7 / 36
第Ⅰ章 私は悪役令嬢
6
しおりを挟む
「‥…殿下」
謹慎からあけて学園に行った。
そこには楽しそうに会話をする殿下とアリシア、それに殿下の側近たちがいた。
「イリス様、お久しぶりです」
「暫く学園を休んでいたので心配しましたわ」
いつもなら遠巻きに私を見ているだけのクラスメイトたちがなぜか今日に限って積極的に私に話しかけてきた。
「イリス様、見てください。アリシア様ったらイリス様がいないからと殿下にあのように親し気に」
「イリス様の婚約者ですのに」
「よろしいんですか、イリス様」
「ここはお姉様として常識を教えるべきではございませんの」
ああそうか。
殿下の婚約者の座が欲しんだ。
一番邪魔なのは私。私さえ排除すればいいと思っていたところにまさかの伏兵が現れた。
アリシアを排除するために私を使おうと考えたのだ。
「人様の家のことに他人がとやかく言うのは些か無礼ではありませんか?」
私の言葉に彼女たちは扇で口元を隠した。それでも彼女たちが私を笑っているのは雰囲気で分かる。
「私たちはイリス様のことを心配しているだけですわ。イリス様は大切なクラスメイトですもの」
嘘つき。
私のことを貶してるくせに。アスファルトの血が混じった信用できない貴族。白磁の肌を持たない汚れた娘だと陰口を叩いているくせに。
「イリス様だって気に入らないのでしょう。その証拠にアリシア様に手をあげられたとか」
野蛮ねぇという蔑みの言葉が含まれていた。
人を利用しようと言う時でさえ見下すことを忘れないのね。
「ここはイリス様が毅然とした態度で」
「何様なの?」
「えっ?」
「公爵家の令嬢である私に指図をするなんて何様なのかと聞いているの」
さすがにまずいと思ったのか令嬢たちは黙ってしまった。そんな彼女たちを鼻で笑って私は学園を出た。
「お嬢様、どうされたんですか?」
学園に着いたばかりで帰ってきた私にイスファーンは驚いていた。
母は一日中留守だから私が学園をサボったことはバレないだろう。
「別に、何でもないわ」
「誰がお嬢様を不快にさせたんですか?教えてください。すぐに処分してきます」
「イスファーン‥…」
「冗談です」
そう言って笑ったイスファーンの目は笑ってはいなかった。ぞくりと闇に飲み込まれる恐怖が私を襲った。
「どうかしましたか?」
「いいえ、何でもないわ」
私は気のせいだと首を振って何にも気づかないふりをした。
もしこの時、彼の狂気に気づいていたら私の運命はどのように変わっていたのだろうか。この先の運命に従者である彼が大きく関わって来るなんてこの時の私は夢にも思わなかった。
「イスファーン、私が早退したこと、お母様には内緒にしてね」
「もちろんです。お嬢様、覚えておいてくださいね。何があろうと俺はあなたの味方です。俺だけはあなたを裏切りません」
「‥‥‥」
どうしてだろう。
涙が出そうになった。
「人の心は移ろうものよ」
私は顔を見られたくなくて下を向いた。涙を堪える為に敢えて酷い言葉をイスファーンに放った。それでも彼は怒らずに断言する。
「俺の心があなた以外に向くことはありません」
まるで恋人に告白するような言葉だ。
私の婚約者がイスファーンだったらこんなに苦しむこともなかっただろうな。
謹慎からあけて学園に行った。
そこには楽しそうに会話をする殿下とアリシア、それに殿下の側近たちがいた。
「イリス様、お久しぶりです」
「暫く学園を休んでいたので心配しましたわ」
いつもなら遠巻きに私を見ているだけのクラスメイトたちがなぜか今日に限って積極的に私に話しかけてきた。
「イリス様、見てください。アリシア様ったらイリス様がいないからと殿下にあのように親し気に」
「イリス様の婚約者ですのに」
「よろしいんですか、イリス様」
「ここはお姉様として常識を教えるべきではございませんの」
ああそうか。
殿下の婚約者の座が欲しんだ。
一番邪魔なのは私。私さえ排除すればいいと思っていたところにまさかの伏兵が現れた。
アリシアを排除するために私を使おうと考えたのだ。
「人様の家のことに他人がとやかく言うのは些か無礼ではありませんか?」
私の言葉に彼女たちは扇で口元を隠した。それでも彼女たちが私を笑っているのは雰囲気で分かる。
「私たちはイリス様のことを心配しているだけですわ。イリス様は大切なクラスメイトですもの」
嘘つき。
私のことを貶してるくせに。アスファルトの血が混じった信用できない貴族。白磁の肌を持たない汚れた娘だと陰口を叩いているくせに。
「イリス様だって気に入らないのでしょう。その証拠にアリシア様に手をあげられたとか」
野蛮ねぇという蔑みの言葉が含まれていた。
人を利用しようと言う時でさえ見下すことを忘れないのね。
「ここはイリス様が毅然とした態度で」
「何様なの?」
「えっ?」
「公爵家の令嬢である私に指図をするなんて何様なのかと聞いているの」
さすがにまずいと思ったのか令嬢たちは黙ってしまった。そんな彼女たちを鼻で笑って私は学園を出た。
「お嬢様、どうされたんですか?」
学園に着いたばかりで帰ってきた私にイスファーンは驚いていた。
母は一日中留守だから私が学園をサボったことはバレないだろう。
「別に、何でもないわ」
「誰がお嬢様を不快にさせたんですか?教えてください。すぐに処分してきます」
「イスファーン‥…」
「冗談です」
そう言って笑ったイスファーンの目は笑ってはいなかった。ぞくりと闇に飲み込まれる恐怖が私を襲った。
「どうかしましたか?」
「いいえ、何でもないわ」
私は気のせいだと首を振って何にも気づかないふりをした。
もしこの時、彼の狂気に気づいていたら私の運命はどのように変わっていたのだろうか。この先の運命に従者である彼が大きく関わって来るなんてこの時の私は夢にも思わなかった。
「イスファーン、私が早退したこと、お母様には内緒にしてね」
「もちろんです。お嬢様、覚えておいてくださいね。何があろうと俺はあなたの味方です。俺だけはあなたを裏切りません」
「‥‥‥」
どうしてだろう。
涙が出そうになった。
「人の心は移ろうものよ」
私は顔を見られたくなくて下を向いた。涙を堪える為に敢えて酷い言葉をイスファーンに放った。それでも彼は怒らずに断言する。
「俺の心があなた以外に向くことはありません」
まるで恋人に告白するような言葉だ。
私の婚約者がイスファーンだったらこんなに苦しむこともなかっただろうな。
32
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる