ホテル「ソラスフォレスト」と季節の人々 ~44歳男性コックと25歳女性コックの不器用関係と不思議なスタッフと~

物書き赤べこ

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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に

第142話 女子高生な救世主

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 その日はよく晴れていた。

 ランチタイムの終わり際フロントに立つ京子が先に気づいた。

 「……あれ、千夏ちゃん?」

 制服ではない。
 家族連れの中に見覚えのある顔があった。

 高橋千夏は高校の調理課に通っている。

 これまでに何度か繁忙期の短期アルバイトとして厨房に立ったことがある。
 包丁の扱いはまだぎこちないが手を抜かない子だと結は覚えていた。

 今日は家族での食事だった。

 料理が運ばれる。

 父は無口に食べ母は一皿ごとに丁寧に感想を口にする。
 千夏は味を確かめるようにゆっくりと噛んでいた。

 「……やっぱり、ここの料理は落ち着くね」

 それは料理人になりたい者が言う言葉ではなく、
 “自分が働きたい場所として見ている”人間の言葉だった。

 食後。

 会計を終えたあと千夏だけがフロントに戻ってきた。

 「京子さん」
 「なあに?」

 少しだけ声が震えていた。

 「さっき、奥で……人手が足りないって話聞こえてきて」

 京子は一瞬迷いそれから正直に言った。

 「……うん。今ね正直きつい状況なんだ…」
 「そうなんですか…」

 千夏は深く息を吸った。

 「私、また……働かせてもらえないでしょうか?」

 京子は驚いた。

 「学校は?」
 「あります。でも…」
 「放課後とか学校が休みの週末なら来られます」

 「料理の勉強にもなりますし」
 「それに」
 「……ここで働くの私好きなんです」

 話はすぐに支配人の耳に入った。

 木島はロビーのソファで千夏と向き合った。
 隣には両親も座っている。

 「提案はありがたいが君は高校生だ」
 「はい」
 「大変な仕事だぞ」
 「分かっています」

 母が口を開いた。

 「家では包丁を持つのも台所に立つのも本人の自由にしています」
 「娘が中途半端な覚悟なら私も止めます」
 「でも…」

 千夏の肩にそっと手を置く。

 「この子は本気なんです」

 木島は少し考えたあと言った。

 「条件がある」
 「はい」
 「学業を優先」
 「けっして無理はしない」
 「そして」

 視線を千夏に向ける。

 「ここは優しいだけの場所じゃない」
 「それでも来ますか?」

 千夏ははっきりと頷いた。

 「お願いします!!」

 厨房。

 結はその話を聞いて少し驚いた。

 「……また、来てくれるの?」
 「はい」
 「前よりもちゃんと働きます!!」

 千夏は照れたように笑う。

 「今度は、アルバイトじゃなくて」
 「ちゃんと働く人として」

 奏はその様子を黙って見ていた。

 「覚悟はあるようだな」
 「はい……あります」

 その一言で十分だった。

 夕方。

 千夏は新しいエプロンを受け取った。

 少し大きくてまだ馴染んでいない。

 「似合ってる?」
 「はい」

 結はそう答えながら思った。

 このホテルは、未来を迎え入れたのだと。

 ランチを食べに来た家族の娘は
 その日のうちにソラスフォレストの一員になった。

 人手不足はまだ解消されていない。

 けれど――
 厨房の空気は少しだけ軽くなっていた。
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