誰かの歌とどこかの料理といつかの短編物語

物書き赤べこ

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シュガーソングとビターステップ×キャラメルケーキ

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――夜の街は、湿ったガムシロップみたいに甘く、そしてほろ苦い。

 商店街裏の小さな喫茶店「ワルツ」には、終電を逃した人たちの吐息と
 焙煎した豆の香りが静かに溶け合っていた。

 店主の彩は、ミルクピッチャーを軽く振りながら呟く。

「人生なんて、甘さと苦さのステップで踊るみたいなもんよね」

 常連のトウマは、少し焦げたクッキーをつまんだ。
 焼き上がりが少しだけ失敗しているのに、どこかクセになる味だ。

「うん。甘いだけじゃ物足りないし、苦いだけじゃ続かない。ちょうどいい“混ざり方”があれば、それで十分か」

「今日は珍しく詩人みたいなこと言うじゃない」

「今日は……そういう気分なんだよ」

 カイはテーブルの上に置かれた紙袋を見つめた。
 中には、自分で作った“ほろ苦いキャラメルケーキ”がひとつ。

 本当は届ける相手がいた。
 だけど、渡す勇気が途中で折れてしまった。

「失恋?」
「告白すらできてないから、失恋ですらないよ」

 ユイはエスプレッソを抽出しながら、ふっと笑う。

「じゃあ、そのケーキ。ここで食べていきなよ。気分が戻るまで踊れるようにね」

「踊れるように……?」

「大事なのはリズムに乗り続けることよ。
 止まったら、甘さも苦さも全部重くなるだけ」

 カイは黙ってケーキを取り出し、フォークで小さく切った。

 香ばしいキャラメルの苦みと、じんわりと滲む甘さ。
 それは、今日の自分をそのまま食べているみたいだった。

「……うん。悪くない」

「でしょ?」

 店の外では、雨上がりのアスファルトが街灯の光を反射している。
 その光が、まるでステージの照明のようにキラキラと瞬いていた。

「明日、ちゃんと渡すよ。ケーキ。今日よりもましなのを作って」

「その方がいいわ。だって人生は踊りっぱなしなんだから」

 カイは笑い、立ち上がる。
 夜の街は相変わらず甘く、ほんの少しだけ苦い。

 でも今なら、そのビタースイートなリズムに、もう一度乗れそうな気がした。

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