RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

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魔法学園編

80 男たちの珍道中

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王都、モルゲン邸のエントランス。
見送りに出た妹と話していたら、サイラスが走り出てきた。顔を見るのはかなり久しぶりだな。
「ブルーノ様!これ、使って下さい!」
勢いよく差し出されたのは、
「マント…?」
よくある、革製のヤツだ。貴族の自分が身につけるには少々地味だが。
「いざという時、魔力を込めてください。何かが起こります…!」
何だその『何かが起こる』って。
「マントの裏側に描いた呪印、古い本に書いてあったんですけど…解説部分が欠損してまして…」
…どういう効果があるかわからないらしい。ナニソレ怖い!
「参考までに申し上げますと、前ページには『閃光による目眩まし効果』の呪印、次ページには『幻惑による隠蓑効果』の呪印が書いてあったんで、似たようなものかと…」
…つまり、万が一道中賊が出た時に使える時間稼ぎな呪印か。ふむ。
「ありがとう。御守りと思うことにするよ」
空気を読める男ブルーノは、ヘンな贈り物を寄越した庶民に穏やかに笑んでみせた。それらしく、奴の頭に軽く手を置いて――手触りがしっとりと柔らかい。まるで手入れを怠らない女の髪みたいだ――ブルーノは馬に跨がった。ネーザルの話に出てきた帝国の織物商人と繋ぎを作る。城壁の外でネーザルと落ち合い、ニミュエ領内の港へ向かう。何としてでもかの商人を引き入れねばならない。ブルーノは使命感に燃えていた。

王都から目的地の港へは、馬をとばせば最短で三日ほどで辿り着く。さすが古参派貴族の筆頭とあり、その領地は王都に隣接して広大、そして外海に面し海上防衛も一手に担っている。
治安も安定していると評判の街道を、最低限の護衛を連れたブルーノとネーザルは駆け、港まであと少しという地点で…
「おい、身ぐるみ置いて行きやがれ」
まさかの賊に出くわした。
「(や…やっぱり寄り道しようとしたのが)」
縄でグルグル巻きにされた従者がコソコソと呟いた。同じく縛られた護衛たちも、チラッと主たちに責めるように目をやった。
「くっ…!悪かったな!」
「そうだ!おまえ達もノリノリだったではないかっ!」
彼らが寄り道しようとした先――街道から脇道を南に少し行った先にある宿場グラムールは、健全な男性のためのテーマパーク……艶宿街だ。しかも美人でグラマラスな女がたくさんいると噂の。
「たまにはイイ思いがしたかったんだよっ!」
ブルーノの叫びに、気まずげに黙り込む護衛&従者。彼らだって、期待していなかったわけではない。むしろ、ご褒美ヒャッハーなテンションだった。主従はずぅ~んと落ちこんだ。
「この道、そんっっなにマイナーな道だったかなぁ…」
ブルーノの知る限り、この脇道の先にはニミュエ公爵領ご自慢の穀倉地帯があったはずだが。
「ふむ…。そう言えばここは、小麦商人の通る道のはず」
ネーザルとブルーノは顔を見合わせた。そう。小麦商人が足繁く通う道だからこそ、彼らを目当てに艶宿街が成立したのだ。
ブルーノたちが賊に連れて来られたのは、道の脇にポツンとある小村で、どうも村自体が賊のアジトと化しているようだった。なるほど…商人がたくさん通るから、賊も商売が成り立つと?
「そう言えば…なんだか賊の持ってる武器、妙ですねぇ」
見張りたちを観察していた従者が囁いた。護衛たちも「どれどれ…」とこっそり賊の持つ武器に目をやる。
「(呪印…魔力付与か?!)」
「(これは下手に手出しできませんぞ)」
呪印で魔力付与された武器は厄介だ。何せ大して魔法が使えなくとも、魔法戦士並みの攻撃ができるとかなんとか…。
と、そこへ。
「お頭ァ、とっ捕まえやした」
筋肉ダルマな賊が連れてきたのは、麻袋を両脇にぶら下げた驢馬数頭。驢馬と商品の主と思しき人間はいない。
「人間の方はァ、身ぐるみ剥いで捨ててきやしたんで」
「よし、門を閉めろ。今日は獲物が多い。酒盛りだ」
頭と呼ばれた男が、縛られたブルーノたちを見下ろしてニヤリと笑った。
「祭りだ!野郎ども!」
「「「「「イェ~~イ!!」」」」」
薄汚い格好の農民風情な賊が気勢をあげた。
「ネーザル殿、マズいことになりましたぞ」
ブルーノは背中合わせに縛られたネーザルに囁いた。
「ま、マズいこととは?」
囁き返すネーザル。ブルーノは小声で説明した。
「賊は『祭り』をする…つまり、我らを磔にして火をつけるに決まっている!」
「……へ?」
ネーザルは知らなかったが、モルゲンにおいて『祭り』とは、大罪人を磔にして火をつけて「イエ~~♪」ってやるイベントである。
「縄を切ります」
言いながら、ブルーノは器用に風魔法を使い、ネーザルをはじめとする仲間たちの縄を音もなく切ってみせた。うん。やっぱりブルーノは有能。本番にも強い。
「三、二、一、で一斉にこのマントに魔力を込めて敵にぶん投げるんだ。何かが起こるらしい」
懐から取り出した茶色いモノに、従者が目を見開く。
「……ブルーノ様、それは」
「サイラスが寄越した目眩まし効果の呪印付きマントだ。俺だけの魔力じゃ心許ないし、失敗は命取りだ。皆で頼む」
目線だけで、ネーザルをはじめ従者&護衛と頷きあう。男たちの心は一つになった。
「よし、三、二、一…!」
一斉に立ち上がって、件のマントに魔力を込めた男たち。誰も呪印の用法用量を無視していることなど考えもしなかった。

ズズズズ……

ドゴオオオォォン!!!

マントの呪印が紅い光を放ち、地響きとともに見上げるような土の巨人――ゴーレムが姿を現した。

「ウォオオオオ!!!」

夕陽を背に、両手を万歳して雄叫びをあげるゴーレム。空気がビリビリ震える。キラーンと、その目が紅く輝いた。
「「「「「わーーー!!!」」」」」
目眩まし効果じゃなかったんかーい!!
男たちの誰もがそう思ったが、突っ込む余裕などない。皆、転げるように逃げ出した。

ズシーン!! ドゴーン!!

「ウオオォォ!!デストローイDEATH☆トローイ!!!」

背後でめっちゃヤバい破壊音がする。後ろを振り返るのが恐い。あとゴーレムがなんか言ってる。
「なんですかありゃあ!!」
「知らねぇよ!俺は悪くないっ!」
そうだ。悪いのは、この呪印についての本を書いた作者だ。どうして『光の目眩まし』と『闇の雲隠れ』という無害な呪印の間に、こんな凶悪なモン挟んだ!編集能力磨いて出直せよっ!

…いや、呪印の用法用量は守らなくちゃね。
規定容量の何倍も魔力注ぎ込んだら、そりゃ威力だっておかしくなるのだ。

死に物狂いで馬も置き去りにして逃げに逃げ、ようやく元の街道まで戻ってきた面々。
「ハアッ、ハアッ……皆、無事か?!」
「無事…、です…!生き延びました!」
「なっ?!ブルーノ殿、荷物を回収して下さったのか?!」
「あ、ああ。かき集めた…」
何だかんだいって、ブルーノは有能なのだ。結果オーライ?

◆◆◆

その三日後、ブルーノ達はようやく目的地の港に辿り着いた。途中まで徒歩移動を余儀なくされ、予定より二日遅い到着となった。
「これはこれは、よくぞお越しに」
商館で好々爺然とした会頭の持てなしを受け、二人はようやく人心地ついた。
「ええ、ええ。確かに帝国産の絹織物を扱ってはおります。向こうでは皇帝肝煎りの事業ですからな。品種改良の上質な絹が安定して手に入るのです」
会頭の説明は、事前にネーザルから聞いた通りだ。
「しかし、現状輸出を差し控えておりましてな」
「な…」
しかし続く会頭の言葉にネーザルが固まった。
「そ、それはいかなる理由で」
問う声は微かに震えている。当然だろう。彼としては、今後を賭けた取引なのだから。
「今、小麦の大口取引がございまして。船をほとんどそちらに回しておりまして、輸送コストが上がってしまっているのですよ」
「まあ、おかげで帝国の毛織物を今年はペレアスに運べませんから。ネーザル殿の領には嬉しい結果では?」
恐らく、この商人の耳にアーロンの窮地は伝わっていないのだろう。外国からの供給がなくなる→ベイリンの毛織物が売れるから良かろうと、会頭は言い、やや青ざめたネーザルに首を傾げた。

「気落ちなされるな、ネーザル殿。何も今年が全てではございますまい」
商館からの帰り道、ブルーノは肩を落とすネーザルを慰めた。
「それに、ネーザル殿は約束を違えず、会頭を紹介して下さった。感謝しているし、何も海上輸送が全ての手段ではない。モルゲンはメドラウドと近いゆえ」
ギデオン殿に相談してみようと言えば、ネーザルの目に僅かだが光が戻ってきた。
「しかし、小麦か…」
特に不作といった話も聞かない。なぜ、国内で問題なく収穫されるものを、船を使い切ってまで外国から運ぶのか――

いや、ちょっと待って?

自分ら、ひょっとして原因を見たのでは??
しかも、状況をさらに悪化させたのでは??

思い出すのは、夕陽を背に万歳して「DESTROYーー!!」とか叫んでた呪印ゴーレム。確かあの街道の先は、ニミュエ公爵領自慢の穀倉地帯で……
命からがら逃げてきて、脇道を振り返ったら砂煙で何にも見えなかったんだよな…。
あの街道、当分復旧しなさそう。
「ネーザル殿、今夜は飲もう!」
ブルーノはドンッとネーザルの肩を叩いた。マズい記憶は、蒸留酒を浴びるほど飲んで忘れる。コレに限る。呪印ゴーレムを記憶から抹消するのだ。それがいい!
「私の奢りだ、遠慮なさるな!」
なんだかよくわからないが、急に言い出したブルーノにネーザルは目を白黒させたものの、彼も酒好きだ。断る理由はない。ホイホイとブルーノについて行った。その夜、二人は仲良く飲み交わしたという。
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