もう恋なんてしない

第8話 ギャップ

「この企画書は誰が作った？川崎由衣…は、あんたじゃないだろう？どうして本人が持ってこない？」
資料を確認していたはずの飛鷹は急に顔を上げると不機嫌そうに沙那を睨んで聞いた。

「…え？」

「なんのためにメールではなく、わざわざ企画書を持ってくるよう言っているのか企画営業部のヤツらは理解しているのか？」

飛鷹の失礼な物言いに
「言い方！」
相師が突っ込む。

「だいたいお前がもっとビシっと社員を教育しないから意図もわからず他人に企画書を持って行かせるようなヤツが出てくるんだ」

遠縁の親戚で幼馴染みとはいえ、いち社員なのにズバズバと言い放つ飛鷹。

さらにさっきまでの穏かで涼しそうな雰囲気はどこへやら
「はぁっ？！何なんだ？その言い方は！」
ムキになって返す相師を見て沙那は思わず吹き出してしまった。

それに気づいた飛鷹と相師の視線が一気に突き刺さって焦る。

「…あ…。す、すみません…」

慌てて謝った沙那を見て
「こ、こっちこそごめん。会社なのについムキになっちゃって…」
気まずそうに謝る相師。

「なぜ謝る？相師が謝る必要などないだろう。そんなことよりも、この企画書を書いたヤツに自分で持ってくるよう伝えておけ」
なんて意地悪な人なんだろうとは思ったけど、突き返された企画書を見て少しだけ印象が変わった。

上原さんと話していたほんの10分くらいでチェックポイントやコメントがびっしりと書き込まれていたから。