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第二章
act 27 昇級
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賢司が刑務所に移ってから、五ヶ月が過ぎた12月の事。
いつもの様に面会に行った瞳に、賢司は嬉しそうに話した。
「瞳、俺来月から三級に昇級するんだ。面会も月4回出来るし、手紙も6通出せるよ。何よりもお菓子が食べられるんだぜ」
「お菓子かぁ~。昇級したら早く帰って来れるのかな?」
「それは無理じゃね?今ムショも人数少ないしな。秀がいた頃より千人くらい少ないらしいぜ」
「なんだぁ、残念。でもお菓子食べられるんじゃ、よかったじゃない?でも月4回面会来れるかなぁ?」
「無理すんなよ、別に全部来なくてもいいんだからさ」
「でも逢いたいし・・・・」
「夏樹が面会に来たがってたからさ、瞳から連絡してやってくれよ」
「ん~、分かったよ。伝えとく。でもメールしても返事来ないんだよ。あたし嫌われたのかなぁ?」
「それはないよ。夏樹から手紙貰ったしな。まぁ、ちょっとした行き違いはあっただろうけど、大丈夫だよ」
「そっか、ずっと気になってたんだよね」
「パパ、瑠花にサンタさん来たんだよ。瑠花が欲しかったゲームソフト貰ったんだ」
「お、そっか!よかったな?瑠花」
「毎日ゲームばっかりだよ」
呆れて瞳は言う。
「それからね、賢司があたしに隠れて瑠花と遊びに行ってた事とか、色々教えてくれたよ?」
「えっ?瑠花、ママには内緒って言ってたのに・・・・」
「パパが言ったんだよ。瑠花はママは?って聞いてもママはいいって言ってたよ」
「へぇ、あたしは要らないわけね?」
「おいおい、そんなに怒るなよ。冗談だよ。瑠花もあんまりママに余計なこと言わないでね?」
「何で?パパが言ったんだよ?」
「こんなチビに口止めしても無駄!」
やれやれ・・・・。
帰ったら俺の居場所あるかな?
瞳はぷりぷり怒っている。
「帰って来たら、二度とあたしを無視しないでね!」
「はいはい、判りました」
「5分前です」
あぁ、もう終わる。
「瞳、綿棒とパンツ売店で差し入れしてってくれよ」
「綿棒とパンツね。分かった」
「時間です」
「それじゃね、次は月末頃に来るよ」
「ねーちゃんに金差し入れしてくれる様に頼んでくれよ」
「分かったよ。じゃね、ほら、瑠花、パパにバイバイだよ」
「パパ、バイバイ。またねー」
面会時間が終わって、賢司が重いドアの向こうに帰っていく。
この瞬間、何ともやりきれない想いが、瞳を襲う。
係の人が迎えに来てくれるまで、そのまま待つ。
「お待たせしました」
機械的な、でも決して冷たい言い方ではない刑務官の後について面会室を出る。
ロッカーからバッグを取り出し、鍵を返して売店の窓口に声をかける。
「差し入れお願いします」
「はい、面会は終わりましたか?」
「はい」
差し入れ用紙を受け取って、書き込んでゆく。
綿棒とパンツ。
あれ?
パンツのサイズってLだっけ?
ま、いいや。
『綿棒1』
『トランクスLサイズ1』
「お願いします」
用紙を差し出した。
そこでお金を払えば、そのまま賢司に届けてくれる。
相場よりかなり高いけど。
次は本の差し入れ。
また差し入れ場所が違う。
本館の玄関から入ってまっすぐ先に、窓口がある。
いつも親切な初老の女性職員が対応してくれる。
ここでも差し入れ用紙を書かなくてはならない。
瑠花と瞳で六冊分。
二枚の用紙に三冊ずつ、本の題名と住所や名前等々。
瑠花は自分の名前だけ書いた。
「あら、一生懸命書いたのね。お父さん見たら喜ぶわよ」
そうか!
全ての差し入れ用紙に、賢司は受け取りの指印を押すのだ。
「はい、大丈夫です。宅下げは有りませんね」
「よろしくお願いします。瑠花、帰ろう」
また80㎞の道のりを運転するのか、と思うと、いささか億劫(おっくう)になる。
「ママ、鮎!」
「分かったよ、本当に好きだねー」
自宅と刑務所の、丁度真ん中あたりの距離に、その『道の駅』はあった。
ここの直売所で売っている果物は、どれも新鮮で美味しい。
いつだったか・・・・。
旅の帰りに寄った時、まだ夏だった。
美味しそうな桃が箱で売っていた。
母が大好きだったので、一箱お土産屋に買った思い出が、ある。
その桃のなんと甘かった事か。
今年も桃に出会えたら、多分買うだろう。
そう考えながら、みかんの箱を見ていたら、『三ヶ日みかん』の文字があった。
三ヶ日みかん。
希少物で美味しい。
みかん好きにはたまらないブランド品だった。
瞳はひとりで一箱食べるほどの、みかん好きだ。
このままでは帰れない。
値段を見ると、三千円と書いた紙が貼ってあった。
なんという破格!
10㎏の三ヶ日みかんが三千円とは。
これは買いだとレジに向かう。
「ママ、イチゴあったよ」
「どれ?」
見てみると、三種類のイチゴがあった。
その中に『あまおう』という品種があった。
このイチゴは特別大きくなる。
瑠花のグーと同じくらいの大きさだ。
なので、一箱に10粒ほどしか入っていない。
あまり市場に出回らないこのイチゴは、銀座の千疋屋の、ケーキに乗っていたのを昔、見たっけ。
「ママ、どれが美味しいの?」
「んー、珍しいからこの一番大きいあまおうにしたら?」
「うん!」
一箱持ってレジに向かう。みかんとイチゴで四千円。
それから鮎を買いに売店に歩く。
珍しく、メスが二匹あった。
瑠花は大喜びでメス二匹お買い上げ。
さて、ここから約40㎞の帰り道だ。
つかの間の休憩をとって、また走り出した。
瑠花は疲れたらしく、いつの間にか眠っていた。
その手には、しっかりと鮎を抱えたままで。
あぁ!
腰が痛い。
でもあともう少しで家に着く。
帰ったら、ゆっくり休んでたっぷりと甘いミルクティーを飲もう。
マンションの地下駐車場に入って車を止めた。
「瑠花、おうちに着いたよ。起きてよ?」
「ん・・・・ねむい・・・・」
「もうおうちだから、部屋で寝なさいよ、ほら」
「あっ、瑠花の鮎ー!」
ぅわ!
びっくりした。
いきなり起きて走っていった。
何てゲンキンな奴だ。
全くパパにそっくりだわ。
ため息をつきながら瞳も後を追う。
疲れてるんだけどなぁ。
瑠花は部屋に入るなり鮎にかじりついていた。
「鮎、美味しい?」
「うん!瑠花鮎だーい好き」
「そ、よかったね」
瑠花のお腹が塞がっていれば、食事の準備は大丈夫かな。
瞳はキッチンに立ち、紅茶を淹れてソファーに座った。
砂糖を五杯とミルクをカップに入れて、紅茶を注ぐ。甘くて美味しいな。
ホッとする。
と、同時にどっと疲れが襲って来た。
眠い・・・・。
早くお風呂に入ってゆっくり寝よう。
いつもの様に面会に行った瞳に、賢司は嬉しそうに話した。
「瞳、俺来月から三級に昇級するんだ。面会も月4回出来るし、手紙も6通出せるよ。何よりもお菓子が食べられるんだぜ」
「お菓子かぁ~。昇級したら早く帰って来れるのかな?」
「それは無理じゃね?今ムショも人数少ないしな。秀がいた頃より千人くらい少ないらしいぜ」
「なんだぁ、残念。でもお菓子食べられるんじゃ、よかったじゃない?でも月4回面会来れるかなぁ?」
「無理すんなよ、別に全部来なくてもいいんだからさ」
「でも逢いたいし・・・・」
「夏樹が面会に来たがってたからさ、瞳から連絡してやってくれよ」
「ん~、分かったよ。伝えとく。でもメールしても返事来ないんだよ。あたし嫌われたのかなぁ?」
「それはないよ。夏樹から手紙貰ったしな。まぁ、ちょっとした行き違いはあっただろうけど、大丈夫だよ」
「そっか、ずっと気になってたんだよね」
「パパ、瑠花にサンタさん来たんだよ。瑠花が欲しかったゲームソフト貰ったんだ」
「お、そっか!よかったな?瑠花」
「毎日ゲームばっかりだよ」
呆れて瞳は言う。
「それからね、賢司があたしに隠れて瑠花と遊びに行ってた事とか、色々教えてくれたよ?」
「えっ?瑠花、ママには内緒って言ってたのに・・・・」
「パパが言ったんだよ。瑠花はママは?って聞いてもママはいいって言ってたよ」
「へぇ、あたしは要らないわけね?」
「おいおい、そんなに怒るなよ。冗談だよ。瑠花もあんまりママに余計なこと言わないでね?」
「何で?パパが言ったんだよ?」
「こんなチビに口止めしても無駄!」
やれやれ・・・・。
帰ったら俺の居場所あるかな?
瞳はぷりぷり怒っている。
「帰って来たら、二度とあたしを無視しないでね!」
「はいはい、判りました」
「5分前です」
あぁ、もう終わる。
「瞳、綿棒とパンツ売店で差し入れしてってくれよ」
「綿棒とパンツね。分かった」
「時間です」
「それじゃね、次は月末頃に来るよ」
「ねーちゃんに金差し入れしてくれる様に頼んでくれよ」
「分かったよ。じゃね、ほら、瑠花、パパにバイバイだよ」
「パパ、バイバイ。またねー」
面会時間が終わって、賢司が重いドアの向こうに帰っていく。
この瞬間、何ともやりきれない想いが、瞳を襲う。
係の人が迎えに来てくれるまで、そのまま待つ。
「お待たせしました」
機械的な、でも決して冷たい言い方ではない刑務官の後について面会室を出る。
ロッカーからバッグを取り出し、鍵を返して売店の窓口に声をかける。
「差し入れお願いします」
「はい、面会は終わりましたか?」
「はい」
差し入れ用紙を受け取って、書き込んでゆく。
綿棒とパンツ。
あれ?
パンツのサイズってLだっけ?
ま、いいや。
『綿棒1』
『トランクスLサイズ1』
「お願いします」
用紙を差し出した。
そこでお金を払えば、そのまま賢司に届けてくれる。
相場よりかなり高いけど。
次は本の差し入れ。
また差し入れ場所が違う。
本館の玄関から入ってまっすぐ先に、窓口がある。
いつも親切な初老の女性職員が対応してくれる。
ここでも差し入れ用紙を書かなくてはならない。
瑠花と瞳で六冊分。
二枚の用紙に三冊ずつ、本の題名と住所や名前等々。
瑠花は自分の名前だけ書いた。
「あら、一生懸命書いたのね。お父さん見たら喜ぶわよ」
そうか!
全ての差し入れ用紙に、賢司は受け取りの指印を押すのだ。
「はい、大丈夫です。宅下げは有りませんね」
「よろしくお願いします。瑠花、帰ろう」
また80㎞の道のりを運転するのか、と思うと、いささか億劫(おっくう)になる。
「ママ、鮎!」
「分かったよ、本当に好きだねー」
自宅と刑務所の、丁度真ん中あたりの距離に、その『道の駅』はあった。
ここの直売所で売っている果物は、どれも新鮮で美味しい。
いつだったか・・・・。
旅の帰りに寄った時、まだ夏だった。
美味しそうな桃が箱で売っていた。
母が大好きだったので、一箱お土産屋に買った思い出が、ある。
その桃のなんと甘かった事か。
今年も桃に出会えたら、多分買うだろう。
そう考えながら、みかんの箱を見ていたら、『三ヶ日みかん』の文字があった。
三ヶ日みかん。
希少物で美味しい。
みかん好きにはたまらないブランド品だった。
瞳はひとりで一箱食べるほどの、みかん好きだ。
このままでは帰れない。
値段を見ると、三千円と書いた紙が貼ってあった。
なんという破格!
10㎏の三ヶ日みかんが三千円とは。
これは買いだとレジに向かう。
「ママ、イチゴあったよ」
「どれ?」
見てみると、三種類のイチゴがあった。
その中に『あまおう』という品種があった。
このイチゴは特別大きくなる。
瑠花のグーと同じくらいの大きさだ。
なので、一箱に10粒ほどしか入っていない。
あまり市場に出回らないこのイチゴは、銀座の千疋屋の、ケーキに乗っていたのを昔、見たっけ。
「ママ、どれが美味しいの?」
「んー、珍しいからこの一番大きいあまおうにしたら?」
「うん!」
一箱持ってレジに向かう。みかんとイチゴで四千円。
それから鮎を買いに売店に歩く。
珍しく、メスが二匹あった。
瑠花は大喜びでメス二匹お買い上げ。
さて、ここから約40㎞の帰り道だ。
つかの間の休憩をとって、また走り出した。
瑠花は疲れたらしく、いつの間にか眠っていた。
その手には、しっかりと鮎を抱えたままで。
あぁ!
腰が痛い。
でもあともう少しで家に着く。
帰ったら、ゆっくり休んでたっぷりと甘いミルクティーを飲もう。
マンションの地下駐車場に入って車を止めた。
「瑠花、おうちに着いたよ。起きてよ?」
「ん・・・・ねむい・・・・」
「もうおうちだから、部屋で寝なさいよ、ほら」
「あっ、瑠花の鮎ー!」
ぅわ!
びっくりした。
いきなり起きて走っていった。
何てゲンキンな奴だ。
全くパパにそっくりだわ。
ため息をつきながら瞳も後を追う。
疲れてるんだけどなぁ。
瑠花は部屋に入るなり鮎にかじりついていた。
「鮎、美味しい?」
「うん!瑠花鮎だーい好き」
「そ、よかったね」
瑠花のお腹が塞がっていれば、食事の準備は大丈夫かな。
瞳はキッチンに立ち、紅茶を淹れてソファーに座った。
砂糖を五杯とミルクをカップに入れて、紅茶を注ぐ。甘くて美味しいな。
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