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魔法学園編
87 真夏の夜の夢【中編】
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煌びやかな夜会会場から、さほど遠くない国境地帯の荒野。暗闇に蠢くものがあった――グワルフ王国軍だ。名将と名高いディディエ将軍を先頭に、数千人の兵士が岩陰に身を隠していた。
「国の緊急事態に夜会など、馬鹿な連中よ」
夜会という名の馬鹿騒ぎが終わり、酒に酔った貴族が寝入ったタイミングで、兵を動かす。斥候の報告から、侵攻ルートにある国境の砦は護りが手薄だとわかっている。いつもと違う地点からの夜襲は、まさに寝耳に水だろう。
刻々と運命の刻限は迫りつつあった。
◆◆◆
怪我をしたのが右手でなくてよかった。
ゆったりとしたワルツ。私の負傷した左手は、アルの右肩の上。そう、乗っかっているだけだ。ホールドはしていないので、私の左手分の負担はひとえに腰に添えられたアルの右手にかかっている。
「痛くないか?」
アルの問いもかれこれ七回目だ。
「うん。大丈夫。アルこそ、疲れてない?」
ド庶民の私にダンスの素養があるわけない。怪我を配慮して練習も少なかったし、今の私はアルに抱っこされて踊っているようなものだ。
「この程度、何と言うこともない」
リズム感はあるんだな、と微笑むアル。
異世界のワルツは、前世で聞いたことのあるそれと同じ、日本人の大好きな三拍子『ずんちゃっちゃ』、だ。足のステップも簡単なものだし、何とか躓かずに済んでいる。
チラと大広間の前方に目をやれば、一段高く設えられた壇に豪奢な椅子を起き、この国の王族と呼ばれる一家が寛いでいた。
ちなみに、真ん中の一番大きな椅子に座ってお酒を飲んでいる金髪のでっぷりした中年男性が国王様で、その隣は王妃様の席らしいが空席。体調不良を理由に欠席……というのは建前で、息子の企てた日程前倒しに白髪染めが間に合わなかったとかそうでないとか。王妃様の髪色はベビーピンク。珍しい髪色なもので、染髪料は特注品らしいよ?
国王様夫妻の席を挟むように、少し装飾を抑えた小ぶりな椅子が左右に置かれていて、片方が王太子ライオネル様――アナベル様の婚約者で金髪碧眼の美男子だけど、頭は残念だと専らの噂――の席、もう一つが王太子の妹で第一王女イヴァンジェリン様の席だ。彼女の髪は鮮やかな赤紫色。
おわかりだろうか。
父親は金髪、母親はベビーピンク髪。王太子の金髪は父親譲りとわかるけど、王女の紫髪は説明がつかない。噂によると、彼女は王の子ではなく、失脚した宮廷魔術師ヴァンサンとの不義の子じゃないか…とかなんとか。カラフルでツッコミ所の多いロイヤルファミリーである。
「よそ見とは余裕だな」
少し拗ねたような声に、私は声の主を見上げた。優しい緑玉の瞳が私を見つめている。
「今は、俺だけを見ていろ」
命令形なのに、柔らかく笑む彼にトクンと胸が鳴る。
「うん…。私の心は貴方だけのモノだよ、アル」
お姫様みたいな格好をして、アルと踊れるなんて…。月並みな言葉だけど、夢のようだよ。向かい合って踊るアルは、漆黒に銀糸の刺繍が艶やかな夜会服。ぐっと大人びて見えて……。貴方と一緒にいると、とても心地いいの。見つめられると、胸が高鳴って仕方がないんだ。
「アル……好き。一生忘れない」
素敵な思い出を、夢を見させてくれてありがとう。今だけは、貴方の恋人だと……貴方の唯一だと勘違いしてもいいだろうか。
◆◆◆
「アル……好き。一生忘れない」
向かい合って踊る彼女が、蕩けるような顔で言った。
「……。」
黙って微笑んでいるのを、これほど難しいと思ったことはない。表情筋を総動員して、にやけ下がっただらしない顔になってしまうのを抑え込む。
(こんな顔して…後で覚えてろよ)
絶対、自分が今どんな顔をしているか自覚していないだろう、彼女は。こんな幸せそうな顔して素直な言葉を吐く――どんなに俺を煽っているのか。
彼女の唇を奪った時のことが脳裏を過る。熱を帯びて潤んだ空色の瞳、吐息交じりの甘やかな声、抱きしめた身体は温かく、柔らかくて――邪魔が入らなければ、あのまま衝動に身を任せていただろうとは、想像するに難くない。
何も知らずに、ふわふわと幸せそうに笑う恋人を見つめる。着飾った彼女は、想像以上に綺麗だ。誰にも、渡したくない。
けれど、神様はそう簡単に俺に彼女をくれはしなかった。
「皆、聞いてくれ!」
大広間に、若い男の声が響き渡り、衆目を集めた。壇上に、この夜会の立役者――ペレアス王国の王太子、ライオネルが立ったからだ。
「国の未来を決める、重大な決定がある!」
大広間を見渡して、ライオネルが言った。
「アナベル・フォン・ニミュエ!貴様の罪を今この場で明らかにすると共に余との婚約を破棄する!前へ出よ!」
◆◆◆
古参派の足元が今、崩れ去ろうとしている。己の宣言と同時に人の波が引き、ポツンと佇む少女を見下ろしてライオネルは確信した。突然の指名と婚約破棄宣言に、アナベルは呆然としているようだった。その様に満足して、ライオネルは口の端を僅かに持ち上げた。
「そなたの第一の罪!余との婚約がありながら、他の男に身体を許したこと」
大広間に動揺の波が広がった。当然だろう。男尊女卑の社会で、男が愛妾を持つことはごく普通と受け取られても、その逆は大罪とされているからだ。
「相手の男も特定できている。ロイ・フォン・デズモンド!貴様だ!」
同じように人並みが割れ、一人の若者が現れた。
「王太子たる余を裏切り、このような過ちを犯すふしだらな女など、国母たるに相応しくない!よって余との婚約を破棄し、その男も処刑…」
「待った!」
ライオネルの愉悦も露わな口上を何者かが遮った。ピクリ、と己の眉が跳ねる――無論、不快感でだ。見れば、いつの間にかロイの横に女が一人、立っている。
「?」
見たことのない女だ。茶色の髪に空色の瞳。凛として美しく整った顔立ち。その女がまっすぐにライオネルを見上げ、口を開いた。
「それは言いがかりだぜ?」
「……は?」
壇上のライオネルの目が点になった。なぜなら、見た目は完全に女なのに、声が低い男のものだったからだ。
人々が注目する中、何故かその女は綺麗に結いあげていた髪を乱暴な手つきでほぐし、次いで下ろした髪を麻紐で一つに縛ってしまった。その格好で、
「おい!そこの騎士!俺に見覚え、あるよな?」
会場に佇む一人の騎士をビシィッと指さした。指名された騎士は、一瞬キョトンとしたものの、みるみるその目を大きくした。
「お、おまえ!先日学園に出た魔物を食い止めていた…!?な、何?!女…、だと?!」
動揺した様は、到底演技とは思えない。それどころか、女を見た数人の貴族が、
「お、おまえ?!女?!えっ?!メドラウド公子息の新しい従者じゃ?!」
「な?!男じゃなかったのか?!」
「胸!胸があるぞ!でも声は…」
狼狽して騒ぎ出したのだ。
ざわざわし始める会場に、ライオネルは目を剥いた。
「貴様!何者だ!」
まるで、三文芝居の悪役が吐くような台詞だ。俺が悪役?!何をバカな…
…既に混乱し始めているライオネル。
「俺?俺はサイラス。メドラウド公子息アルフレッド様の『護衛』さ」
悪そうな笑みを浮かべ、その女はまるで男のように胸を張った。
女曰く。
普段自分は魔法で声を変え、姿を偽り、『男性』として生活しているという。ライオネルは、この時点で既に理解が及ばない。どうして女が女でいないんだ??
「彼も俺の同類さ。つまり、ロイ・フォン・デズモンドではない」
「………は?」
いや、意味がわからない。どうしてそこでその間男が出てくる??
「な?ロザリーちゃん?」
悪辣な笑みを浮かべて、間男に腕を回す、女。
………は?
ロザリーちゃん???
何語だ、それ??
阿呆みたいに口を半開きにしたままのライオネルに、女はドヤ顔で言った。
「つまり、彼女も、俺同様姿を偽っている女ってことさ!」
◆◆◆
間男だと糾弾した奴は実は男に化けた女で、本名はロザリー。男性として振る舞うために、普段はロイと名乗っていた。ロイ・フォン・デズモンドとは別人だという。
「女が女と一緒にいるのは異常かな?」
ムカつくような笑顔でサイラスとかいう女が問う。……同性と一緒にいるのが異常なら、この大広間にたむろする大半の人間は異常者になってしまう。咄嗟にライオネルはどう言い返していいかわからなかった。いや…仮にも王族に対してその言い草は不敬だ牢にぶちこめとか…言うべきことはあるのだが、残念なことにライオネルは思いつかなかった。
「いや!前提がおかしいだろう!なぜ女が男のフリなどせねばならんのだ!」
誰か知らないが、見事なツッコミを入れてくれた。後で褒美を取らせよう!ライオネルは密かに決意した。
「では聞くが。女の護衛と男の護衛、どちらが舐めてかかられると思う?」
「そんなもの、女の護衛に決まっているだろう」
ふふん、とその誰かが言った。…うん?
「もう一つ。女性を護るのに絶対に間違いを起こさないのは、女の護衛か?男の護衛か?」
「それも女の護衛だな。女同士で不義など起きようもない」
正論だ。だから?
「女の護衛は、女性を護るには最適だが、どうしても舐められやすい。なら、男装して見た目は男の護衛として振る舞えば、懸念が解決する。そうだろう?」
「そ…それはそう、だが…」
……あれ?説得されちゃってるぞ。どうしたしっかりしろ、どこぞの誰とやら。
「護衛対象の性別にも臨機応変に対応できる人材こそ今求められている。賢明な閣下なら当然ご存知ですよね?」
「そ…それはもちろん。常識だ」
あれぇ~~?!
「国の緊急事態に夜会など、馬鹿な連中よ」
夜会という名の馬鹿騒ぎが終わり、酒に酔った貴族が寝入ったタイミングで、兵を動かす。斥候の報告から、侵攻ルートにある国境の砦は護りが手薄だとわかっている。いつもと違う地点からの夜襲は、まさに寝耳に水だろう。
刻々と運命の刻限は迫りつつあった。
◆◆◆
怪我をしたのが右手でなくてよかった。
ゆったりとしたワルツ。私の負傷した左手は、アルの右肩の上。そう、乗っかっているだけだ。ホールドはしていないので、私の左手分の負担はひとえに腰に添えられたアルの右手にかかっている。
「痛くないか?」
アルの問いもかれこれ七回目だ。
「うん。大丈夫。アルこそ、疲れてない?」
ド庶民の私にダンスの素養があるわけない。怪我を配慮して練習も少なかったし、今の私はアルに抱っこされて踊っているようなものだ。
「この程度、何と言うこともない」
リズム感はあるんだな、と微笑むアル。
異世界のワルツは、前世で聞いたことのあるそれと同じ、日本人の大好きな三拍子『ずんちゃっちゃ』、だ。足のステップも簡単なものだし、何とか躓かずに済んでいる。
チラと大広間の前方に目をやれば、一段高く設えられた壇に豪奢な椅子を起き、この国の王族と呼ばれる一家が寛いでいた。
ちなみに、真ん中の一番大きな椅子に座ってお酒を飲んでいる金髪のでっぷりした中年男性が国王様で、その隣は王妃様の席らしいが空席。体調不良を理由に欠席……というのは建前で、息子の企てた日程前倒しに白髪染めが間に合わなかったとかそうでないとか。王妃様の髪色はベビーピンク。珍しい髪色なもので、染髪料は特注品らしいよ?
国王様夫妻の席を挟むように、少し装飾を抑えた小ぶりな椅子が左右に置かれていて、片方が王太子ライオネル様――アナベル様の婚約者で金髪碧眼の美男子だけど、頭は残念だと専らの噂――の席、もう一つが王太子の妹で第一王女イヴァンジェリン様の席だ。彼女の髪は鮮やかな赤紫色。
おわかりだろうか。
父親は金髪、母親はベビーピンク髪。王太子の金髪は父親譲りとわかるけど、王女の紫髪は説明がつかない。噂によると、彼女は王の子ではなく、失脚した宮廷魔術師ヴァンサンとの不義の子じゃないか…とかなんとか。カラフルでツッコミ所の多いロイヤルファミリーである。
「よそ見とは余裕だな」
少し拗ねたような声に、私は声の主を見上げた。優しい緑玉の瞳が私を見つめている。
「今は、俺だけを見ていろ」
命令形なのに、柔らかく笑む彼にトクンと胸が鳴る。
「うん…。私の心は貴方だけのモノだよ、アル」
お姫様みたいな格好をして、アルと踊れるなんて…。月並みな言葉だけど、夢のようだよ。向かい合って踊るアルは、漆黒に銀糸の刺繍が艶やかな夜会服。ぐっと大人びて見えて……。貴方と一緒にいると、とても心地いいの。見つめられると、胸が高鳴って仕方がないんだ。
「アル……好き。一生忘れない」
素敵な思い出を、夢を見させてくれてありがとう。今だけは、貴方の恋人だと……貴方の唯一だと勘違いしてもいいだろうか。
◆◆◆
「アル……好き。一生忘れない」
向かい合って踊る彼女が、蕩けるような顔で言った。
「……。」
黙って微笑んでいるのを、これほど難しいと思ったことはない。表情筋を総動員して、にやけ下がっただらしない顔になってしまうのを抑え込む。
(こんな顔して…後で覚えてろよ)
絶対、自分が今どんな顔をしているか自覚していないだろう、彼女は。こんな幸せそうな顔して素直な言葉を吐く――どんなに俺を煽っているのか。
彼女の唇を奪った時のことが脳裏を過る。熱を帯びて潤んだ空色の瞳、吐息交じりの甘やかな声、抱きしめた身体は温かく、柔らかくて――邪魔が入らなければ、あのまま衝動に身を任せていただろうとは、想像するに難くない。
何も知らずに、ふわふわと幸せそうに笑う恋人を見つめる。着飾った彼女は、想像以上に綺麗だ。誰にも、渡したくない。
けれど、神様はそう簡単に俺に彼女をくれはしなかった。
「皆、聞いてくれ!」
大広間に、若い男の声が響き渡り、衆目を集めた。壇上に、この夜会の立役者――ペレアス王国の王太子、ライオネルが立ったからだ。
「国の未来を決める、重大な決定がある!」
大広間を見渡して、ライオネルが言った。
「アナベル・フォン・ニミュエ!貴様の罪を今この場で明らかにすると共に余との婚約を破棄する!前へ出よ!」
◆◆◆
古参派の足元が今、崩れ去ろうとしている。己の宣言と同時に人の波が引き、ポツンと佇む少女を見下ろしてライオネルは確信した。突然の指名と婚約破棄宣言に、アナベルは呆然としているようだった。その様に満足して、ライオネルは口の端を僅かに持ち上げた。
「そなたの第一の罪!余との婚約がありながら、他の男に身体を許したこと」
大広間に動揺の波が広がった。当然だろう。男尊女卑の社会で、男が愛妾を持つことはごく普通と受け取られても、その逆は大罪とされているからだ。
「相手の男も特定できている。ロイ・フォン・デズモンド!貴様だ!」
同じように人並みが割れ、一人の若者が現れた。
「王太子たる余を裏切り、このような過ちを犯すふしだらな女など、国母たるに相応しくない!よって余との婚約を破棄し、その男も処刑…」
「待った!」
ライオネルの愉悦も露わな口上を何者かが遮った。ピクリ、と己の眉が跳ねる――無論、不快感でだ。見れば、いつの間にかロイの横に女が一人、立っている。
「?」
見たことのない女だ。茶色の髪に空色の瞳。凛として美しく整った顔立ち。その女がまっすぐにライオネルを見上げ、口を開いた。
「それは言いがかりだぜ?」
「……は?」
壇上のライオネルの目が点になった。なぜなら、見た目は完全に女なのに、声が低い男のものだったからだ。
人々が注目する中、何故かその女は綺麗に結いあげていた髪を乱暴な手つきでほぐし、次いで下ろした髪を麻紐で一つに縛ってしまった。その格好で、
「おい!そこの騎士!俺に見覚え、あるよな?」
会場に佇む一人の騎士をビシィッと指さした。指名された騎士は、一瞬キョトンとしたものの、みるみるその目を大きくした。
「お、おまえ!先日学園に出た魔物を食い止めていた…!?な、何?!女…、だと?!」
動揺した様は、到底演技とは思えない。それどころか、女を見た数人の貴族が、
「お、おまえ?!女?!えっ?!メドラウド公子息の新しい従者じゃ?!」
「な?!男じゃなかったのか?!」
「胸!胸があるぞ!でも声は…」
狼狽して騒ぎ出したのだ。
ざわざわし始める会場に、ライオネルは目を剥いた。
「貴様!何者だ!」
まるで、三文芝居の悪役が吐くような台詞だ。俺が悪役?!何をバカな…
…既に混乱し始めているライオネル。
「俺?俺はサイラス。メドラウド公子息アルフレッド様の『護衛』さ」
悪そうな笑みを浮かべ、その女はまるで男のように胸を張った。
女曰く。
普段自分は魔法で声を変え、姿を偽り、『男性』として生活しているという。ライオネルは、この時点で既に理解が及ばない。どうして女が女でいないんだ??
「彼も俺の同類さ。つまり、ロイ・フォン・デズモンドではない」
「………は?」
いや、意味がわからない。どうしてそこでその間男が出てくる??
「な?ロザリーちゃん?」
悪辣な笑みを浮かべて、間男に腕を回す、女。
………は?
ロザリーちゃん???
何語だ、それ??
阿呆みたいに口を半開きにしたままのライオネルに、女はドヤ顔で言った。
「つまり、彼女も、俺同様姿を偽っている女ってことさ!」
◆◆◆
間男だと糾弾した奴は実は男に化けた女で、本名はロザリー。男性として振る舞うために、普段はロイと名乗っていた。ロイ・フォン・デズモンドとは別人だという。
「女が女と一緒にいるのは異常かな?」
ムカつくような笑顔でサイラスとかいう女が問う。……同性と一緒にいるのが異常なら、この大広間にたむろする大半の人間は異常者になってしまう。咄嗟にライオネルはどう言い返していいかわからなかった。いや…仮にも王族に対してその言い草は不敬だ牢にぶちこめとか…言うべきことはあるのだが、残念なことにライオネルは思いつかなかった。
「いや!前提がおかしいだろう!なぜ女が男のフリなどせねばならんのだ!」
誰か知らないが、見事なツッコミを入れてくれた。後で褒美を取らせよう!ライオネルは密かに決意した。
「では聞くが。女の護衛と男の護衛、どちらが舐めてかかられると思う?」
「そんなもの、女の護衛に決まっているだろう」
ふふん、とその誰かが言った。…うん?
「もう一つ。女性を護るのに絶対に間違いを起こさないのは、女の護衛か?男の護衛か?」
「それも女の護衛だな。女同士で不義など起きようもない」
正論だ。だから?
「女の護衛は、女性を護るには最適だが、どうしても舐められやすい。なら、男装して見た目は男の護衛として振る舞えば、懸念が解決する。そうだろう?」
「そ…それはそう、だが…」
……あれ?説得されちゃってるぞ。どうしたしっかりしろ、どこぞの誰とやら。
「護衛対象の性別にも臨機応変に対応できる人材こそ今求められている。賢明な閣下なら当然ご存知ですよね?」
「そ…それはもちろん。常識だ」
あれぇ~~?!
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