もう恋なんてしない

第123話 思い当たる不穏

いつもは穏やかな相師がそこまで怪訝な表情をするようなことをしたとは思えないし、そこまで機嫌を損ねられるようなことをした覚えもない。

ただシイタケファームの予約をし忘れただけ。

飛鷹と2人で行く予定だった工場見学に相師も同行することになったキッカケは、シイタケファームのシイタケせんべいを食べたことだった。

仕事とかのアポではなく、プライベートでのレジャー予約を忘れただけであんな怪訝そうな顔をするとか…。
上原さんも行きたいっていたし、よっぽど楽しみだったのかな？ 

「ご、ごめんなさい。上原さんがそこまでシイタケファームの工場見学を楽しみにしていたとは思わなくて…。明日、必ず予約の電話してみます」

沙那が言った瞬間、相師がビクっとなって反射的な感じで聞いた。

「シイタケファームの工場見学って、いまもそんな予約が取れないの？」

「…え？い、いまも…？と聞かれると、どうでしょう。前のオーナー田村さんのときはすぐに予約がいっぱいになってたので、そのときのイメージのまま答えてしまって…。すみません」

なんだかいつもとは雰囲気の違う相師に思わず謝罪した沙那に相師があらためて聞く。

「…ちょっと確かめたいこともあるからその予約、俺に任せてくれない？」
「え…？いいですけど…。私が予約をし忘れていたのに、逆にいいんですか？」

言いながら
「上原さん、また私が予約をし忘れると思ってるとか…？」
すっかり凹んでしまった沙那。

そんな沙那にも気づかず相師は、パーティー会場から出てきたときの飛鷹と沙那の会話、そして悠馬のGPSが途絶えた位置を思い出して不穏な気持ちに包まれ、ひとりつぶやいた。

「まさか…ね」