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第三章
act 15 賢司に逢いたい
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検査の結果、今はインターフェロンの必要はない、というものだった。
肝機能も低いし、何よりC型肝炎ウイルスが、インターフェロン治療をする程多くなかった。
しかし・・・・。
C型肝炎からの影響で、肝臓へ入り込んでいる血管が半分しか映っていなかった。
「これはね、慢性肝炎だね。いつまた肝機能が上がってもおかしくない状態だね。これから肝硬変、肝臓がんに進む確率は高いからね」
まるで死の宣告のようにも聞こえるな。
どうせ長生きは出来ないと思っていた。
ただ・・・・。
今はまだ、死ねない。
瑠花を置いては、死ねないんだ。
賢司に逢いたい。
賢司に逢いたい。
頭の中でぐるぐると木霊する一言。
今度はいつ賢司の面会に行けるのだろう?
派遣の仕事が、一本、話し合いの段階で決裂したと、後になってから先方の社長に聞いた。
ああ、また収入源が消えたか。
学校に行かない瑠花を置いては、瞳が働く事すら、出来ない現状だった。
賢司さえ帰って来てくれれば・・・・。
そう思わない日はなかった。
賢司が逮捕されたあの日。
瞳があの日、選んだふたつの選択肢のひとつ。
それは、間違っていたの?
瞳が賢司の傍から離れずにいたら、違う道を賢司は選んでいた筈。
もう、2年以上賢司に抱かれていない。
けれど、明けない夜がない様に、瞳の暗闇にも光が差して来た。
賢司は来年帰って来る。
そう、もう一度年を越せば賢司は帰って来てくれるんだ。
生身の賢司に触れる事が出来るんだ。
今は、ただそれだけを支えの様に生きている。
それでも、瞳の不安が消えた訳ではない事に変わりはないのだが。
7月に入ってから、瞳は体調を崩していた。
38℃から下がらない発熱。
時には39℃まで上がる事もしばしばあった。
食欲もなく、日毎に衰弱していくのを感じていたが、自力でトイレに行くのもふらつく様では、とても自分で運転して病院へなど行けなかった。
それでも瑠花がいる。
食べさせなくてはならない。
震える足で、キッチンに立ち瑠花の分の食事を作る。
時に瑠花は、レンジでパスタが茹でられる100均で買った便利グッズで、自分でパスタを茹でて食べていた様だ。
・・・・瞳が眠ってしまっている間に。
瑠花は一日五食は食べる程、食いしん坊になっていた。
「ママ、大丈夫?」
「うん・・・・、まだ熱があってね、ママ寒いんだ」
そう言うと、瑠花は自分の毛布まで瞳に掛けてくれた。
実際、暑いのか寒いのかすら、解らなくなっていた。
しかも、何も食べられない。
覚醒剤が入っていない状態で、食べられないなんて本当に珍しい事だった。
あぁ、そう言えば、前回のインターフェロン治療の時も、副作用のせいで食べられなかったっけ。
あの時は半年で13キロも落ちたんだ。
熱は、ひと月続いた。
案の定、体重は5キロ落ちていた。
まるで、初めて覚醒剤を打ち続けられた時のようだ。
この原因不明の発熱も、覚醒剤と関係があるのだろうか?
瞳には、解らない事だが。
賢司は、賢司なら知っているのだろうか?
この瞳の急変する体調の理由を。
けれど、覚醒剤を使って賢司が体調を崩した所を、見た事がない。
せいぜい睡眠薬を飲んで、奇妙な行動を取るくらいしか、瞳は知らない。
ある日、瞳が目覚めた時、賢司が寝室にいなかった。
もう起きたのかと思ったら、廊下で下半身だけ脱いで爆睡していた。
ここまで来ると、驚きを通り越して呆れて来る。
本人には全く記憶がないのだ。
多分、その時飲んでいた睡眠薬がハルシオンだからかも知れない。
瞳も以前掛かっていた心療内科で処方されたハルシオンを飲んで、幻覚や幻聴の類いを見ていた事があった。
更には、解離性同一性障害とまで診断されたのだ。
解離性同一性障害イコール多重人格障害の事である。
瞳の中に、もうひとりの人格が存在していた。
いや、いる、と言った方が正解かも知れない。
瞳の中の別人格は、消えた訳ではないのだ。
今でも何かの拍子に人格交代は起こっていたのだから。
人格交代で出て来るもうひとりの瞳は、攻撃的な性格をしている。
本来の瞳が窮地に立たされた時、人格は交代する。
瞳を助ける為に、どんな事にも自ら火の中へ飛び込む。
が、元の瞳に戻ると必ずアレがやって来る。
『過換気症候群』
過呼吸の発作だった。
肝機能も低いし、何よりC型肝炎ウイルスが、インターフェロン治療をする程多くなかった。
しかし・・・・。
C型肝炎からの影響で、肝臓へ入り込んでいる血管が半分しか映っていなかった。
「これはね、慢性肝炎だね。いつまた肝機能が上がってもおかしくない状態だね。これから肝硬変、肝臓がんに進む確率は高いからね」
まるで死の宣告のようにも聞こえるな。
どうせ長生きは出来ないと思っていた。
ただ・・・・。
今はまだ、死ねない。
瑠花を置いては、死ねないんだ。
賢司に逢いたい。
賢司に逢いたい。
頭の中でぐるぐると木霊する一言。
今度はいつ賢司の面会に行けるのだろう?
派遣の仕事が、一本、話し合いの段階で決裂したと、後になってから先方の社長に聞いた。
ああ、また収入源が消えたか。
学校に行かない瑠花を置いては、瞳が働く事すら、出来ない現状だった。
賢司さえ帰って来てくれれば・・・・。
そう思わない日はなかった。
賢司が逮捕されたあの日。
瞳があの日、選んだふたつの選択肢のひとつ。
それは、間違っていたの?
瞳が賢司の傍から離れずにいたら、違う道を賢司は選んでいた筈。
もう、2年以上賢司に抱かれていない。
けれど、明けない夜がない様に、瞳の暗闇にも光が差して来た。
賢司は来年帰って来る。
そう、もう一度年を越せば賢司は帰って来てくれるんだ。
生身の賢司に触れる事が出来るんだ。
今は、ただそれだけを支えの様に生きている。
それでも、瞳の不安が消えた訳ではない事に変わりはないのだが。
7月に入ってから、瞳は体調を崩していた。
38℃から下がらない発熱。
時には39℃まで上がる事もしばしばあった。
食欲もなく、日毎に衰弱していくのを感じていたが、自力でトイレに行くのもふらつく様では、とても自分で運転して病院へなど行けなかった。
それでも瑠花がいる。
食べさせなくてはならない。
震える足で、キッチンに立ち瑠花の分の食事を作る。
時に瑠花は、レンジでパスタが茹でられる100均で買った便利グッズで、自分でパスタを茹でて食べていた様だ。
・・・・瞳が眠ってしまっている間に。
瑠花は一日五食は食べる程、食いしん坊になっていた。
「ママ、大丈夫?」
「うん・・・・、まだ熱があってね、ママ寒いんだ」
そう言うと、瑠花は自分の毛布まで瞳に掛けてくれた。
実際、暑いのか寒いのかすら、解らなくなっていた。
しかも、何も食べられない。
覚醒剤が入っていない状態で、食べられないなんて本当に珍しい事だった。
あぁ、そう言えば、前回のインターフェロン治療の時も、副作用のせいで食べられなかったっけ。
あの時は半年で13キロも落ちたんだ。
熱は、ひと月続いた。
案の定、体重は5キロ落ちていた。
まるで、初めて覚醒剤を打ち続けられた時のようだ。
この原因不明の発熱も、覚醒剤と関係があるのだろうか?
瞳には、解らない事だが。
賢司は、賢司なら知っているのだろうか?
この瞳の急変する体調の理由を。
けれど、覚醒剤を使って賢司が体調を崩した所を、見た事がない。
せいぜい睡眠薬を飲んで、奇妙な行動を取るくらいしか、瞳は知らない。
ある日、瞳が目覚めた時、賢司が寝室にいなかった。
もう起きたのかと思ったら、廊下で下半身だけ脱いで爆睡していた。
ここまで来ると、驚きを通り越して呆れて来る。
本人には全く記憶がないのだ。
多分、その時飲んでいた睡眠薬がハルシオンだからかも知れない。
瞳も以前掛かっていた心療内科で処方されたハルシオンを飲んで、幻覚や幻聴の類いを見ていた事があった。
更には、解離性同一性障害とまで診断されたのだ。
解離性同一性障害イコール多重人格障害の事である。
瞳の中に、もうひとりの人格が存在していた。
いや、いる、と言った方が正解かも知れない。
瞳の中の別人格は、消えた訳ではないのだ。
今でも何かの拍子に人格交代は起こっていたのだから。
人格交代で出て来るもうひとりの瞳は、攻撃的な性格をしている。
本来の瞳が窮地に立たされた時、人格は交代する。
瞳を助ける為に、どんな事にも自ら火の中へ飛び込む。
が、元の瞳に戻ると必ずアレがやって来る。
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