聖女が片っ端から結婚退職するので地味で本オタクの私が聖女に任命されました

厚焼タマゴ

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初めての王都と赤い髪の聖騎士

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 反射的に口をついた返事は、思ったよりも強めの拒絶を帯びて響いた、しまった、さすがに失礼だったかと後悔したものの、一度声に出した言葉を引っ込めることはできない。

 そもそもセラとは何でどこの誰なのか、少なくともアンゼリカとは一文字も被っていない。王都で流行りの冗談かとも思ったが、ディル様の顔は至って真面目だった。私相手なのだから当然といえば当然だが、美しい婦人を口説く時のような照れもない。熱烈、真剣。それにしても心配になるほど手が熱い。

「っすまない! さすがに急すぎた!」
「こちらこそ無礼をお許しください、ところでセラとは」
「怪我がなくて本当に良かった、セラに何かあったら俺は……」
「事故を未然に防いでいたたぎありがとうございます、ところでセラとは」
「聖騎士殿、アンゼリカ様はこれから王宮にて聖女任命の儀を行いますのでそろそろ……」

 未だ固く握られたままの手に、御者の男性が見かねた様子で声をかけると、ディル様が息を呑んだ。
 
「聖女!? セラは聖女になるのか!?」
「アンゼリカです」
「儀式が終わればお会いする機会もあるでしょう。急いでおりますので、今日のところはお下がりください」

 港で聞いた話によると、現在王宮へと繋がる道は落雷による倒木で塞がっており、徒歩で丘陵を登る必要があるらしい。山上の図書館で働いていた私にとっては大した道のりではないものの、早めに向かうに越したことはない。

 儀式と聞いて、ディル様がようやく指をほどく。何か言いたげな金の瞳でじっと私を見て、しかしゆっくりと踵を引いた。

「そうか……わかった、儀式がつつがなく終わるよう祈っている」

 名残惜しげな声は、なぜか、北方に向かうと決めた私の身を案じた父を思い出させた。血の繋がるものへの親しみと労り。おかしい。どう考えても、つい数十分前に出会った人なのに。
 俺がついているからなと言い残して頭を下げる姿に何か声をかけようと口を開いたものの、言葉を発する前に馬車の扉は閉まり、燃えさかる赤と清廉な白で構成された立ち姿は遠ざかっていった。




「…………変わった方だったな」

 再び流れ始めた風景を横目で見ながら、ぽつりと呟く。
 夢にまで見た大聖堂が目前に迫っているというのに、頭の中では先ほど交わしたやり取りが忙しなく乱反射していた。金色の瞳。聞いたことのない名前と、熱い肌。話に聞いていた聖騎士のイメージとはかけ離れた出会いに困惑する気持ちはあるが、無事聖女になった暁には事情を訊ねる機会もあるだろうか。

「まあ私のような聖女もいるのだし、聖騎士と言っても色々な方がいて当たり前か」

 ふと開いた両手には、強い力の感触が残っている。そういえば殿方に手を握られたのは初めてだと知らず眉をひそめた時、私は想像もしていなかった。ディル・トモハという聖騎士との奇妙な繋がりも、それが私たちの間にどんな関係を生むのかも。
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