう、、、こいつが来るまで史上最悪最強の人間として君臨し続けようじゃないか」



 ディーノの部屋の前に到着したルチアーノはそう呟いた。

 そして静かにドアを開け、衝撃を与えない様に優しく息子をベッドに寝かしつけた後に再び頭を撫でる。



「お前はパパとは違う、全ての人間に愛される本物の英雄に成ってくれ」



 祈るようにそう呟いて、ルチアーノとトムハットは静かに寝室を後にしたのだった。
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