キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第118話 崩身の修行

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 素晴らしい成果を幾つも残して一週間の療養を終えたディーノは、三つの約束の内一つであるフーマとの崩身修行へ向かった。



「失礼しまーーすッ!!」



 ディーノは何時も通り馬鹿でかい挨拶を発しながらフーマに練習場所として指定された場所の扉を開け、中を覗き込んだ。

 するとその部屋には二度見や三度見を禁じ得ない凄まじい光景が広がっていた。



「やあディーノ、身体はすっかり元に戻ったようだね」



 一言で言うなら巨大なアスレチック、そう呼べそうな建造物群の前でフーマが下手な笑いを浮かべながら立っていた。

 しかしディーノの視線はフーマを掠りもせず、興奮の色を発しながら後ろのアスレチックに釘点けにされている。其れほど立派な出来の建造物だったのだ。



「す、凄えッ!? 何だ此れッ良く分からねえけどメチャクチャわくわくするんだけど!! 此処で次の修行をするのか?」



 幼少期に憧れていた巨大アスレチックを目前にして、ディーノは目をキラキラ輝かせながら早口で捲し立てた。男の子なら誰でも興奮するシチュエーションである。

 そしてその反応が嬉しかったようで、フーマの笑顔が少し自然になった。



「ああ、此処は僕が修行の為に少しずつ作ってきた場所でね。ディーノの修行にも丁度良いと思って幾つか増設したんだ。此処を使えば直ぐに崩身の基礎は身につく筈だよ」



「本当か!? じゃあ急いでやろうぜ!!」



 そう言ってディーノは目をキラキラ輝かせたまま走り出し、目の前で聳え立つ巨大なアスレチックに飛び付こうとした。

 しかし空かさず制止の声が飛んで足を止めさせる。



「待ってディーノ、先ずは型の動きを覚えて貰うよ。そのアスレチックを使うのはもっと後だ」



「型の動き?」



「ああ。あのアスレチックは不安定な環境で崩身の基礎である『型』を演じる事によって必要な感覚を養うための建物なんだ。でも初めてだと型を演じるだけで難しいと思うから、先ずは平地で練習だよ」



「……分かったッ」



 ディーノも基礎をおろそかにすれば全てがグラグラになって台無しになるという事は理解している。

 仕方なく一秒でも早くアスレチックに飛び付きたいという衝動を堪えた。

 しかし一週間もベッドの上に居たせいで身体を思いっきり動かしたくてウズウズしてしまう。



 そして苦しそうに表情を歪めるディーノを見てフーマも心中を察する。



「そうだよね、身体を動かしたい気持ちはよく分かるよ。でも型といってもかなり筋肉を使う筈だから、今のディーノに取っては凄く楽しめると思うな」



「何だ、そんな変わった動きをするのか?」



「う~ん、変わった動きだし普段余り使わない筋肉も使うから凄く疲れると思うよ。まあ先ずはその目で見ててよ」



 そう言うとフーマは半身を作り、目を閉じて集中力を高める。

 それから開眼と同時に動き出し、慣れた素人目にも成熟していると見て取れる滑らかな動きで型を繋いでいった。

 片足立ちの状態で体勢を下げて顎が床に付くギリギリまで近づけたり、片腕立ちで大道芸でもしているかのように両足でV字を作ったり、片足立ちの状態で正拳突き・往し・裏拳・蹴りなどを織り交ぜた動きをしたり、最後は片腕立ちの状態から腕の力のみで跳ね上がり竹とんぼのように足を開いた状態で一回転して着地する。

 そしてその瞬間拍手の音が響いた。



 拍手を送ったのはディーノである。

 想像の何倍も美しく高難易度の動きに言葉を失い、黙って眺め続けていたディーノは最後の大技を前にして思わず拍手が漏れたのだった。



「ハハハッ……ありがとう」



 フーマは元の体勢に戻ると恥ずかしそうに言った。



「凄えな、最高にクールだった!! 俺にも教えてくれよ、早くやってみたい!!」



「ああ、ディーノなら直ぐにできる様になるよ。じゃあ先ずは一番最初の動きからゆっくりと見せるから真似してみてよ」



 そう言うとフーマは型の始まりの部分を再びゆっくりと見せてくれた。

 右足一本で全体重を支えて両手と左足を真っ直ぐ伸ばす、其処から右足をゆっくりと折りたたんで顎を地面に付くスレスレまで降ろしまた元に戻るという動きだ。



 ディーノはその姿を真似て自分もやってみるが、今まで意識した事も無いような身体の部位がプルプルと震えだして上手く身体が支えられない。



「うわッ、マジかクソきつい……うおッ!?」



 右足を折りたたむ課程の中程まで到達したとき、とうとう震えによってバランスを崩し地面へ横倒しになる。

 そして地面に横たわったディーノは、先程プルプルと震えていた部分の幾つかに1回目にも関わらず筋肉痛の様な違和感を感じ始めた。

 どうやら予想の何倍もの負荷が今まで鍛えたこともない場所に掛っている様だ。



「不甲斐ねえ……まさか一番最初の動きからもう出来ないとは。体幹には自身あったんだけどな~





「初めて何だから気にする必要はないよ。普通に生活していたら絶対に使わない筋肉だからね、才能云々関係無く筋肉が付くまでは誰でもそうなる」



 想像以上に出来なかった自分を恥じるディーノをフーマが空かさずフォローする。

 どうやらディーノのバランス感覚や筋力が絶望的という訳ではなくて、そもそも普通に生活をしている人物であれば物理的に不可能な動きの様だった。



「崩身は他の武道に比べて一風変わった技術を用いるから、普通じゃ絶対使わない様な筋肉を多用するんだ。そしてこの型はその普通じゃ使わない筋肉を鍛える為のモノなんだよ」



「あぁ、何となく分かった。今の一瞬で身体の訳が分からねえ場所が痛み始めたもん……」



 痛みを感じるのはヘソの奥、横腹、背中の中心、右足の全体、そして何故か首の裏。

 この動き一つ取っても全身の至る所に負荷が掛るよう考え込まれており、この運動だけで全身がバッキバキに成りそうな気配を感じる。

 しかもこれと同等の動きが2,3個残されており、最終的にはあのアスレチックの不安定な足場の上で行うのだ。これまた果てしなく長い道のりである。



 しかしその後に聞いたフーマの言葉でその長い道のりを歩む事へ対する不安が消えた。



「重心っていうのは体勢が崩れれば崩れる程強く成る力だからね、その崩れた状態を維持ずる為に筋肉を鍛えるって言うのが崩身の根幹なんだ」



「体勢が崩れれば崩れる程強く成る力……」



 ディーノは片足で体勢を維持していた時凄まじい力が自分の全身を包んでいるのを感じていた。

 もしもこのパワーを完璧に制御して地面を蹴り付ける時のエネルギーとして利用したり、敵を殴り飛ばす拳に乗せられたとしたらどれ程の力となるのだろうか。

 そう考えると一瞬で身体を支配していた疲労感が消え去り、ワクワクが腹の底から湧き上がってくるのだから不思議である。



「よしッ! んじゃあ今日中にこの最初の部分だけでも完璧にマスターしてやる!! 其れまで絶対に寝ない!!」



「ハハッ、まだ病み上がり何だから程々にね」



 こうしてディーノは再び型の練習を再開した。

 長い時間ベッドに押し込まれていた反動で、身体を動かし汗を流す事に対し全く抵抗を感じなかった。寧ろ身体を動かすことの楽しさに目覚めた程である。

 そしてこの数日間他の何よりも培われた集中力を振りかざし、本当に翌日の朝日が昇るまで練習を続けたのだった。



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