もう恋なんてしない

第9話 それ…彼氏です

企画書に書き込まれた文字は読みやすく丁寧に書かれていて、見た目や言動から受ける印象とのギャップを感じてしまった。

「ああっ、もういい。お前に任せておいたら女子社員が全員辞めてしまいそうだ。俺が橋渡し役をやるから、川崎さんには俺のところへ持ってくるよう伝えてくれる？」

呆れた相師の提案に心の中で
「きっとそっちのほうがいいかも」
賛成しつつ、企画書に書き込まれたコメントにはハッとさせられることも多くて驚く。

こんな丁寧に企画書を戻してくれる人、上原さん以外にはいない。
2人も仕事に対してすごく真面目で熱心なんだなぁ…。

感心していると
「あ、そういえばさっき、このまえ言ってたヤツの資料をデータで送ったのに既読になってなかったぞ。人を急かしておいて、お前もたいがいだな」
機嫌を損ねたままの相師が飛鷹に言う。

「…あ。さっきは集中していたからな。悪い。いま、見せてもらっていいか？」

飛鷹に言われてチラリと沙那を見た相師だったけれど
「まぁ、大丈夫か。知り合いなんてそんな偶然はないだろうし」
ぶつぶつ言いながらポケットから取り出したスマホを操作。

「こいつが白藤拓人しらふじたくとね」

相師がそう言って飛鷹にスマホを見せた瞬間
「…え？拓人…？」
沙那は反射的に反応してしまっていた。

「…え？」
思わず驚いた相師と目が合う。

「えっと…。香村さん…、知り合いだったりする…？」
相師にじっと見つめられ、ウソはつけなかった。

「それ…彼氏です」