最凶の極道は異世界で復讐を希う

きょんきょん

文字の大きさ
1 / 32
プロローグ

1.復讐の誓い

しおりを挟む
 初めて足を踏み入れた幹部会議室を見渡し、内装を手掛けた奴の壊滅的なセンスに無悪斬人さかなしきりとは内心で嘲笑した。

 西新宿の一角に建つ雑居ビル――鬼道会が別名義で丸々一棟所有するビルの最上階は、構成員二万人からなるピラミッドの頂点に立つ本家直系幹部以上の組員のみ立ち入りを許可されている。

 その会議室で無悪は今現在、常人であればプレッシャーで嘔吐しかねない緊張感にたった一人晒されていたものの、どこ吹く風といった顔で直立不動を保っていた。

 今時絶滅しかけている〝任侠道〟の書の下には、特注で作らせた大理石テーブルを囲んで、鬼道会本部執行部――総勢十名からなる幹部が無悪に睨みを利かせてアームチェアに腰掛けている。休憩もなしにかれこれ一時間は下らない〝尋問〟を受けていたせいで、足も我慢も痺れを切らしていた。

 平均年齢七十歳の執行部は、三十代の無悪にとって思想から価値観までまるで合わない。所詮時代の変化についていけない組織を蝕むガンという認識でしかなかった。

「まどろっこしい話はやめにして、この際単刀直入に言ったらどうです。この私が会長オヤジを殺害した犯人だと。まあ……天地がひっくり返っても恩人である会長を手に掛ける真似なんてしないですがね」

 東日本最大規模を誇る広域指定暴力団――鬼道会を一代で築き上げたカリスマ的存在である大鰐源蔵おおわにげんぞうが懇意にしていたクラブで、何者かに射殺されたのが一週間前だった。

 裏家業の人間から見ても遺体の損傷具合は目を覆いたくなる酷い有様で、合計三十発を超える銃弾が射撃訓練用の的を撃ち抜くように、会長と愛人であるママの急所という急所を精確に撃ち抜いていた。

 顔面に有るべきはずの部位パーツが至るところに肉片となって飛び散っていた状況で、現場は大量の血と脳漿のうしょうが飛び散る惨状で、脂肪分で滑りを帯びた床は革靴では足を取られて転倒してしまうほどに汚れていた。

 第一発見者でもある無悪は、警察で傲慢な態度を崩さない刑事から数時間に及ぶ詰問に耐え、解放されたその足で緊急会議の場に赴いていた。
 東の鬼道会、西の鷲尾組と、日本を東西で二分するほどの組織のトップの死に、警視庁も本腰を入れて捜査にあたっていたが無悪は秘密裏に警視庁内部に抱えていた子飼いの内通者《イヌ》から、本家でも知り得ない捜査情報を先んじて得ていた。

 イヌは公僕でありながら闇金に手を出し、その闇金が運悪く無悪が組長を務める無尽むじん組の傘下企業だった経緯もあり、あれよあれよと糸に絡め取られた愚かな男は、今やサクラの代紋ではなく鬼道会の代紋に忠誠を誓っている。

 ――情報の内容によっては、幾らか利子を免除してやると囁くだけでいい。

 そう伝えると、向こうの方から勝手に尻尾を振って情報を横流ししてくれるので度々重宝していたが、今のところ会長を殺害する動機がある容疑者をリストアップする作業だけでも膨大な時間と人手がかかっているようで、現場にも物的証拠が残されていなかったことから早くも捜査は暗礁に乗りかかってると小耳に挟んでいた。

「まあ、そういきりり立つな。悔しいのはなにもお前だけじゃない。鬼道会という大所帯をこれまで先導してきた大鰐会長のタマを取られて、度し難いほどの怒りに震えているのは我々も一緒だ。ただな」

 総白髮をオールバックにまとめ、額に横一文字の刀傷の痕が走る男――亡き会長の跡を引き継ぐ形で、暫定的に若頭から会長へと出世した本宮榮治郎もとみやえいじろうは、両隣に座る舎弟頭の猪木弥いのきわたると本部長の前園圭吾まえぞのけいごの執行部三役に目配せし、本題に移った。

「ここにいる執行部十名のうち、九名が現場の状況からかんがみて、大鰐会長をいした犯人の首謀者は無悪斬人である可能性が高いと結論づけた」
「馬鹿も休み休み言ってくださいよ。ガキの頃から実の息子のように可愛がってくれた恩人を、何故殺害しなくてはならないんですか。動機もなければ証拠もない。何もわかっていない状態で有無を言わさず呼び出しておきながら、裁判官気取りで有罪判決を下すとはいくら執行部とはいえ、あまりに失礼な話ではないですか」

 現執行部の無能さと、挑発的な態度を言外に匂わす。予想通り耄碌もうろくした面々は顔を高潮させ憤りをみせる。

「無悪ッ! 貴様誰に向かって生意気な口聞いてるのかわかっとんのかッ」
「いいからさっさと白状しやがれ! この親殺しがッ」
「ドス持ってこんかい! 指じゃ足りん。腹切りやがれッ、今すぐここでな」

 会議室に飛び交う怒声と湯呑。拳銃《チャカ》さえあれば銃撃戦になりかねない一触即発の空気を落ち着かせたのは、本宮の鶴の一声だった。

「まあ待て。少しは静かに話くらいさせろ」

 その一言で場は嘘のように静まり返り、子を諭す親のような口調で本宮はある提案を持ちかけてきた。飴と鞭――処罰を匂わせておいて、一転して解決策を持ちかけるのは本宮のみならずヤクザの常套手段である。

「このままだと、真偽はどうあれクロに極めて近い無悪には、数時間後に親殺しの責任を取ってもらうこととなる。しかしだ、もし真犯人を突き止めてここに連れてくることが出来たなら、その時は褒美に幹部の椅子を一つプレゼントしてやる。どうだ」
「随分と気前がいいようですが、鬼道会の幹部の椅子は数に限りがあるのでは? 見たところ……どなたも譲ってくれる気配はしませんが」

 本宮を除いた執行部は、事前に話を聞かされていなかったようで先程の怒りから一転して狼狽える様子を見せた。どよめく会議室の中で一人、表情を変えないのはこの男だけだ。

「そこは問題ない。何故なら――たった今空席になるからな」

 微笑みながらそう告げた本宮は、視線を無悪から一切外すことなく懐に忍ばせていたベレッタM92を取り出すと、目にも止まらぬ早業で幹部の一人を射殺した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...