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第三章
act 6 一年半が過ぎた
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月日の過ぎるのが早く感じる様になった。
賢司が逮捕されてから、一年半が過ぎた。
10月に入った。
4日に入ったお金で、ガソリンを満タンにして、賢司に頼まれていたマンガの本と歯ブラシに、手紙を添えて宅急便で送った。
面会には8日の火曜日に行くと書いて。
面会に行く前々日の夜、瑠花がパパに逢いたいと泣き出した。
明後日逢えるからと、なだめているうちに、瞳は眠剤が効いて眠ってしまったようだ。
このところ、寝つきが悪いので、少し眠剤を代えて貰ったのだが、まるで気絶する様に寝てしまう。
瑠花はその後も起きていて、相変わらずタブレットでニコニコ動画やアニメを観ているみたいだ。
一体何時に寝ているのやら。
8日は瑠花に7時に起こされた。
瞳は眠剤が抜けなくて、まだ起きられない。
「ママ~、起きてよ~!」
「・・・・まだ早いよ・・・・、9時にアラームかけてあるから・・・・もう少し寝かせて・・・・」
瑠花は車に乗れば寝られるけど、あたしは運転しなきゃならないんだよね。
パパに逢いたい気持ちは判るけど、無論、瞳だって逢いたい気持ちに変わりはない。
でもまだ起きられない・・・・。眠剤が抜けない・・・・。
保険に入ってない車で長距離を運転するんだから、事故なんて絶対に起こせない。
瑠花に邪魔されながらも、9時まで寝ていた。
アラームが鳴ったので、のそのそとベッドから這い出した。
まだ、眠い。
何を着ていくのかすら、決まらない。
あぁ、ダルいな。
ジャージで行こうかな。
今日は10月とは思えないほど暑かった。
ジャージなんかでは暑くて無理だわ。
20㎏も太ったせいで、瞳は着られる服が殆んどない。
せっせとダイエットしているのに、未だに成果は出ない。
サバの水煮缶を食べていた頃の方が体重は減っていた?
でも、今はどこのスーパーにもサバの水煮缶は売り切れで、買う事も出来なかった。
テレビの力は物凄いんだな。
痩せたい人がそれだけいるって事かな?
走り馴れた道のり。
見馴れた景色。
それでも、季節は秋へと向かっていた。
「瑠花、一番近いセブンでおでん買って行こうか?」
「うん!」
2日ほど前から、瑠花がおでんを食べたがっていたのだ。
なぜ今おでんなのか?
観ていたアニメにおでんが出てきたからだった。
刑務所の駐車場は、いつになく空いていた。
「瑠花、ママ受け付けして来ちゃうから」
「うん、瑠花待ってる」
どうせ面会は午後だ。
一時間半たっぷり時間はある。
瑠花と車の中で、おでんを食べながら時間の過ぎるのを待つ。
それももう馴れた。
最初の頃は午前中に着いてどうして間に合わないのかと思ってたけど、塀の中は時間はきっちりしてるんだなって思った。
だから午前中に面会しようとするには、6時頃に出掛けなければ無理だろう。
それも確実ではないのだが・・・・。
12時までに何人面会出来るだろう?
今は焦らずゆっくりと運転の疲れを取りながら、順番の来るのを待っている。
受け付けも済んだ。
あとは順番が来るのを待つだけ。
ここで待っていれば、必ず賢司に逢えるから。
午後一番で呼ばれた。
一月以上逢ってない。
重い鉄の扉を開けて、賢司が入って来た。
相変わらず瑠花は机の下にかくれんぼ。
「久し振り!」
「瑠花、パパだよ?出てきて顔見たら?」
「先月はお金がなくて来られなかったよ」
「あぁ、夏樹に聞いてたからな、金が入ったら来るんだろうと思ってたよ」
「そう、本は先に送ったけど・・・・届いた?」
「今日入って来たよ」
4日に送ったのに賢司の手元に届くまでにそんなにかかるんだ。
「俺、今月から2級に上がったよ」
「えっ?また上がったの?早くない?で、何が違うの?」
「お菓子が月2回食べられる!」
「お菓子ぃー?あとは?」
「面会が5回、手紙は7通まで出せるよ」
「面会5回って、毎週じゃん」
「まぁな。そうだ、翔に免許証のカラーコピー送ってくれって伝えてくれよ。幼なじみだって、証明できる書類があれば登録かけられるらしいからさ」
「ん~、判った。翔君何時に起きてるかよく判んないから、メールしとくよ」
「仕事が夜中から朝までだからな、メールでいいよ」
「判ったよ。・・・・瑠花、パパと話さないの?もう時間になっちゃうよ?」
「パパ、これアメジストのブレスレットだよ。瑠花がユーフォーキャッチャーでとったんだ。瑠花の誕生石なの」
「すくって落とすヤツでね、キティちゃんの財布を狙ってたみたいなんだけど、どう見ても棒がセロテープでくっ付けてある様に見えるんだよね。で、結局1900円使ってこのアメジストをとったんだよ」
「セロテープかぁー、そりゃ落ちないだろうな」
「瑠花と買い物行くと、高いものにつくよ・・・・」
瞳の金銭感覚も普通の人よりずれている。
共働きの、裕福な家庭で散々甘やかされて育ったからだ。
だから財布にお金が入っていると、つい余計な物に使ってしまう。
それに引き換え、賢司のお義母さんはひとりで姉弟三人を育て上げたのだ。
若い時に駆け落ちして、子供が三人もいるのに賢司の実の父は浮気ばかりだったと聞いた。
義母の実家はかなりのお金持ちだったらしく、義母が子供の頃には、女中さんがいたと聞いた。
実家に戻れば、何不自由なく子育てが出来たであろうに、義母は意地でも実家を頼ろうとはしなかった。
なぜ?と聞いた事があったけど。
「意地でもひとりで育てると、決めたんだ。駆け落ちしたしね。瞳には逆立ちしたって無理だろう?」
無理です。
間違いなく実家に戻ります。
そんな話をした事があった。
「瞳、次来る時歯ブラシとタオル頼むよ。歯ブラシ月1ぐらいで使っちゃうからさ」
「・・・・判ったよ。色々と出費がかさむなぁ。もうすぐクリスマスもやって来るしさ」
「クリスマスか。瑠花は何が欲しいんだ?」
「瑠花はサンタさんに3dsとポケモンのソフト貰うの」
「二万五千円はかかるだろうねぇ・・・・」
瞳はため息混じりに言った。
大体いつまでサンタさんを信じてるんだろ?
「時間です」
あぁ・・・・。
もう30分経つんだ。
話した気がしないよ。
いつまでも賢司と話していたい。
いつまでも賢司の顔を見ていたい。
でも、それももうすぐ叶う筈。
「じゃあね、次は再来週にまた来るよ」
「あぁ、気を付けて帰れよ。夏樹に本の差し入れ頼んでくれよ。続きが気になって眠れないってな」
賢司の姿が扉の向こうに消えていった。
「さて、差し入れしたら帰ろうか」
瑠花はもう飽きている、と言うより疲れているみたいだ。
それでも帰りの道の駅には寄りたいと言う。
「何を買うの?また鮎?」
「違うよ、お店の中を見たいの」
「苺でも買うの?」
「判んない」
あっそ。
あんまり財布にお金入ってないんだけどなぁ。
チビは気楽だなぁ。
結局瑠花はみかんを選んだ。
あと半分の道のりだ。
と、言っても40㎞はある。
何度通っても遠く感じる。早く帰って来てよ。
賢司がいない毎日は、やっぱり淋しいんだよ・・・・。
賢司が逮捕されてから、一年半が過ぎた。
10月に入った。
4日に入ったお金で、ガソリンを満タンにして、賢司に頼まれていたマンガの本と歯ブラシに、手紙を添えて宅急便で送った。
面会には8日の火曜日に行くと書いて。
面会に行く前々日の夜、瑠花がパパに逢いたいと泣き出した。
明後日逢えるからと、なだめているうちに、瞳は眠剤が効いて眠ってしまったようだ。
このところ、寝つきが悪いので、少し眠剤を代えて貰ったのだが、まるで気絶する様に寝てしまう。
瑠花はその後も起きていて、相変わらずタブレットでニコニコ動画やアニメを観ているみたいだ。
一体何時に寝ているのやら。
8日は瑠花に7時に起こされた。
瞳は眠剤が抜けなくて、まだ起きられない。
「ママ~、起きてよ~!」
「・・・・まだ早いよ・・・・、9時にアラームかけてあるから・・・・もう少し寝かせて・・・・」
瑠花は車に乗れば寝られるけど、あたしは運転しなきゃならないんだよね。
パパに逢いたい気持ちは判るけど、無論、瞳だって逢いたい気持ちに変わりはない。
でもまだ起きられない・・・・。眠剤が抜けない・・・・。
保険に入ってない車で長距離を運転するんだから、事故なんて絶対に起こせない。
瑠花に邪魔されながらも、9時まで寝ていた。
アラームが鳴ったので、のそのそとベッドから這い出した。
まだ、眠い。
何を着ていくのかすら、決まらない。
あぁ、ダルいな。
ジャージで行こうかな。
今日は10月とは思えないほど暑かった。
ジャージなんかでは暑くて無理だわ。
20㎏も太ったせいで、瞳は着られる服が殆んどない。
せっせとダイエットしているのに、未だに成果は出ない。
サバの水煮缶を食べていた頃の方が体重は減っていた?
でも、今はどこのスーパーにもサバの水煮缶は売り切れで、買う事も出来なかった。
テレビの力は物凄いんだな。
痩せたい人がそれだけいるって事かな?
走り馴れた道のり。
見馴れた景色。
それでも、季節は秋へと向かっていた。
「瑠花、一番近いセブンでおでん買って行こうか?」
「うん!」
2日ほど前から、瑠花がおでんを食べたがっていたのだ。
なぜ今おでんなのか?
観ていたアニメにおでんが出てきたからだった。
刑務所の駐車場は、いつになく空いていた。
「瑠花、ママ受け付けして来ちゃうから」
「うん、瑠花待ってる」
どうせ面会は午後だ。
一時間半たっぷり時間はある。
瑠花と車の中で、おでんを食べながら時間の過ぎるのを待つ。
それももう馴れた。
最初の頃は午前中に着いてどうして間に合わないのかと思ってたけど、塀の中は時間はきっちりしてるんだなって思った。
だから午前中に面会しようとするには、6時頃に出掛けなければ無理だろう。
それも確実ではないのだが・・・・。
12時までに何人面会出来るだろう?
今は焦らずゆっくりと運転の疲れを取りながら、順番の来るのを待っている。
受け付けも済んだ。
あとは順番が来るのを待つだけ。
ここで待っていれば、必ず賢司に逢えるから。
午後一番で呼ばれた。
一月以上逢ってない。
重い鉄の扉を開けて、賢司が入って来た。
相変わらず瑠花は机の下にかくれんぼ。
「久し振り!」
「瑠花、パパだよ?出てきて顔見たら?」
「先月はお金がなくて来られなかったよ」
「あぁ、夏樹に聞いてたからな、金が入ったら来るんだろうと思ってたよ」
「そう、本は先に送ったけど・・・・届いた?」
「今日入って来たよ」
4日に送ったのに賢司の手元に届くまでにそんなにかかるんだ。
「俺、今月から2級に上がったよ」
「えっ?また上がったの?早くない?で、何が違うの?」
「お菓子が月2回食べられる!」
「お菓子ぃー?あとは?」
「面会が5回、手紙は7通まで出せるよ」
「面会5回って、毎週じゃん」
「まぁな。そうだ、翔に免許証のカラーコピー送ってくれって伝えてくれよ。幼なじみだって、証明できる書類があれば登録かけられるらしいからさ」
「ん~、判った。翔君何時に起きてるかよく判んないから、メールしとくよ」
「仕事が夜中から朝までだからな、メールでいいよ」
「判ったよ。・・・・瑠花、パパと話さないの?もう時間になっちゃうよ?」
「パパ、これアメジストのブレスレットだよ。瑠花がユーフォーキャッチャーでとったんだ。瑠花の誕生石なの」
「すくって落とすヤツでね、キティちゃんの財布を狙ってたみたいなんだけど、どう見ても棒がセロテープでくっ付けてある様に見えるんだよね。で、結局1900円使ってこのアメジストをとったんだよ」
「セロテープかぁー、そりゃ落ちないだろうな」
「瑠花と買い物行くと、高いものにつくよ・・・・」
瞳の金銭感覚も普通の人よりずれている。
共働きの、裕福な家庭で散々甘やかされて育ったからだ。
だから財布にお金が入っていると、つい余計な物に使ってしまう。
それに引き換え、賢司のお義母さんはひとりで姉弟三人を育て上げたのだ。
若い時に駆け落ちして、子供が三人もいるのに賢司の実の父は浮気ばかりだったと聞いた。
義母の実家はかなりのお金持ちだったらしく、義母が子供の頃には、女中さんがいたと聞いた。
実家に戻れば、何不自由なく子育てが出来たであろうに、義母は意地でも実家を頼ろうとはしなかった。
なぜ?と聞いた事があったけど。
「意地でもひとりで育てると、決めたんだ。駆け落ちしたしね。瞳には逆立ちしたって無理だろう?」
無理です。
間違いなく実家に戻ります。
そんな話をした事があった。
「瞳、次来る時歯ブラシとタオル頼むよ。歯ブラシ月1ぐらいで使っちゃうからさ」
「・・・・判ったよ。色々と出費がかさむなぁ。もうすぐクリスマスもやって来るしさ」
「クリスマスか。瑠花は何が欲しいんだ?」
「瑠花はサンタさんに3dsとポケモンのソフト貰うの」
「二万五千円はかかるだろうねぇ・・・・」
瞳はため息混じりに言った。
大体いつまでサンタさんを信じてるんだろ?
「時間です」
あぁ・・・・。
もう30分経つんだ。
話した気がしないよ。
いつまでも賢司と話していたい。
いつまでも賢司の顔を見ていたい。
でも、それももうすぐ叶う筈。
「じゃあね、次は再来週にまた来るよ」
「あぁ、気を付けて帰れよ。夏樹に本の差し入れ頼んでくれよ。続きが気になって眠れないってな」
賢司の姿が扉の向こうに消えていった。
「さて、差し入れしたら帰ろうか」
瑠花はもう飽きている、と言うより疲れているみたいだ。
それでも帰りの道の駅には寄りたいと言う。
「何を買うの?また鮎?」
「違うよ、お店の中を見たいの」
「苺でも買うの?」
「判んない」
あっそ。
あんまり財布にお金入ってないんだけどなぁ。
チビは気楽だなぁ。
結局瑠花はみかんを選んだ。
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