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第119話 師匠の自覚
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「……のッ、……ぃの、……ディーノッ!! 大丈夫かい!?」
自分の名前を呼ぶ声に鼓膜を強く揺らされたディーノはゆっくりと瞼を開ける。
最初は視界がボヤけていて自分が何を見ているのか分からなかったが、数秒の時間を掛けてゆっくりと曇りが晴れて自分の名を呼んでいたのがフーマだと気が付く。
「んぁ……フーマ? どうした、何かあったか?」
「何かあったじゃないよ、全く……早朝の練習をしようと思ってきたら君が倒れていたんだ。若しかして昨日からずっと此処にいるのかい?」
ようやくハッキリと見えてきたフーマの顔は心配で埋まっていた。
病み上がりでようやく昨日自由に動き回れるように成ったばかりにも関わらず、翌朝地面に転がって意識を失っている状態で発見されたらそりゃあ心配するだろう。
ディーノは無自覚に迷惑を掛けてしまったようだった。
「ご、ごめんッ。昨日自分の部屋に戻った記憶がないから、多分ここで疲労の限界が来て寝落ちしちゃったのかもッ」
「はぁ……まさかこの世に気絶するまで努力してはいけないと注意しなくてはいけない人間が存在するとはね。ちゃんと寝ないとダメだぞ? 幾ら練習して力や技術を手に入れたとしても、早死にしちゃったら全てが水の泡なんだからな」
「其れは分かってるけどさ、昨日の内に平地でくらい型を通しで全部やらないと気分悪くて眠れないと思ったんだよね。ちょっと見ててよッ」
ディーノは一瞬反省した様な様子を見せた後、跳ねる様に起き上がって半身を作る。
どうやらフーマに自分が昨日の内に何処まで行けたのかを見て貰いたい様だ。
フーマの本心を言えば一刻も早くベッドに入って休んで貰いたかったのだが、こうも元気でキラキラした目で自分に見せようとしているのを止める気には成れなかった。
「此処まではッ……なんとかッ行けるんだよなッ」
そう言ってディーノは一番最初の動きをそそつなく熟し、次の片腕立ちも難なく突破した。
しかしその当たりから急に身体が小刻みに震えだしてバランスが僅かに崩れ始める。
更に其処から正拳突き、往なし、裏拳と続いて蹴りを繋ごうとした瞬間、急に堪えきれなくなった様に身体がグワングワンと揺れ始めた。
そして最終的に体勢の維持に失敗し、ドスンッという音と共に崩れ落ちてしまったのだ。
「クソ~、また此処で限界がきたーッ!! どうしても身体が堪えられなく成って倒れちまう!!」
ディーノは地面の上でのたうち回りながら叫んだ。
その口調からどうやら毎回このポイントで体勢を崩して失敗に終わっているのだと察する事が出来る。
昨日一日掛けて基礎の型を半分しかマスター出来ていないとは、ディーノにしては中々苦戦を強いられている様だった。
一方のフーマはその光景を真剣な眼差しで見詰め、其れから質問を放つ
「ディーノ、今失敗した所だけを切り取って練習した時も失敗したのかい?」
「いや、始めに全体を四分割してそれぞれに分けて練習したときは、突きから蹴りまで一度も失敗せずに繋げられた。だから多分前の二回でスタミナが切れたのが原因だと思うんだよね」
「スタミナ切れ……恐らく違うなッ」
ディーノが自らの失敗に関して立てた推測をフーマは一刀両断した。
自分の考えを全否定されたディーノは戸惑いを表情に浮かべるが、フーマは一切迷いのない表情で解説を続ける。
「どうやら君は人間離れした程真っ直ぐな性格の様だね、サボるという事を知らな過ぎる」
「サボるぅ? 其れが今の話と何の関係があるんだよ」
「分かり易く言うと、重心を支えられる筋力を付ける事やバランス感覚を身につけることに意識が向きすぎていて、負担の少ない体勢を探すのが疎かに成っているという事だ。少しでも自分が楽できる様に考える事は、サボらず努力するのと同じくらい大事だぞッ。それに、その為にコマ回しの修行をやらせたんだよ」
フーマの言葉を受けてディーノは考え込む様に一瞬口を噤んだ、そして数秒の思考の後に漸く理解に到達して顔を上げる。
「そうか、自分の重心を意識して疲れない身体の動かし方を探れって事か。コマ回しで身につけた軸を感じ取る術を利用して……」
ディーノが辿り着いた答えを聞いてフーマは満足増に頷く。
彼一番の欠点はサボることを知らない所であり、どんな過酷な事であっても一切逃げ道を探す事無く正面突破する所。
大抵の場合でその性格はプラスに働くだろうが、時には回り道した方が早くゴールにたどり着ける時もある。近道を探すのは逃げではないのだ。
フーマは壁にぶつかった時に無謀な特攻を繰り返すのではなく、頭を回転させて視点を変る事によって別の攻め方を考える事の重要性を知って貰いたかった。
そしてディーノは最後の最後に自力でゴールに辿り着いたようである。
本当に成長が目まぐるしい、見ていて楽しい弟子であった。
「よし! じゃあ新しい道も見つけた事だしッ早速重心を意識しながら型の練習を……」
「ダメだ、また身体を壊すから一回ベッドでちゃんと睡眠を取ってきなさい。其れまで此処は使用禁止ッ」
「ええ~ッ!!」
漸く師匠としても自覚が芽生え始めたフーマは、本当に身体が限界を迎えて気絶するまで休憩を取ろうとしない弟子を無理矢理ベッドへ向かわせた。
そして午後に成り再び戻って来たディーノは見違える様な成長スピードを見せ、その日の内に型を始めから終わりまで完璧に熟す事に成功したのである。
其れはディーノの才能と同時に、フーマの本腰を入れた指導の賜物であるという事は言うまでも無い。
自分の名前を呼ぶ声に鼓膜を強く揺らされたディーノはゆっくりと瞼を開ける。
最初は視界がボヤけていて自分が何を見ているのか分からなかったが、数秒の時間を掛けてゆっくりと曇りが晴れて自分の名を呼んでいたのがフーマだと気が付く。
「んぁ……フーマ? どうした、何かあったか?」
「何かあったじゃないよ、全く……早朝の練習をしようと思ってきたら君が倒れていたんだ。若しかして昨日からずっと此処にいるのかい?」
ようやくハッキリと見えてきたフーマの顔は心配で埋まっていた。
病み上がりでようやく昨日自由に動き回れるように成ったばかりにも関わらず、翌朝地面に転がって意識を失っている状態で発見されたらそりゃあ心配するだろう。
ディーノは無自覚に迷惑を掛けてしまったようだった。
「ご、ごめんッ。昨日自分の部屋に戻った記憶がないから、多分ここで疲労の限界が来て寝落ちしちゃったのかもッ」
「はぁ……まさかこの世に気絶するまで努力してはいけないと注意しなくてはいけない人間が存在するとはね。ちゃんと寝ないとダメだぞ? 幾ら練習して力や技術を手に入れたとしても、早死にしちゃったら全てが水の泡なんだからな」
「其れは分かってるけどさ、昨日の内に平地でくらい型を通しで全部やらないと気分悪くて眠れないと思ったんだよね。ちょっと見ててよッ」
ディーノは一瞬反省した様な様子を見せた後、跳ねる様に起き上がって半身を作る。
どうやらフーマに自分が昨日の内に何処まで行けたのかを見て貰いたい様だ。
フーマの本心を言えば一刻も早くベッドに入って休んで貰いたかったのだが、こうも元気でキラキラした目で自分に見せようとしているのを止める気には成れなかった。
「此処まではッ……なんとかッ行けるんだよなッ」
そう言ってディーノは一番最初の動きをそそつなく熟し、次の片腕立ちも難なく突破した。
しかしその当たりから急に身体が小刻みに震えだしてバランスが僅かに崩れ始める。
更に其処から正拳突き、往なし、裏拳と続いて蹴りを繋ごうとした瞬間、急に堪えきれなくなった様に身体がグワングワンと揺れ始めた。
そして最終的に体勢の維持に失敗し、ドスンッという音と共に崩れ落ちてしまったのだ。
「クソ~、また此処で限界がきたーッ!! どうしても身体が堪えられなく成って倒れちまう!!」
ディーノは地面の上でのたうち回りながら叫んだ。
その口調からどうやら毎回このポイントで体勢を崩して失敗に終わっているのだと察する事が出来る。
昨日一日掛けて基礎の型を半分しかマスター出来ていないとは、ディーノにしては中々苦戦を強いられている様だった。
一方のフーマはその光景を真剣な眼差しで見詰め、其れから質問を放つ
「ディーノ、今失敗した所だけを切り取って練習した時も失敗したのかい?」
「いや、始めに全体を四分割してそれぞれに分けて練習したときは、突きから蹴りまで一度も失敗せずに繋げられた。だから多分前の二回でスタミナが切れたのが原因だと思うんだよね」
「スタミナ切れ……恐らく違うなッ」
ディーノが自らの失敗に関して立てた推測をフーマは一刀両断した。
自分の考えを全否定されたディーノは戸惑いを表情に浮かべるが、フーマは一切迷いのない表情で解説を続ける。
「どうやら君は人間離れした程真っ直ぐな性格の様だね、サボるという事を知らな過ぎる」
「サボるぅ? 其れが今の話と何の関係があるんだよ」
「分かり易く言うと、重心を支えられる筋力を付ける事やバランス感覚を身につけることに意識が向きすぎていて、負担の少ない体勢を探すのが疎かに成っているという事だ。少しでも自分が楽できる様に考える事は、サボらず努力するのと同じくらい大事だぞッ。それに、その為にコマ回しの修行をやらせたんだよ」
フーマの言葉を受けてディーノは考え込む様に一瞬口を噤んだ、そして数秒の思考の後に漸く理解に到達して顔を上げる。
「そうか、自分の重心を意識して疲れない身体の動かし方を探れって事か。コマ回しで身につけた軸を感じ取る術を利用して……」
ディーノが辿り着いた答えを聞いてフーマは満足増に頷く。
彼一番の欠点はサボることを知らない所であり、どんな過酷な事であっても一切逃げ道を探す事無く正面突破する所。
大抵の場合でその性格はプラスに働くだろうが、時には回り道した方が早くゴールにたどり着ける時もある。近道を探すのは逃げではないのだ。
フーマは壁にぶつかった時に無謀な特攻を繰り返すのではなく、頭を回転させて視点を変る事によって別の攻め方を考える事の重要性を知って貰いたかった。
そしてディーノは最後の最後に自力でゴールに辿り着いたようである。
本当に成長が目まぐるしい、見ていて楽しい弟子であった。
「よし! じゃあ新しい道も見つけた事だしッ早速重心を意識しながら型の練習を……」
「ダメだ、また身体を壊すから一回ベッドでちゃんと睡眠を取ってきなさい。其れまで此処は使用禁止ッ」
「ええ~ッ!!」
漸く師匠としても自覚が芽生え始めたフーマは、本当に身体が限界を迎えて気絶するまで休憩を取ろうとしない弟子を無理矢理ベッドへ向かわせた。
そして午後に成り再び戻って来たディーノは見違える様な成長スピードを見せ、その日の内に型を始めから終わりまで完璧に熟す事に成功したのである。
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