君死にたまふことなかれ~戦場を駆けた令嬢は断罪を希望する~

音無砂月

文字の大きさ
41 / 53

41.机上の空論で成り立つ国などない

しおりを挟む
パイデス国王は歴史に名が残る名君でもなければ、かといって悪政をしく暴君でもなかった。
エルダの魔鉱石欲しさに戦争を仕掛けるほどの強欲さと愚を兼ね備えてはいたがそれでも長い歴史の中に王としての名を連ねるも、有象無象に埋もれてしまうほどには何もない王であった。
その王の葬儀は宰相の進行のもと滞りなく終わった。
王女が棺に眠る王の姿に縋りつき、泣き喚く姿は離れた場所から見ていた国民の涙を誘うものであった。
「明日は女王任命式か」
本来なら陛下が王女の頭に王冠を乗せて行うのだが、その陛下は既にいない。そういう時は大司祭が代わりに女王の頭に王冠を乗せる。
神の許可を得た、正式な王という証のために。
「女公爵様、王女殿下がお呼びです」
葬儀が終了後、王宮の侍女に声をかけられた。
葬儀が終わっても王女はまだ忙しいはずだ。何せ、何の準備もないまま女王として立たなければならないのだから。本来なら彼女が女王として立つ時は既に伴侶が決まっており、その人が王配として女王を支える手筈になっていた。それすらないまま女王として立つことになった今の彼女に私と話す余裕はないはず。
一体こんな時期に何の用だと言うのか。
「アイリス、急にごめんなさいね」
「いいえ、殿下」
陛下の死が余程こたえているのだろう。随分とやつれたように見える。目の下も化粧で隠しているが近くで見るとかなり濃い隈ができているのが分かる。
「私ね、お父様がたくさんの愛情を注いでくれたからお母様がいなくても寂しくはなかったの。初めからいないかったから、いないことが当たり前だった。家族を失うってこんな気持ちになるのね。お父様を失った初めて、あなたの悲しみを理解した気がするわ」
「・・・・・・」
どういうつもりだろうか。
家族を失った者同士、仲間意識でも芽生えた?
でも、大切な人を失った人間はこの国にはたくさんいる。だって、戦争をしていたんだもの。
違う意味があるとしたら何?
後ろ盾がない状態で女王として立つから女公爵である私と仲良くすることをより顕著にすることで自分の地位の安泰を図ろうとしている?
私は新米の女公爵だけど、事業が上手く行っているから財力はかなりある。加えて先の戦争での功績もある。そこに目をつけた?
「どうされたんですか、殿下?」
「アイリス、私は女王になるわ」
真っ直ぐと殿下は私を見る。その目を、彼女の表情を見てああ、ヤバいなと思った。
「お父様のような立派な国主になる。急なことで何の準備もないままで不安なことばかりだけど私は一人じゃない。だから頑張れると思うの」
「さようでございますか」
「私はね、この国を幸せ一杯の国にしたいの。スラムのような場所がない、飢えて死ぬ人がいないような国。この国に生まれて良かったってみんなが思えるような国に」
これは宣戦布告だ。
「犯罪のない国にするの」
孤児院のことが尾を引いているのが分かる。
女王になってまずは孤児院の改善にスラム一掃でもする気だろうか。
そんなに簡単な問題ではない。特にスラムの一掃は。国の政策を一から見直さないといけない。正しく一掃する場合はだけど。
力づくでするのなら簡単だ。スラムの人間を全員殺すか国外に出せばいい。警備兵、近衛に命じれば簡単にできる。スラムを隔離して火を放って無くすのもありだろう。
王女はどのような手段を用いて、「みんなが幸せな国」を作るつもりだろうか。
「善悪の報いは影の形に随うが如し。国主であるならばそれはより大きくなって返ってくるでしょう。その余波もまた計り知れないはずです。忠臣の言葉に耳を傾け、殿下の目指す国になることを祈っています」
誰を忠臣とするのか見させてはもらうけど。
「ありがとう、アイリス。私の理想郷のためにあなたも力を貸してね」
私を犯罪者だと罵っているのに、本当に面の皮があつい。
「国がより良くなるのであれば協力は惜しみません。私も国に忠誠を誓った貴族ですから」
「ありがとう」
ハッ。笑える。
私、一言も「殿下に協力する」とも「殿下に忠誠を誓っている」とも言っていないのに感謝してくるなんて。物事を自分本位にとらえすぎだろ。
やはり、この存在は危ういな。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...