もう恋なんてしない

第38話 楽しかった飲み会

「彼氏が行方不明になってることを思い出させるような話をしてごめんね…。楽しい飲み会を台無しにしてごめんよぉ…」

飛鷹からきつく注意を受けた相師は沙那に謝るも、さっそく
「エビさ～ん、ビールおかわり」
まったく懲りていない様子でビールを注文。

飛鷹を呆れさせた。

「嫌な気持ちにさせてしまって悪いな」
「い、いえ。とんでもないです」

「悪いヤツではないし、嫌な思いをさせるつもりで言ったわけではないと思うんだが…。申し訳ない」
「そ、そんな…」

こんなに真剣に謝罪されると、それはそれで戸惑ってしまう。

「…付き合っていた相手がいなくなっちゃうとか、奇遇ですね」
どうにか軽い感じで受け止めてから話題を切り替えようとした沙那は
「あぁ…」
完全に失敗。

「じゃあそろそろ沙那ちゃんの荷物を取りに行きますか！」
しばらく続いていた重い空気は相師が破壊してくれた。

よかった、この人がいて。
…まぁ、発端もこの人なんだけど。

「上原さん、飛鷹さん、今日は本当にありがとうございました」

居酒屋から出てすぐにお礼を言った沙那に
「へへ。こちらこそ。…って、いまから俺たちの家へ行くんだよ。そんないちいちお礼を言ってたらもたないよ。何かあったら俺たちのこと頼ってね」
相師がやさしく言う。

なにはともあれ楽しい飲み会のお陰で嫌な気分も吹き飛んで、2人の意外な一面も知ることができた沙那は大満足。

社内で人気の上原さんと冷たいって噂の飛鷹さんと3人で飲んだなんて会社の女の子たちが知ったらきっと、大騒ぎになるんだろうなぁ…。

なんか、不思議な日。

沙那は空にぼんやりと浮かぶ大きな満月を見上げて少しほっこりとした気分になった。