世界が終わるという結果論

二神 秀

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CHAPTER.2 燥ぐ鈍色(ハシャグニビイロ)【天体衝突9ヶ月前(梅雨)】

§ 2ー5  6月23日   メッセージ

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--神奈川県・某大学部室棟--


 今にも泣き出しそうな灰と白のコントラストに、赤や青の紫陽花あじさいたちだけが、その涙を誘うように色づいている。そんなことを思うのも、土曜の午前中のキャンパスには人影がほとんどなく、陽光の薄さが花以外のいろどりをせさせているからだろう。

 そんな梅雨らしい静けさを忘れたように、開いた窓からやんちゃな小人がイタズラに熱中していそうな生き生きとしたメロディーがあふれ出していた。

 ヴォーカルの千歳舞衣が悪気もなく30分以上遅刻して参加してからメロディーは違う表情になる。主役は歌声に変わり、他の音色は歌の引き立て役に配役変更を余儀よぎなくさせられる。

 それ程に舞衣の歌声には、理屈では語れない内包ないほうされていた。低いのに聴き取りやすく、耳に入った音は余韻よいんを残す。しかし、その余韻は決して心地よいものではない。どこか謎めいて、見てはいけないものを見たくなるカリギュラ効果のような、心をざわつかせる声。本能を魅了みりょうさせる音。実際、舞衣が参加してから軽音楽部の部室周辺には、土曜に大学に来ていた他のサークルや部活動の学生たちがその歌声に立ち止まり、数十人が耳を傾けるようになっていた。



「よー! やっと練習終わったかー」

 昼過ぎに練習を終え、大学の側にある馴染なじみの定食屋に黒い翼エルノワールの4人が訪れると部長のオサムさんが、待ってました、と意気揚々とこちらに手を振り出迎えてくれた。
 広い座敷の席には他に副部長のルミ先輩と3バカの御三方も食べ終わった食器類を前に座っていた。

「おつかれ、4人共」

「「「ウェルカ~ム♪」」」

「おつかれさまでーす。先輩たちもここに来てたんッスね」

 久弥が代表して挨拶を交わす。4人全員ランチ定食をおばちゃんに注文して、隣の席に着く。たわいもない雑談をしているうちに、キャベツの千切りにチキンカツと唐揚げ、ナメコの味噌汁、きんぴらごぼう、白飯、デザートのみかんのヨーグルト、これらが1つのぜんに乗せられて席に4人分並べられた。「あー、キタキタ♪」と寝坊して何も食べてなかった舞衣が一目散に口にき込みだすと、他の3人も箸を持つ。蒸し暑さもエアコンで取り除かれており、デザートを食べ終わるまでノンストップで4人とも食べ切った。

 食後に冷えた麦茶を飲んでいるとオサムさんが誕生日席に座り、爛々らんらんとした瞳で口を開いた。

「お前ら、知ってるか?」

「知ってまーす」

「おい! まだ何も言ってないだろ、颯太」

 オサムさんの話の応対は、何故かいつも俺がしているので、この場でも自然に自分が代表して返事をする。

「また、どっかの知り合いから聞いた都市伝説ですかー?」

「そうそう、この辺りで人面犬が……って、バカー! 都市伝説とかじゃねーから!」

「人面犬とかチョイスが古くないッスか?(笑)」

 ポカッ。横から茶々を入れた久弥が間髪入れずに殴られた。この流れ何度目だよ。

「コホン! あー、これはな、相模原のJAXAジャクサの友人から聞いたんだがな」

「またパンドラですか?」

「またとか言うなよ。極秘情報なんだからさ」

「はいはい」

「それでな、お前ら。4月の下旬の大規模通信障害を覚えてるか?」

「んー、そういえばスマホが急に使えなくなって困ったことありましたね。あれはライブの前だったから、GW前だったかな」

「それそれ! あれな、実はあのパンドラからの干渉電波が送られたことが原因だったんだよ!」

「はぁー?」

「相模原のやつの話によるとな、あのときと同じような謎の電波が何度か観測されてるって話なんだよ! これはすっごいぞー」

「……えー、ちなみにその電波はなんで送られてきてたんですか?」

「それがな、どうやら何かしらの情報があるのは確からしいんだが、解析しようとスパコンにかけても文字化けやら解析不能になるらしいんだよ」

「じゃぁー、結局何にもわからないんですね」

「何を言ってるんだ! 颯太!! これは地球以外にも知的生命体が存在するれっきとした証だぞ! ついにこの時が来るとは。未知との遭遇そうぐう! ET! いや、地球を侵略しにきたのかも? インディペンデンス・デイかぁ!?」

 立ち上がって、誰に向かってか笑い狂うオサムさん。座り込んで下を向いて項垂うなだれる軽音部員たち。信号機の3バカたちは、意味が分かってないのかノリだけで『アメージング~♪』と元気でも集めているように、両手を突き上げている。

「なぁ、颯太。今調べてみたけど、電波障害って通信会社の施設の機材トラブルって書いてあるんだけど」

「……オサムさんには、言わないでおこう」

 久弥が余計なことを言わないように釘を打っておく。無邪気にはしゃぐオサムさんの気分を害すれば|、この話しが夕方まで続きねない。こっそり会計を済ませて店を出ようとしているのを、ルミ先輩に肩をつかまれ止められ、定食屋のおばちゃんに怒られるまでオサムさんの話しにつき合わされることになった。

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