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第Ⅰ章 私は悪役令嬢

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「イリス、貴様との婚約を破棄する!」
オーデル伯爵家が主催したパーティー。
殿下が招待されているとは知らなかった為、私は従者であるイスファーンにエスコートをお願いした。
淑女が夜会に参加する為には男性のエスコートが必要。これは最低限のマナー。
婚約者、夫、あるいは身内。何らかの事情でそれらが無理な場合は従者がエスコートする。
私でいうと、まず殿下は招待されていないと言っていたし、参加する気もないとのことだった。
その時点でおかしいとは思ったが突っ込んで聞いてもまた口論になるだけなので止めた。
次に身内だが、この容姿のせいで父とは不仲であり、頼める状況ではなかった。
仕方がなくイスファーンに頼んで参加したパーティーにはなぜかエーメント殿下と彼に腰を抱かれたアリシアがいた。
そして、エーメント殿下は大衆の前で私に婚約破棄を言い渡したのだ。
みんなが私に注目している。
「嫉妬から妹に大して嫌がらせをするなど王妃の器ではないっ!」
憎しみに満ちた目でエーメント殿下が私を見る。彼に腰を抱かれているアリシアの目からはハラハラと涙がこぼれ、まるで悲しんでいるようだった。
バガじゃないの。
自分でも招いた結果のくせに悲しむなんて。頭が、どうかしている。
偽善者。
卑怯者。
男好きの淫売。

あんたなんて、生まれて来なければ良かったのに

「何とか言ったらどうなんだ?」
黙って二人を見るだけの私に痺れを切らしたのかエーメント殿下が私に弁明を要求する。
「殿下、私がここで発言することになんの意味があるのですか?」
「どういう意味だ?」
結局、あなただってアリシアを選んだじゃない。
私がアリシアをいじめた?
そう発言している時点で全てを物語っている。
ろくに調べもせずに決めてかかったんでしょう。
そうでなければ、この場で断罪されるのは私ではなかったもの。
だって私は何もしてこなかった。
「私が『私ではない』と発言したところであなたは信じないのでしょう。けれど私もやっていない罪を認めることはしたくありません」
「白々しい」と殿下の取り巻きが吐き捨てた。
ほらね。
私の発言には何の意味もない。
証拠もなく断罪されようとしている哀れなスケープゴートを助けようとしてくれる者はこの場にはいない。
「もし私に罪があるとしたら何もしてこなかったことぐらいです。アリシアがいじめられているのを放棄しました。見てみぬふりをしました」
そんな人はたくさんいた。
でも誰も責められない。
必要なのはアリシアとエーメント殿下を結ぶ為の悪役。
私を断罪することで自分たちの罪を有耶無耶にしようとしているだけ。
どうして、私はこんな人に愛を求めたのだろう。
優しい時もあった彼に縋りつくことはもうできない。
全部なくなった。
全部奪われた。
だから私も全部捨ててやる。
何もかも。もう、何もいらない。
私を愛してくれない人も、肌の色だけで差別する人もそれがまかり通る環境も。
何もかもいらない。
「だって、自業自得でしょ。人の婚約者に色目を使っておいて何事もなく平和な日常が送れると本気で思ってたいたの?」
私が問いかけるとアリシアは震えながら一歩前に出る。
健気にも悪役に歯向かうヒロインのように。
「どうして分かってくれないの?殿下とは本当になにもないのよ。ただの友達なの」
「あなたは、ただの友達とキスをするの?愛を囁くのよ?私が知らないとでも思ってるの?どこまでも馬鹿にして」
嘘をつくのは相手を見下している証拠
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