最凶の極道は異世界で復讐を希う

きょんきょん

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第一章

9.魔石回収

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 夕陽が山の稜線に沈むと、紫紺へ色合いを変化させた夜空に日本ではお目にかかれないほどの星々が煌めいていた。柄にもなく圧倒的な質量に目を奪われていると、いつの間にか隣を定位置に決めていたアイリスが好奇心を抑えきれずに話しかけてきた。

「サカナシさんって、見た目はとても怖いんですけど、なんだか側にいると安心するんですよね」
「薄気味悪いことを言うな」

 歩き続けてかれこれ二時間以上は経っただろうか。車での移動が当たり前だった無悪は、こんなに歩かされる日が訪れるとは夢にも思っていなかった。

 平然とパーソナルスペースに踏み込むアイリスの馴れ馴れしさに、いくら追い払っても離れない小蝿コバエに通じる鬱陶しさを感じていると、嫌でも視界に映りこむ〝異物〟について尋ねた。

「なあ、お前の首についている、その趣味の悪い鎖はなんなんだ」

 握れば折れてしまいそうなほど華奢な首に、不釣り合いな作りの首輪が気になった無悪は、尋ねがは手を伸ばすとアイリスは後退って距離を取った。

「これは……無理にでも外そうとすると首から上が木っ端微塵に爆発する術式が組まれてるんです」
「爆発だと? それは随分と物騒な代物だな。つまり先程追いかけてきた連中は、それほどお前を逃がしたくなかったってわけか」
 
 伸ばした手を引っ込める。どうやら首輪を外すには決まった手順を踏まなくてはならないようで、首輪をかけた張本人の口から直接〝解呪〟に必要な呪文を唱えさせなければいけないとのことだった。

「あの……気になってたんですけど、サカナシさんはどうしてこんな時間に、しかもお一人であのような危険な場所にいたんですか? この一帯には観光地があるわけでもないですし、ご覧の通り徒歩で簡単に立ち入れる場所でもないです。それに、先程から視界に映るもの全てに驚かれてる様子も妙ですし、魔法をご存知でないというのもにわかには信じがたいです。失礼ですが生まれはどちらなんですか?」
「別にどこだろうがお前に関係ないだろ」
「す、すみません……つい気になって」

 アイリスの指摘どおり、かれこれ二時間以上は山道を歩き通していた道中で、これまで培ってきた常識を根底から改変させられるような光景に唖然あぜんとさせられたのは、一度や二度の出来事ではなかった。

 地球上ではお目にかからないような姿形の動植物が、そこかしこにうごめいていた。獲物を待伏せして強靭なツルで捕獲する肉食植物に、やたら好戦的な性格の一本角の兎と出食わしたり、その他にも襲いかかってくる敵と頻繁に邂逅かいこうしたものだ。

 驚かないほうが無理がある話だが、そのような摩訶不思議な生物を一括りに、アイリスは「モンスター」と呼ぶ。この世界には凶暴なモンスターが跋扈ばっこし、地球上とは似て非なる独自の生態系が確立されているらしい。

 本来であれば、食物連鎖ピラミッドの頂点に立つ人間の地位は、どうやらこの世界ではかなり下に位置するようで、特に夜間はモンスターに襲われる危険度が増すので通常移動を控えるのが常識だという。

 実際にエペ村に向かう道中で、襲いかかってくるモンスターは数しれず、そのたびに積み上げた死屍累々の山道を振り返ると、アイリスは気が抜けたように溜め息を漏らした。無悪からすればら匕首《ドス》で切り刻み、グロックで撃ち抜く対象が「人間」か「それ以外か」だけの違いであって、雑草を引っこ抜くのと大差ない退屈な作業だった。

「……サカナシさんがお強いのは理解してましたけど、まさかここまでだとは思わなかったです」
「大したことない連中ばかりだったがな」
「いやいや、このあたりに出没するモンスターは決して弱くないですからね」

 アイリスは絶命したモンスターに近寄ると、刃物を貸して欲しいというので仕方なく匕首を手渡すと、慣れた手つきでモンスターの皮膚を切り裂いて親指ほどの大きさの石の欠片を取り出した。

「それは一体なんだ。粗悪品の宝石みたいだが」
「え、サカナシさん……魔石も知らないんですか? まさかその歳で子供でも知ってる常識を持ち合わせてないなんて……」
「おい、俺をおとしめるような台詞は吐くな。次馬鹿にしたら容赦しないぞ」

 憐れむように視線をそらして言葉を濁したアイリスは、魔石について懇切丁寧に説明を始めた。薄々感じてはいたが、とにかくお節介な性格らしい。

「仕方ないですね。私が教えて差し上げます。魔石というのはモンスターの体内に必ず存在する魔力の源、核となる石のことです。心臓はべつにあるのですが、魔石を抜き取られるか破壊されると、生命維持に欠かせない魔力が尽きて死んでしまうのです」
「なるほど。それは全てのモンスターに当てはまるのか」
「ええ。強力なモンスターほど体内に含む魔石の大きさと魔力の純度は増していくので、その分希少価値が上がります。当然入手難易度も跳ね上がるのですが、一定の大きさに達した魔石は一財産を築けるほどの価値を持つのと同時に、武器や装備類、魔法道具全般の希少素材として重宝されます」
「ほお……これが〝金〟になるのか」

 武器や防具の制作のくだりは聞き流していたが、金に関する部分は聞き逃さなかった。アイリスが手にした欠片を奪いとり、夜空に透かしてしげしげと眺めてみたが、特に価値がありそうにも思えない。アイリスに魔石を突き返した無悪は、その後も行く手を塞ぐモンスターを次々に倒し、少しでも金を稼ぎたいというアイリスが魔石を回収する形で貴重な二人組はむくろの山を築いていった。

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