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第Ⅲ章 愛の裏側で(イスファーン視点)
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ああ、殺したい。
「そんなことがあったんだね」
「はい。私、驚いてしまって。はしたなくも大声を出してしまったんです」
イリスとエーメントが楽しそうに話している。
ああ、あの汚らしい手がイリスの髪に触れた。即刻、その手を切り捨ててしまいたい。
イリス様の髪は念入りに洗いたい。
◇◇◇
地獄のような時間は過ぎ、漸くエーメントは帰って行った。もう二度と来ないで欲しい。
「イリス」
「お母様」
珍しく公爵夫人が部屋から出ていた。よほどの様がない限りは部屋に閉じこもっているのに。
「殿下が来ていたの?」
「はい」
「イリス、必ず王子妃になりなさい」
「お母様、私は」
公爵夫人は繰り返す。まるでエーメントの夫になる以外にイリスの存在価値はないとでも言うように。
「あなたはその為にいるの。努力を怠ってはダメよ。少しでも怠ればあなたなんて簡単に追い落とされるんだから」
「はい」
イリスも俺が感じていることと同じことを感じているんだろう。
いつも公爵夫人に対して何か言いたげだ。けれど、幼い頃から抑えつけられて育ったせいか、イリスは侯爵夫人に対して自分の意見を言えないのだ。
あんな男の嫁にならなくてもイリスはそこにいるだけで価値があるのに。
それが分からないなんて、何て愚かしいのだろう。
公爵夫人と別れた後、イリスは疲れたようにため息をついた。
どうしてイリスを痛めつけるのだろう。母はどうしてあんな女に尽くすのだろう。理解できない。
「お姉様」
ああ、どうしてこうも邪魔な奴ばかりが来るのだろう。
さっさと部屋に戻って休みたいイリスを呼び止めたのは彼女の妹であるアリシア。
イリスの妹とは思えないぐらい馬鹿な女だ。
正直、どうしてあんなのがイリスの妹して生まれたのか疑問だ。
「先ほど、王家の馬車が見えたのですが」
「ええ。エーメント殿下がいらしていたの」
「でん、か、が。そう、ですか」
傷ついたような顔をするアリシア。さっさと奪えばいいのに。
「殿下は何の御用でいらしたんですか?」
「?私の婚約者よ。用がなくても私に会いに来るのはおかしなことではないでしょう」
「そうですね。でも、あまり来られないのですね。婚約者のいるお友達の話を聞くと最低でも一週間に一回は会っているようですけど」
アリシアの目には明らかに嫉妬の色が出ている。
無意識なのだろう。彼女の言葉は明らかにイリスを貶めようとしている。アリシアの分際で、俺のイリスを傷つけるつもりか。
「何が言いたいの?」
「い、いいえ。ただ、純粋に会う回数が他の方と少なく感じただけです。もっと会われてもいいんじゃないでしょうか」
「殿下は王太子ですもの。ご公務で忙しい殿下にそのような我儘は言えないわ」
「そ、そうですよね‥‥‥お姉様はエーメント殿下を愛していらっしゃらないのかしら」
後半は声が小さくてイリスには聞こえていなかったようだが俺の耳にはばっちり聞こえていた。
イリスがエーメントを愛していないのは当然だろう。
アリシアの考えは予想できる。会う回数=愛情の深さと考え、自分の方がエーメントを愛している。なら自分の方がエーメントに相応しい。イリスはエーメントを愛していないから自分とエーメントが愛し合っても彼女が傷つくことはないという考えに至ったのだろう。
よく、そんな都合よく考えられる。ある意味、才能だ。
「そんなことがあったんだね」
「はい。私、驚いてしまって。はしたなくも大声を出してしまったんです」
イリスとエーメントが楽しそうに話している。
ああ、あの汚らしい手がイリスの髪に触れた。即刻、その手を切り捨ててしまいたい。
イリス様の髪は念入りに洗いたい。
◇◇◇
地獄のような時間は過ぎ、漸くエーメントは帰って行った。もう二度と来ないで欲しい。
「イリス」
「お母様」
珍しく公爵夫人が部屋から出ていた。よほどの様がない限りは部屋に閉じこもっているのに。
「殿下が来ていたの?」
「はい」
「イリス、必ず王子妃になりなさい」
「お母様、私は」
公爵夫人は繰り返す。まるでエーメントの夫になる以外にイリスの存在価値はないとでも言うように。
「あなたはその為にいるの。努力を怠ってはダメよ。少しでも怠ればあなたなんて簡単に追い落とされるんだから」
「はい」
イリスも俺が感じていることと同じことを感じているんだろう。
いつも公爵夫人に対して何か言いたげだ。けれど、幼い頃から抑えつけられて育ったせいか、イリスは侯爵夫人に対して自分の意見を言えないのだ。
あんな男の嫁にならなくてもイリスはそこにいるだけで価値があるのに。
それが分からないなんて、何て愚かしいのだろう。
公爵夫人と別れた後、イリスは疲れたようにため息をついた。
どうしてイリスを痛めつけるのだろう。母はどうしてあんな女に尽くすのだろう。理解できない。
「お姉様」
ああ、どうしてこうも邪魔な奴ばかりが来るのだろう。
さっさと部屋に戻って休みたいイリスを呼び止めたのは彼女の妹であるアリシア。
イリスの妹とは思えないぐらい馬鹿な女だ。
正直、どうしてあんなのがイリスの妹して生まれたのか疑問だ。
「先ほど、王家の馬車が見えたのですが」
「ええ。エーメント殿下がいらしていたの」
「でん、か、が。そう、ですか」
傷ついたような顔をするアリシア。さっさと奪えばいいのに。
「殿下は何の御用でいらしたんですか?」
「?私の婚約者よ。用がなくても私に会いに来るのはおかしなことではないでしょう」
「そうですね。でも、あまり来られないのですね。婚約者のいるお友達の話を聞くと最低でも一週間に一回は会っているようですけど」
アリシアの目には明らかに嫉妬の色が出ている。
無意識なのだろう。彼女の言葉は明らかにイリスを貶めようとしている。アリシアの分際で、俺のイリスを傷つけるつもりか。
「何が言いたいの?」
「い、いいえ。ただ、純粋に会う回数が他の方と少なく感じただけです。もっと会われてもいいんじゃないでしょうか」
「殿下は王太子ですもの。ご公務で忙しい殿下にそのような我儘は言えないわ」
「そ、そうですよね‥‥‥お姉様はエーメント殿下を愛していらっしゃらないのかしら」
後半は声が小さくてイリスには聞こえていなかったようだが俺の耳にはばっちり聞こえていた。
イリスがエーメントを愛していないのは当然だろう。
アリシアの考えは予想できる。会う回数=愛情の深さと考え、自分の方がエーメントを愛している。なら自分の方がエーメントに相応しい。イリスはエーメントを愛していないから自分とエーメントが愛し合っても彼女が傷つくことはないという考えに至ったのだろう。
よく、そんな都合よく考えられる。ある意味、才能だ。
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