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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第148話 泥酔女子会 ~千夏の大人世界ちょっとのぞき見~
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歓迎会の夜。
千夏は母親と同じ客室に泊まることになった。
「本当に顔出すだけよ?」
「良いの!?」
「お世話になっているし今日は特別よ」
「ありがとう!!!」
そう言って母は少しだけ笑った。
このホテルを信用している顔だった。
時計の針が日付をまたぐ少し前。
千夏はそっと部屋を抜け出した。
ロビーの奥照明を落としたラウンジ。
そこに集まっていたのは女性スタッフだけだった。
結、舞、京子、静江――
そして、グラスの数はすでに多い。
「来た来たー!」
「千夏ちゃんこっちこっち」
京子が手招きする。
「未成年だから千夏はこっちね」
舞が差し出したのは背の高いグラス。
オレンジジュース、クランベリー、炭酸。
ミントを一枚、指で弾く。
「ノンアルでも雰囲気は大人よ!」
「……すごいキレイ」
千夏の目がきらきらした。
「じゃ、千夏ちゃんも何か作ってみる?」
「え、私が?」
舞が食材を並べる。
チーズ、ナッツ、クラッカー、少しの蜂蜜。
「難しく考えない」
「並べて、切って、味見して」
千夏は不器用な手つきで見よう見まねに盛り付ける。
少し歪んだが悪くない。
「……美味しいよ」
「ありがとうございます」
「料理は正直だから」
結の声は穏やかだった。
話題は自然と恋の話になった。
「で、結はさ」
「何」
「奏とどこまでいってるの?」
「ちょっと!!千夏ちゃんいるのよ!!」
結が慌てる。
京子はすでに頬が赤い。
千夏は黙って聞いていた…が目はキラキラしていた
笑い話。
失敗談。
「若い頃はさ」という前置き。
どれも直接的な言葉は出てこない。
でも――
意味は、なんとなく分かってしまう。
千夏はそっとジュースを飲んだ。
「コンクールの裏話もさ」
「いや、それは……」
結は渋ったが、京子が止まらない。
「本番前どれだけ眠れなかったか」
「どれだけ悔しかったか」
「それでも逃げなかったこと」
その話は少しだけ真剣だった。
千夏はまた画面で見た“背中”を思い出す。
時間が進むにつれ様子が変わっていく。
声が大きくなり、
距離が近くなり、
話題が――際どくなる。
「……あ、これ」
「聞かなくていいやつだ」
千夏は直感的に分かった。
女性たちは完全に酔っていた。
笑いながら
昔の武勇伝の“手前”までを、
遠回しに遠回しに話し始める。
千夏は目を泳がせた。
知らなかった。
この人たちにこんな顔があるなんて。
仕事中の顔。
大人の顔。
そして酔ったときの顔。
「……千夏ちゃん?」
「は、はい!」
結が気づく。
少しだけ空気を戻すように言った。
「今日はここまで」
「これ以上は大人だけの話」
舞も頷く。
「千夏ちゃんには一歩、早かったね」
「ごめんね」
部屋に戻る廊下。
千夏は胸が少しざわついていた。
嫌ではない。
でも落ち着かない。
ベッドに入る前母が聞いた。
「楽しかった?」
「……うん」
少し考えてから付け足す。
「でも」
「大人ってすごいね」
母は意味を聞かなかった。
ただ頭を撫でた。
暗闇の中。
千夏は思った。
憧れる背中は完璧じゃない。
でも、だからこそ近づきたい。
今夜知ったのは
料理の技でも
恋の答えでもない。
――大人の世界は少し眩しくて少し危うい。
そして、
自分はまだその入口に立ったばかりだということ。
千夏は母親と同じ客室に泊まることになった。
「本当に顔出すだけよ?」
「良いの!?」
「お世話になっているし今日は特別よ」
「ありがとう!!!」
そう言って母は少しだけ笑った。
このホテルを信用している顔だった。
時計の針が日付をまたぐ少し前。
千夏はそっと部屋を抜け出した。
ロビーの奥照明を落としたラウンジ。
そこに集まっていたのは女性スタッフだけだった。
結、舞、京子、静江――
そして、グラスの数はすでに多い。
「来た来たー!」
「千夏ちゃんこっちこっち」
京子が手招きする。
「未成年だから千夏はこっちね」
舞が差し出したのは背の高いグラス。
オレンジジュース、クランベリー、炭酸。
ミントを一枚、指で弾く。
「ノンアルでも雰囲気は大人よ!」
「……すごいキレイ」
千夏の目がきらきらした。
「じゃ、千夏ちゃんも何か作ってみる?」
「え、私が?」
舞が食材を並べる。
チーズ、ナッツ、クラッカー、少しの蜂蜜。
「難しく考えない」
「並べて、切って、味見して」
千夏は不器用な手つきで見よう見まねに盛り付ける。
少し歪んだが悪くない。
「……美味しいよ」
「ありがとうございます」
「料理は正直だから」
結の声は穏やかだった。
話題は自然と恋の話になった。
「で、結はさ」
「何」
「奏とどこまでいってるの?」
「ちょっと!!千夏ちゃんいるのよ!!」
結が慌てる。
京子はすでに頬が赤い。
千夏は黙って聞いていた…が目はキラキラしていた
笑い話。
失敗談。
「若い頃はさ」という前置き。
どれも直接的な言葉は出てこない。
でも――
意味は、なんとなく分かってしまう。
千夏はそっとジュースを飲んだ。
「コンクールの裏話もさ」
「いや、それは……」
結は渋ったが、京子が止まらない。
「本番前どれだけ眠れなかったか」
「どれだけ悔しかったか」
「それでも逃げなかったこと」
その話は少しだけ真剣だった。
千夏はまた画面で見た“背中”を思い出す。
時間が進むにつれ様子が変わっていく。
声が大きくなり、
距離が近くなり、
話題が――際どくなる。
「……あ、これ」
「聞かなくていいやつだ」
千夏は直感的に分かった。
女性たちは完全に酔っていた。
笑いながら
昔の武勇伝の“手前”までを、
遠回しに遠回しに話し始める。
千夏は目を泳がせた。
知らなかった。
この人たちにこんな顔があるなんて。
仕事中の顔。
大人の顔。
そして酔ったときの顔。
「……千夏ちゃん?」
「は、はい!」
結が気づく。
少しだけ空気を戻すように言った。
「今日はここまで」
「これ以上は大人だけの話」
舞も頷く。
「千夏ちゃんには一歩、早かったね」
「ごめんね」
部屋に戻る廊下。
千夏は胸が少しざわついていた。
嫌ではない。
でも落ち着かない。
ベッドに入る前母が聞いた。
「楽しかった?」
「……うん」
少し考えてから付け足す。
「でも」
「大人ってすごいね」
母は意味を聞かなかった。
ただ頭を撫でた。
暗闇の中。
千夏は思った。
憧れる背中は完璧じゃない。
でも、だからこそ近づきたい。
今夜知ったのは
料理の技でも
恋の答えでもない。
――大人の世界は少し眩しくて少し危うい。
そして、
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