RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

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建国~対列強~編

202 絶ちきり、慈しめ

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キャンキャンと煩い老害貴族を黙らせ、容赦なく馬車――いつか私も乗せられた護送用の罠付き馬車。お貴族様のために、中身だけはせいぜい豪奢に作らせてもらった――に放り込んで。ノエルにも傀儡術が効かないゴリマッチョを付けたところで、私のところにルドラ王女がやってきた。
「サイラス殿、貴殿の望みはわかった。傀儡の王にでも何にでもなろう。だが一つ、叶えてはくれないか」
私の顔色を窺いつつ、彼女が視線を投げたのは、ペレアス貴族を押しこんだ護送馬車だ。
「我がルドラは、アイツらに蹂躙され、既に多くを失った。我が家族も――兄を殺されたのだ。このままでは私も、故国も納得はできぬ。どうか、この手で志を遂げさせてはくれないか」
兄、と明かしたとき、彼女のそれまで張りつめていた表情がぐにゃりと激情に歪んだ。彼女もまた、耐えがたい憎しみを胸に燻らせているのだ。かつての私と同じように。
せめて、仇をうたせてくれ。その願いは、痛いほどにわかるよ。
「貴殿は、既にペレアスの頂だと私は言ったよ」
彼女の潤んだ瞳を見上げて、私は言った。
「貴殿は国王だ。国王は臣民を愛し、慈しむものだよ。……断ち切るんだ」
「ッ」
ヒュッと息を呑む音が聞こえた。君なら、生粋の王族たる君なら、わかっているよね?トップになる意味を。

その瞬間から、仇敵は護るべき民になるのだと。

憎しみ、恨み……そりゃあたくさんあるだろう。忘れろとまでは言わないよ。ただね、武器を捨てるのは、勝者にしかできないことなんだ。因縁を断ち切るのも、また。
「そんなっ…!それでは納得できない!私も!我が民も!!」
赤毛を振り乱し、ルドラ王女は叫んだ。慟哭のような、声だった。
「私は…そんな、できた人間ではない」
弱々しく吐かれた呟き。うんうん、わかる…って言ってあげたいけど。でもね、私も貴女の暴挙を許したわけじゃないから。落とし前は、つけてもらうよ。
「ああ。国が安定するまで、我がモルゲン・ウィリスは全力で支援しよう」
棒読みになったのは許してね。エレインを荒らされた怒り――その感情だけは、どうしようもできないから。その代わり、有言実行はする。
「仇を…それだけでいい。貴殿は、アレらから権力を取りあげるのだろう?政の中枢から遠ざけるのだろう?なぜ…なぜダメなんだ!」
悲鳴のような叫びを叩きつけてきた女の胸ぐらを私は掴みあげた。
「甘ったれるな!!」
女の子を泣かせるな?それで非難できるのは、野郎だけだ。あいにく私の中身は『女』だからね。容赦しないさ。
「アンタが終わらせなくて誰が終わらせるんだ!!見たんだろう?戦で荒れる祖国を!家族を失ったんだろう?死んだ人間は!クソ貴族の首を飛ばしたって!戻ってこねぇんだ!!復讐に!意味なんかねぇんだよ!!」
興奮に朱に染まった頬を、一筋、二筋と透明な雫が伝う。
「アンタがやるべきことは!修復だ!!悲劇を繰り返さねぇことだ!!わかれ!!上に立ったらなぁ、イヤなヤツとでも付き合わなきゃ、折り合いつけなきゃ、平和なんて手に入らねぇんだよ!!私と違って!アンタは生粋の王族だろ!血税喰って!ここにいるんだろ!責任果たせぇ!!!」
力尽きて王女を放すと、彼女はガクリと膝をついて肩を震わせた。
「アッ…アアアアッ!!」
慟哭が、晴れ渡った春の空に消えていった。

◆◆◆

首脳陣を捉えられたペレアスは、ロクな抵抗もできないまま、サイラス率いる部隊を王宮に招き入れた。そして、その場で国王は降ろされ、新たに女王が即位した。新王朝の誕生である。その際、ペレアスはモルゲン・ウィリス王国と下記のような協定を結んだ。

一、新女王に、モルゲン・ウィリスでの国際会議の議席を与える

一、ペレアスは、防衛専用を条件に、モルゲン・ウィリスと年一万フロリンにて傭兵契約を結ぶ

一、ペレアスは、南部諸領をライオネル・フォン・ペレアスに割譲し、独立を認める

一、モルゲン・ウィリスは、ペレアスの女王の後見を引き受け、街道の整備及び治安向上の目的でのあらゆる支援をおこなう

旧政権の中枢にいた者達は皆その地位を降ろされ、多くの領地では領主が別の者に入れ替わった。その際、今までミドルネームにあった『フォン』は消え失せ、代わりに『ゾーン』に置き換えられた。女王の故郷、ルドラの慣習に従い、『女王は国の母、そして臣民はその子である』という意味をこめて。

「ルドラにそんな慣習あったのか?」
聞いたことないんだが、と首を傾げるアルに、ウィリスに戻った私は淡く笑んだ。
「大丈夫。ちゃんと『創って』おいたから」
いつの間にか、季節は夏へと移行していた。
新女王は今、領地を一つ一つ視察してまわっている。目的は『知る』こと。地道な融和策だけど、ぜひとも効果を出し、一刻も早く安定した治政を実現しなければならない。
王都から――女王の留守を預かるネイサンをはじめとしたかつての騎士学校の仲間たちからの報告の手紙の文字がぼやける。最近、眠気がすごいんだ…。
「サアラ…?」
「ん…」
風通しのよい部屋のカウチに並んで座るアルの肩に、寄りかかって目を閉じた。風がふわりとカーテンを膨らませて、ゆっくりと落ちてくる。
「少しだけ…」
相変わらず忙しいけど、ここ数日は穏やかな日々が続いている。
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