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番外編
番外編の番外編の番外編:幼馴染 後編 ※R18
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「それは子供がいる時でもゆっくりできる」
言うなり可南子は急くように二の腕を掴まれ椅子から立ち上がらされた。顔を寄せられて額に口づけをされる。
「抱いていいか」
「なっ」
拒否されることを想定していない、あまりにも直球な誘い。素直な返事も難しく返答に困って見上げた可南子の耳元に、亮一は唇を近づけてきた。
「いいだろう?」
ぞくぞくするほど自信たっぷりな低い声は、耳から体の隅々に伝わった。可南子の粟立った肌に耳まで赤くした顔は、それだけで返事になってしまっている。
「可南子に」
掴まれていた腕を引かれて洗面所を出ると、亮一は迷いなく夫婦の寝室に足を向けた。ベッドのある部屋で何をする気かなんて聞くほど初心じゃない。
「まだそんな可愛い顔をしてもらえる俺は幸せだな」
亮一に優しい目を向けられて、心の中にふわりと柔らかいものが舞った。恥ずかしさを抑えながら、躊躇いがちに尋ねる。
「……大好きって、亮一さんだけだって、わかってもらえる、顔?」
「ああ」
寝室に入るとベッドに腰掛けた亮一の膝の上に乗せられた。抱き締められて彼の体温の高さにほっとしながら、鍛えられた二の腕にそっと手を乗せる。
彼が欲しいと体中が叫んでいて、でも、子供を迎えの時間を気にする理性もちゃんとあった。体を合わせたすぐ後に義母に会う気恥ずかしさも手伝って、彼の膝から降りる。
抱き締めてくれていた彼は簡単に体を解放してくれて見上げてきた。
「自分で服を脱いで、上から乗ってくれるのか」
亮一のからかうような口調に、可南子は慌てて顔を横に振った。
「まぁ、何を考えているのかは大体わかるが、今は二人きりだ」
可南子は立ち上がった亮一に捕まってあっという間にベッドに乗せられる。スプリングに弾んだ体に彼が覆い被さってきた。
子供の迎えの時間が気になって、近づいてきた彼の唇を手の平で優しく押し返した。
「お迎え、遅くなるってどれくらい」
「他の男と一時間は同じ車で一緒にいたんだ。それが拭えるくらいに……しつこいぞ、俺は」
運転席の涼太は淡々としていて好意を持たれていたとは思いにくい。
可南子がぽかんと亮一の嫉妬に歪んだ目を凝視している間に、スカートの裾を捲りあげられ太腿が外気に晒された。身に付けたばかりの下着がするりと足から抜かれる。
「まだ、言ってるの?」
「俺はしつこいんだ」
亮一が下肢に顔を埋め蜜唇に舌を這わせ始めた。かかる熱い吐息と、垂らされた唾液。彼に塗り広げるようにねっとりと舐めあげられると、そこが燃えるように熱くなっていく。
「や……ッ」
ひどく敏感な場所を舌先で突つきながら、亮一は静かに呟く。
「可南子は俺の奥さんだ」
危険なほど強い視線を向けられて、可南子は瞬きを繰り返した。
浮気なんてしないし、しようと思った事も無い。結衣と広信の結婚式の三次会で、よろめいたところを支えて貰ったあの瞬間から、もう何年も切れ長の強い目に囚われたままだ。
きっとこれからも、大好きだという気持ちは強くなっていく。
「ひっ、あ、あああっ」
ふいに零れた蜜を、音を立てて吸われて、腰を引きながら喘いでしまった。喉から漏れでた声は部屋中に響いて、自分の口を手の甲で押さえる。
「毎日、聞きたい声だな」
「む、むり」
こんなことが毎日続けば体が悲鳴を上げてしまうと、可南子は涙目になった。
蜜口を舌先で抉られると、悦に零れた蜜が臀部からシーツに伝う。薄暗い部屋でもわかる彼のギラギラとした目で見上げられれば、緩んだ恥ずかしさは大きくなった。
敏感な粒を指で優しく捏ねながら、彼はやっと顔を離す。
「無理っていうなよ」
「だって」
薄笑いした亮一が指を差し込みはじめ、可南子は背を仰け反らせた。いやらしい粘着質な音をくちくちと立てながら、徐々に中は広げられていく。
声を堪えていると、亮一は呟いた。
「何のために、二人だけの時間を作ったと思ってるんだ。声、聴かせてくれ」
亮一の指は可南子の感じるところを知っていて、そこを執拗に擦り始めた。懸命に奥歯を噛みしめて押し殺そうとした声は、疼きに押し上げられて喉から漏れだす。
「んっ……はぁ、ふぁっ、あっあっ」
もっと奥まで刺激が欲しくて、腰は少しでも届きやすいように浮いてしまった。快感は波のように押し寄せてきて高みへと連れて行く。
「気持ち良いか」
「んっ、あ、うんっ。……いいっ」
渦になっていた快感が弾ける手前で、亮一が指を抜いてしまった。
「あ」
どうして、あと少しだったのに。そんな責めるような可南子を彼は目を細めて見返した。
「欲しがる可南子をもっと見たいが、こっちも限界」
そう言った亮一にすぐに避妊具を被せた猛りが押し付けられ、可南子の体が喜びに戦慄いた。
粘膜を割って、熱い猛りが奥へと押し込まれていく。
「……っ、あっ……ッ」
彼の形がわかるほど奥までみっちりと埋まった圧迫感。蕩けた粘膜は彼を締め付けて、もっと奥へと誘おうとする。
「相変わらず、いい」
亮一は腰を動かしながら可南子の胸を掬うように掴んだ。乳首を刺激しながら、揺さぶられると、目の前にチカチカと白い花火が散る。
「やっ、あっ……」
軽く高みに到達した中が彼をひくひくと締め付けて、痺れた体が脱力してベッドに沈み込んだ。可南子が快感の余韻に浸る間も無く、亮一は最奥へと猛ったままの欲望を押し入れる。
「つらかったら、言ってくれ」
「ひぁっ……あ……っ。ああっ」
捩じ込まれるように突かれては、引き抜かれる。奥を抉るように繰り返される抽送は、舌の付け根が引きつるような強い快感で、可南子の口は開いたままになった。
「亮一、さん」
ほとんど無意識に彼の名を口にした。
中のすべて感触を確かめるような彼の動きに、不思議と愛しさを感じる。心と体、全部で愛してくれていると信じられるのだ。
「痛いか」
亮一が動きを止めて、心配そうに覗き込んできた。
彼に囚われたままの心が、体をどこまでも従順にさせてしまう。蜜を零し、粘膜を蕩けさせ、どんな奥までも彼を迎え入れる。
「大好き……」
浮かされたように口にしたけれど、どこまでも本当だ。わかってもらえるだろうかと、久しぶりに会った幼馴染にさえ嫉妬する亮一の返事を待つ。
「……俺も大好きだよ、奥さん。閉じ込めたいくらいに」
彼のどこか陰のある言葉も唇が重ねれば甘くなる。舌が口の中に入って来て、もっと受け入れるように可南子は口を開いた。
亮一の腰の動きが激しさを増し、烈しい悦に頭の中が真っ白になる。意識が遠くなるような感覚と、耳の中で打つどくどくとした鼓動。
いつまでも一緒にいたくて、可南子は亮一の肩をぎゅっと抱き締めた。
◇
『俺、無罪』
電話越しの義弟の浩二は明らかに酔っていて、亮一は嘆息した。
「いいか、今度から俺が迎えに行くから、可南子を引き止めてくれ」
『無理だよ。姉ちゃんも頑固だもん』
「ならせめて、涼太に送らせるのはやめろ」
『いい大人なんだから、そんな心配するような事でも』
話にならないと思いながら亮一はスマートフォンを持っていない方の手で額を押さえる。
「とにかく涼太はやめてくれ」
『それも無理だって。涼太は姉ちゃんへの初恋をこじらせて独身だもん。旦那不在が多いって知って、あわよくばと……』
「それがわかっていて、何故、送らせた……」
自分でもわかるほどの冷たい声だった。電話口の浩二が慌てたのがわかる。
『姉ちゃんなら大丈夫だからだよ。義兄さんのことしか見てないし』
「亮一さん」
着替え終わった可南子が慌てた様子でドアを開けてきた。
「あ、ごめんなさい。電話中」
「いいんだ。くれぐれも頼んだぞ」
一方的に言って、亮一は電話を切る。
「誰だったの」
「浩二」
嘘を付く必要もないから素直に答えると、可南子が眉根を寄せた。
「もう……。あなたの妻はそんなにモテませんし、モテたことありませんし」
「自己申告はあてにならない」
呆れ切った様子で腰に手をやる可南子は文句なしに綺麗だ。歳を重ねて落ち着きと柔らかさが増し、あわよくば触れたくなる美しさがある。
「この話は終わり。子供を迎えに行こうよ」
可南子がそわそわと落ち着かないのは子供を預けたままだからだろう。母の朝子は孫と過ごすのを楽しんでいるが、可南子は甘えてしまうのはよくないと考えている。
「なぁ、可南子」
「何?」
玄関で靴を履いてから、最愛の妻を見下ろす。
今から自分はとても恰好悪い事を言おうとしている。だが、嫉妬に狂う姿を見せているわけで、今更だと亮一は深呼吸をした。
「俺も、『りょうちゃん』だ」
「……?」
「小さい頃、『りょうちゃん』と呼ばれてた」
「亮一さん、ですもんね」
小首を傾げながら話を合わせてくれる妻は意図をわかってくれない。亮一は照れ隠しに顔を渋らせると、小さく咳払いをした。
「……りょうちゃん、と呼ぶなら俺の事にしてくれ」
「……」
みるみる破顔していく可南子から顔を逸らして、亮一は玄関のドアノブに手を掛ける。
「りょうちゃん」
可南子に背中から抱き着かれて、亮一は開けかけていたドアを閉めた。
「大好き」
自分を赤面させるのは、可南子と娘くらいだろう。
「ありがとう」
面倒くさい気持ちをいつも受け止めてくれて、感謝しかない。亮一は胴に回ってきた可南子の手をそっと包み込む。
「ありがとう、奥さん」
これからも、ずっと一緒に。亮一はそんな願いを込めて、可南子の手の甲を撫でた。
言うなり可南子は急くように二の腕を掴まれ椅子から立ち上がらされた。顔を寄せられて額に口づけをされる。
「抱いていいか」
「なっ」
拒否されることを想定していない、あまりにも直球な誘い。素直な返事も難しく返答に困って見上げた可南子の耳元に、亮一は唇を近づけてきた。
「いいだろう?」
ぞくぞくするほど自信たっぷりな低い声は、耳から体の隅々に伝わった。可南子の粟立った肌に耳まで赤くした顔は、それだけで返事になってしまっている。
「可南子に」
掴まれていた腕を引かれて洗面所を出ると、亮一は迷いなく夫婦の寝室に足を向けた。ベッドのある部屋で何をする気かなんて聞くほど初心じゃない。
「まだそんな可愛い顔をしてもらえる俺は幸せだな」
亮一に優しい目を向けられて、心の中にふわりと柔らかいものが舞った。恥ずかしさを抑えながら、躊躇いがちに尋ねる。
「……大好きって、亮一さんだけだって、わかってもらえる、顔?」
「ああ」
寝室に入るとベッドに腰掛けた亮一の膝の上に乗せられた。抱き締められて彼の体温の高さにほっとしながら、鍛えられた二の腕にそっと手を乗せる。
彼が欲しいと体中が叫んでいて、でも、子供を迎えの時間を気にする理性もちゃんとあった。体を合わせたすぐ後に義母に会う気恥ずかしさも手伝って、彼の膝から降りる。
抱き締めてくれていた彼は簡単に体を解放してくれて見上げてきた。
「自分で服を脱いで、上から乗ってくれるのか」
亮一のからかうような口調に、可南子は慌てて顔を横に振った。
「まぁ、何を考えているのかは大体わかるが、今は二人きりだ」
可南子は立ち上がった亮一に捕まってあっという間にベッドに乗せられる。スプリングに弾んだ体に彼が覆い被さってきた。
子供の迎えの時間が気になって、近づいてきた彼の唇を手の平で優しく押し返した。
「お迎え、遅くなるってどれくらい」
「他の男と一時間は同じ車で一緒にいたんだ。それが拭えるくらいに……しつこいぞ、俺は」
運転席の涼太は淡々としていて好意を持たれていたとは思いにくい。
可南子がぽかんと亮一の嫉妬に歪んだ目を凝視している間に、スカートの裾を捲りあげられ太腿が外気に晒された。身に付けたばかりの下着がするりと足から抜かれる。
「まだ、言ってるの?」
「俺はしつこいんだ」
亮一が下肢に顔を埋め蜜唇に舌を這わせ始めた。かかる熱い吐息と、垂らされた唾液。彼に塗り広げるようにねっとりと舐めあげられると、そこが燃えるように熱くなっていく。
「や……ッ」
ひどく敏感な場所を舌先で突つきながら、亮一は静かに呟く。
「可南子は俺の奥さんだ」
危険なほど強い視線を向けられて、可南子は瞬きを繰り返した。
浮気なんてしないし、しようと思った事も無い。結衣と広信の結婚式の三次会で、よろめいたところを支えて貰ったあの瞬間から、もう何年も切れ長の強い目に囚われたままだ。
きっとこれからも、大好きだという気持ちは強くなっていく。
「ひっ、あ、あああっ」
ふいに零れた蜜を、音を立てて吸われて、腰を引きながら喘いでしまった。喉から漏れでた声は部屋中に響いて、自分の口を手の甲で押さえる。
「毎日、聞きたい声だな」
「む、むり」
こんなことが毎日続けば体が悲鳴を上げてしまうと、可南子は涙目になった。
蜜口を舌先で抉られると、悦に零れた蜜が臀部からシーツに伝う。薄暗い部屋でもわかる彼のギラギラとした目で見上げられれば、緩んだ恥ずかしさは大きくなった。
敏感な粒を指で優しく捏ねながら、彼はやっと顔を離す。
「無理っていうなよ」
「だって」
薄笑いした亮一が指を差し込みはじめ、可南子は背を仰け反らせた。いやらしい粘着質な音をくちくちと立てながら、徐々に中は広げられていく。
声を堪えていると、亮一は呟いた。
「何のために、二人だけの時間を作ったと思ってるんだ。声、聴かせてくれ」
亮一の指は可南子の感じるところを知っていて、そこを執拗に擦り始めた。懸命に奥歯を噛みしめて押し殺そうとした声は、疼きに押し上げられて喉から漏れだす。
「んっ……はぁ、ふぁっ、あっあっ」
もっと奥まで刺激が欲しくて、腰は少しでも届きやすいように浮いてしまった。快感は波のように押し寄せてきて高みへと連れて行く。
「気持ち良いか」
「んっ、あ、うんっ。……いいっ」
渦になっていた快感が弾ける手前で、亮一が指を抜いてしまった。
「あ」
どうして、あと少しだったのに。そんな責めるような可南子を彼は目を細めて見返した。
「欲しがる可南子をもっと見たいが、こっちも限界」
そう言った亮一にすぐに避妊具を被せた猛りが押し付けられ、可南子の体が喜びに戦慄いた。
粘膜を割って、熱い猛りが奥へと押し込まれていく。
「……っ、あっ……ッ」
彼の形がわかるほど奥までみっちりと埋まった圧迫感。蕩けた粘膜は彼を締め付けて、もっと奥へと誘おうとする。
「相変わらず、いい」
亮一は腰を動かしながら可南子の胸を掬うように掴んだ。乳首を刺激しながら、揺さぶられると、目の前にチカチカと白い花火が散る。
「やっ、あっ……」
軽く高みに到達した中が彼をひくひくと締め付けて、痺れた体が脱力してベッドに沈み込んだ。可南子が快感の余韻に浸る間も無く、亮一は最奥へと猛ったままの欲望を押し入れる。
「つらかったら、言ってくれ」
「ひぁっ……あ……っ。ああっ」
捩じ込まれるように突かれては、引き抜かれる。奥を抉るように繰り返される抽送は、舌の付け根が引きつるような強い快感で、可南子の口は開いたままになった。
「亮一、さん」
ほとんど無意識に彼の名を口にした。
中のすべて感触を確かめるような彼の動きに、不思議と愛しさを感じる。心と体、全部で愛してくれていると信じられるのだ。
「痛いか」
亮一が動きを止めて、心配そうに覗き込んできた。
彼に囚われたままの心が、体をどこまでも従順にさせてしまう。蜜を零し、粘膜を蕩けさせ、どんな奥までも彼を迎え入れる。
「大好き……」
浮かされたように口にしたけれど、どこまでも本当だ。わかってもらえるだろうかと、久しぶりに会った幼馴染にさえ嫉妬する亮一の返事を待つ。
「……俺も大好きだよ、奥さん。閉じ込めたいくらいに」
彼のどこか陰のある言葉も唇が重ねれば甘くなる。舌が口の中に入って来て、もっと受け入れるように可南子は口を開いた。
亮一の腰の動きが激しさを増し、烈しい悦に頭の中が真っ白になる。意識が遠くなるような感覚と、耳の中で打つどくどくとした鼓動。
いつまでも一緒にいたくて、可南子は亮一の肩をぎゅっと抱き締めた。
◇
『俺、無罪』
電話越しの義弟の浩二は明らかに酔っていて、亮一は嘆息した。
「いいか、今度から俺が迎えに行くから、可南子を引き止めてくれ」
『無理だよ。姉ちゃんも頑固だもん』
「ならせめて、涼太に送らせるのはやめろ」
『いい大人なんだから、そんな心配するような事でも』
話にならないと思いながら亮一はスマートフォンを持っていない方の手で額を押さえる。
「とにかく涼太はやめてくれ」
『それも無理だって。涼太は姉ちゃんへの初恋をこじらせて独身だもん。旦那不在が多いって知って、あわよくばと……』
「それがわかっていて、何故、送らせた……」
自分でもわかるほどの冷たい声だった。電話口の浩二が慌てたのがわかる。
『姉ちゃんなら大丈夫だからだよ。義兄さんのことしか見てないし』
「亮一さん」
着替え終わった可南子が慌てた様子でドアを開けてきた。
「あ、ごめんなさい。電話中」
「いいんだ。くれぐれも頼んだぞ」
一方的に言って、亮一は電話を切る。
「誰だったの」
「浩二」
嘘を付く必要もないから素直に答えると、可南子が眉根を寄せた。
「もう……。あなたの妻はそんなにモテませんし、モテたことありませんし」
「自己申告はあてにならない」
呆れ切った様子で腰に手をやる可南子は文句なしに綺麗だ。歳を重ねて落ち着きと柔らかさが増し、あわよくば触れたくなる美しさがある。
「この話は終わり。子供を迎えに行こうよ」
可南子がそわそわと落ち着かないのは子供を預けたままだからだろう。母の朝子は孫と過ごすのを楽しんでいるが、可南子は甘えてしまうのはよくないと考えている。
「なぁ、可南子」
「何?」
玄関で靴を履いてから、最愛の妻を見下ろす。
今から自分はとても恰好悪い事を言おうとしている。だが、嫉妬に狂う姿を見せているわけで、今更だと亮一は深呼吸をした。
「俺も、『りょうちゃん』だ」
「……?」
「小さい頃、『りょうちゃん』と呼ばれてた」
「亮一さん、ですもんね」
小首を傾げながら話を合わせてくれる妻は意図をわかってくれない。亮一は照れ隠しに顔を渋らせると、小さく咳払いをした。
「……りょうちゃん、と呼ぶなら俺の事にしてくれ」
「……」
みるみる破顔していく可南子から顔を逸らして、亮一は玄関のドアノブに手を掛ける。
「りょうちゃん」
可南子に背中から抱き着かれて、亮一は開けかけていたドアを閉めた。
「大好き」
自分を赤面させるのは、可南子と娘くらいだろう。
「ありがとう」
面倒くさい気持ちをいつも受け止めてくれて、感謝しかない。亮一は胴に回ってきた可南子の手をそっと包み込む。
「ありがとう、奥さん」
これからも、ずっと一緒に。亮一はそんな願いを込めて、可南子の手の甲を撫でた。
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※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
このシリーズが本当に大好きです。単行本も文庫本も購入してます。ドキドキしながら読めるお話です。亮一と可南子のすれ違いながら思い合うところがたまりません。何かの折々に小話を追加していただけると嬉しいです。
あきまま様
感想をありがとうございます。単行本と文庫本のご購入もありがとうございます!!
小話ですね!時間があれば…と思いつつ、放置する形になっていますが、頭の中にはありますので、いつか出したいと思います。本当にそれがいつだと思いつつ……(><)
その時はお付き合い頂けますと幸いです。
このシリーズが本当に大好きです。亮一の溺愛具合がたまらない!さり気なく独占欲で囲っちゃう亮一も良いし、健気でちょっと臆病で、でも実は強い所もあって一生懸命の可南子も可愛い。二人を暖かく囲む友人&同僚のお話しも好きです。次世代にも続いて、これからもずーっと読んでいきたいお気に入りの作品です!!
ゆきももさん
感想をありがとうございます!亮一と可南子を褒めまくってくれて、とても嬉しいです。
周りのキャラも濃いくなってしまって、ついつい番外編が進んでしまう物語になってしまいました。
ずーっと読んでいただけるように、またいつか更新しますね!
その時はお付き合い頂けますと幸いです。
とても大好きな作品です。
本ではここまで感じなかったけど、なかなかのヤンデレで番外編がさらにツボでした。
亮一の愛し方が素敵ですね。
仕事も大事という態度もありつつ、大好きな奥さんのために態度を改めて変わっていく姿もかっこいい。
心理描写や魅力的な周囲の人間たちのおかげで、とても読み応えがあります。
応援してますので、また素敵な作品を読ませてください。
はるこさん
感想をありがとうございます!
ヤンデレとは気付きませんでしたが、はるこさんのツボにストライクで嬉しいです!
応援をありがとうございます。
またアップできるような作品を書きたいと思います。
その時はお付き合い頂けますと幸いです。