仄暗い部屋から

神崎真紅

文字の大きさ
22 / 87
第二章

act 8 妊娠

しおりを挟む
ある日。
 瞳は、生理が遅れている事に気付いた。
 『妊娠』
の二文字が、瞳の脳裏を過った(よぎった)。

 薬局で、妊娠検査薬を買い、急いでマンションに戻った。
ドキドキしながら、検査薬のキャップを外し、先端に尿をかける。

すると…。
そこには、くっきりと妊娠陽性の反応を示すラインが浮き上がった。
 瞳は、嬉しくて先ずは仕事中の、賢司に電話した。

 「賢司、あたし赤ちゃんが出来たよ。妊娠したんだよ。賢司の赤ちゃんだよ」

 興奮して、思わず大声で叫ぶ瞳に、賢司は驚いて言った。

 「本当か?じゃあ俺明日有休取るよ。一緒に病院行こうな」
 「うん。あたしのお腹に賢司の赤ちゃんがいるんだよ」
 「判ったから、今仕事中だから、帰ってから話そうな」

ヤバイ…。
 部長と視線が合ってしまった。
 私用電話は禁止なのだ。

 「宮原君、何かあったのかね?」

そら、来た。

 「瞳から電話で、子供が出来たらしいので、明日休み貰えますか?」
 「森下君が、失礼。今は宮原さんだったね、そうか。それはおめでとう。明日一緒に病院に行くのかね?」 
 「はい、是非そうしたいと思います」
 「そうか。それはおめでとう。瞳君もいよいよ母親になるのか…」

 瞳は、殊更部長に可愛がられていた。
 部長はまるで、自分の孫でも生まれる様に、感極まっていた。
やれやれ…。


 次の日。
ふたりは病院に診察に出掛けた。

 「妊娠してますね、ほら、この黒い部分が赤ちゃんの入っている袋ですよ。この小さいのが赤ちゃん、心臓が動いているのが見えるでしょう?」

ぅわ〜…。
 感動的〜。

 「今5週目ですね…出産予定日は、5月5日かな」

 子供の日〜。
 男の子かなぁ。
 待合室で待ってた賢司が、やっと終わったとばかりに瞳の傍に来た。

 「どうだった?」
 「へへ…妊娠してたよ。出産予定日は5月5日だって」
 「子供の日?」
 「うん、後今から採血があるんだって」
 「採血?何で?」
 「貧血とかエイズとか調べるんだよ」
 「ふぅん…」

 賢司はあまり判らない様子で、上の空に返事を返した。
しかし、瞳が採血の検査をしている様子を、食い入る様に見ていた。

 瞳の静脈に注射の針が刺さる。
 細い管を通って、血液が流れる様を、賢司は何を思いながら見ていたのだろうか。
 瞳は嫌な予感がしていた。そしてその予感は、瞳の思いとは裏腹に的中してしまう。
 病院から帰って来てから、賢司はそわそわと落ち着きがない。
 酒も呑まず、食事も摂らない。
 何時もなら瞳より先に寝てしまう賢司が、リビングでテレビをつけたまま、一向に寝る素振りを見せない。

 「賢司?寝ないの?」
 「あぁ…先に寝ていいぜ」
 「そう?じゃあおやすみ」

 瞳は寝室のベッドに横たわったが、賢司が気になって眠ろうにも、眠れない。
カチャリ…。
 玄関のドアの開く音が聞こえた。

…やっぱり薬を買いに行ったんだ。
 瞳は落胆した。

 子供が出来た事を、あれだけ喜んでいだその夜なのに、覚醒剤の誘惑には勝てないのか?
 数分後、賢司が帰って来たので、瞳はベッドを抜け出し、リビングに入って行った。

 「…何処か行って来たの?」
 「コンビニに煙草買いに行ったけど、瞳寝たんじゃなかったのかよ?」
 「喉が渇いちゃって、何か飲もうかなって。妊娠してから、やたら喉が渇くし、眠いしでね」

 話しながら、冷蔵庫から牛乳を取り出し、グラスに注いだ。

 「瞳、コップに水をくれ」

 言われるままに、ミネラルウォーターをグラスに注いで、賢司に渡した。

 「瞳、やるか?」
 「えっ?あたし赤ちゃんがいるんだよ?」
 「一回くらいなら大丈夫だよ」

そんな保証は何処にもない。
ただ賢司は、瞳と覚醒剤をやりたかっただけに過ぎないのだ。

 「腕出せよ」

 瞳の上腕部分を掴み、そのまま針を刺した。

 「賢司、あたし嫌だよ」
 「そんな事言ってももう入っちまったぜ」
 「えっ」

 身体中を駆け巡る熱。

 「ぁ…あ、つ…」
 「効いただろ?もう動けねぇ位に効いただろ?」
 「あ…ぁ…」
 「俺の乳首を舐めて感じさせてくれ」

 覚醒剤が身体に入ってしまった瞳は、賢司の言いなりになる、操り人形に成り下がる。
 言われるままに、賢司の乳首を舐めて感じさせる。
それが本当の麻薬の恐ろしさかも知れない。

 「け…ん、じ…あか、ちゃんが…」
 「大丈夫だよ、瞳にはちゃんと産ませてやるからな」
 「う、ん…」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

処理中です...