139 / 152
第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第137話 打ち上げ×なぐさめ
しおりを挟む
夜のソラス・フォレストは久しぶりににぎやかだった。
決勝から戻ったその夜ダイニングの一角が即席の「結・お疲れ会」会場になった。
派手な装飾はない。
いつものテーブルいつもの椅子。
ただ、並んでいる料理だけが少し多い。
「はいはい主役こっち!結、真ん中座りなさい!」
京子が半ば強引に結を席へ押し込む。
「ちょ、京子さん……!」
「何言ってんの今日くらい大人しく祝われなさい」
テーブルには奏が仕込んだ軽めの前菜と
快が用意したつまみ静江が焼いた小さな焼き菓子。
ぬくはなぜか誇らしげにノンアルコールビールを配っている。
「二位だぞ、二位!」
公が声を張る。
「全国規模で決勝で二位って普通に化け物だからな?」
舞が笑いながら言うと木島が腕を組んでうなずいた。
「ホテルの名前を背負って出て胸を張れる結果だ」
結は何度も「ありがとうございます」と頭を下げた。
そのたびに胸の奥が少しだけ苦しくなる。
楽しい。
嬉しい。
確かにそうなのに——。
「でもさぁ」
京子が箸を置いてにやりと笑った。
「結、顔が全然“満足してない顔”じゃないんだけど?」
一瞬場が静まる。
結は言葉を探して視線を落とした。
「……楽しかったですよ。
すごく」
「うん」
「でも……」
そこで言葉が途切れた。
公が静かに言う。
「悔しいよな」
その一言で結の胸の奥に溜まっていたものが揺れた。
「……はい」
舞が微笑む。
「それでいいんじゃない。
悔しくなかったらここまで来てない」
ぬくが勢いよくうなずく。
「次は優勝ですよ!もう決まりです!」
快が盛り上げようとした
「簡単に言うな!!」
京子が突っ込み場に笑いが戻る。
奏は少し離れた場所でその様子を見ていた。
口を出さず、ただ結の表情だけを静かに見つめている。
ひとしきり食べ、飲み、笑って。
「今日はここまで!」と京子が締めるころには
結の肩の力も少し抜けていた。
「本当に……ありがとうございました」
最後にもう一度結は頭を下げた。
スタッフたちはそれぞれ今日泊まる部屋へ戻っていく。
ダイニングに残ったのは結と奏だけだった。
食器を下げ終え照明を少し落とす。
夜の厨房の匂いが静かに戻ってくる。
「もう一杯、行くか」
奏がぽつりと言った。
「え?」
「打ち上げ。二人だけで」
結は一瞬迷ってからうなずいた。
———
それは本当にささやかな打ち上げだった。
厨房の片隅で奏が淹れた温かいハーブティー。
結の前には甘くない小さなタルトが一つ。
「もう評価されなくていい」
結はカップを両手で包む。
沈黙が落ちる。
その沈黙がさっきまでのにぎやかさを嘘みたいに遠ざけた。
「やっぱり……悔しいです」
結は再び言った。
さっきよりもずっと小さな声で。
「一位、取れるかもって……思っちゃってました」
言った瞬間喉が詰まった。
「全部、出し切ったのに」
「なのに」
「なのに……」
言葉が崩れる。
結の目からぽろりと涙が落ちた。
「……悔しい……」
次の瞬間結は立ち上がり奏の胸に顔を押し付けていた。
自分でも驚くほど感情が溢れ出す。
「ほんとにほんとにほんとに……悔しいです……!」
声が震える。
嗚咽が混じり言葉にならない。
奏は何も言わなかった。
ただ、結の背中に腕を回し静かに抱きしめる。
大きな手がゆっくりと一定のリズムで背中をさする。
ぽん、ぽん、と。
急かさない。
慰めの言葉もない。
それが結にはたまらなくありがたかった。
胸に顔を埋めたまま結は泣いた。
悔しさも、期待も、怖さも、全部一緒に。
しばらくして呼吸が少し落ち着く。
「……すみません」
かすれた声で言うと奏は低く答えた。
「謝ることじゃない」
それだけ。
結は奏の服をぎゅっと掴んだ。
——次は勝ちたい。
その想いが胸の奥で静かに熱を持っていた。
決勝から戻ったその夜ダイニングの一角が即席の「結・お疲れ会」会場になった。
派手な装飾はない。
いつものテーブルいつもの椅子。
ただ、並んでいる料理だけが少し多い。
「はいはい主役こっち!結、真ん中座りなさい!」
京子が半ば強引に結を席へ押し込む。
「ちょ、京子さん……!」
「何言ってんの今日くらい大人しく祝われなさい」
テーブルには奏が仕込んだ軽めの前菜と
快が用意したつまみ静江が焼いた小さな焼き菓子。
ぬくはなぜか誇らしげにノンアルコールビールを配っている。
「二位だぞ、二位!」
公が声を張る。
「全国規模で決勝で二位って普通に化け物だからな?」
舞が笑いながら言うと木島が腕を組んでうなずいた。
「ホテルの名前を背負って出て胸を張れる結果だ」
結は何度も「ありがとうございます」と頭を下げた。
そのたびに胸の奥が少しだけ苦しくなる。
楽しい。
嬉しい。
確かにそうなのに——。
「でもさぁ」
京子が箸を置いてにやりと笑った。
「結、顔が全然“満足してない顔”じゃないんだけど?」
一瞬場が静まる。
結は言葉を探して視線を落とした。
「……楽しかったですよ。
すごく」
「うん」
「でも……」
そこで言葉が途切れた。
公が静かに言う。
「悔しいよな」
その一言で結の胸の奥に溜まっていたものが揺れた。
「……はい」
舞が微笑む。
「それでいいんじゃない。
悔しくなかったらここまで来てない」
ぬくが勢いよくうなずく。
「次は優勝ですよ!もう決まりです!」
快が盛り上げようとした
「簡単に言うな!!」
京子が突っ込み場に笑いが戻る。
奏は少し離れた場所でその様子を見ていた。
口を出さず、ただ結の表情だけを静かに見つめている。
ひとしきり食べ、飲み、笑って。
「今日はここまで!」と京子が締めるころには
結の肩の力も少し抜けていた。
「本当に……ありがとうございました」
最後にもう一度結は頭を下げた。
スタッフたちはそれぞれ今日泊まる部屋へ戻っていく。
ダイニングに残ったのは結と奏だけだった。
食器を下げ終え照明を少し落とす。
夜の厨房の匂いが静かに戻ってくる。
「もう一杯、行くか」
奏がぽつりと言った。
「え?」
「打ち上げ。二人だけで」
結は一瞬迷ってからうなずいた。
———
それは本当にささやかな打ち上げだった。
厨房の片隅で奏が淹れた温かいハーブティー。
結の前には甘くない小さなタルトが一つ。
「もう評価されなくていい」
結はカップを両手で包む。
沈黙が落ちる。
その沈黙がさっきまでのにぎやかさを嘘みたいに遠ざけた。
「やっぱり……悔しいです」
結は再び言った。
さっきよりもずっと小さな声で。
「一位、取れるかもって……思っちゃってました」
言った瞬間喉が詰まった。
「全部、出し切ったのに」
「なのに」
「なのに……」
言葉が崩れる。
結の目からぽろりと涙が落ちた。
「……悔しい……」
次の瞬間結は立ち上がり奏の胸に顔を押し付けていた。
自分でも驚くほど感情が溢れ出す。
「ほんとにほんとにほんとに……悔しいです……!」
声が震える。
嗚咽が混じり言葉にならない。
奏は何も言わなかった。
ただ、結の背中に腕を回し静かに抱きしめる。
大きな手がゆっくりと一定のリズムで背中をさする。
ぽん、ぽん、と。
急かさない。
慰めの言葉もない。
それが結にはたまらなくありがたかった。
胸に顔を埋めたまま結は泣いた。
悔しさも、期待も、怖さも、全部一緒に。
しばらくして呼吸が少し落ち着く。
「……すみません」
かすれた声で言うと奏は低く答えた。
「謝ることじゃない」
それだけ。
結は奏の服をぎゅっと掴んだ。
——次は勝ちたい。
その想いが胸の奥で静かに熱を持っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる