最凶の極道は異世界で復讐を希う

きょんきょん

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第二章

18.出所祝い

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「やっぱり^獄中での生活は厳しかったですか?」
「まあな。元いた世界じゃ雑居房なんてもんはイジメが当たり前で、娯楽もなければ死ぬほど退屈な場所だと思ってはいたが、あそこは軟弱な奴なら一日で気が触れてもおかしくない環境だったな。想像してみろ――そこいらを鼠やら害虫が這い回ってるんだぞ」
「やめてください。僕、虫だけは駄目なんです」

 忌まわしい牢屋を後にした無悪は、その足でアイリスとガランドが逗留していた宿に到着した。  
 テーブルを挟んで無悪の話に顔を青褪めさせていたアイリスは、両耳を抑えて聞きたくないと抵抗を見せる。モンスターの腹は平気で掻っ捌くというのに、虫が駄目という感性が理解に苦しむ。

「それに食事は岩のような硬さのパンが一日一つで、便所からは四六時中悪臭と蝿が飛び交ってたな。お前に〝釈放が決まるまでは絶対に暴れるな〟と耳打ちされてなければ、あの場で全員打ちのめしていたに違いない」

 木製のジョッキに注がれたエールを胃に流し込む。日本のビールほど清涼感はないが致し方ない。屈辱的な日々を思い出していると、初めて会ったときよりだいぶ血色がよくなったガランドが口を出した。

「一昔前は囚人の扱いなんぞもっと酷かったぞ。全員が全員とは言わんが、この国の看守は腐ってる輩が多いからの。裁判もなしに冤罪で投獄されることなど日常茶飯事であったし、獄中で暴力行為に及んだ囚人は看守の裁量でどうとでも処分できたんだよ。例えば――事故に見せかけて殺したりな」

 無悪とは対象的に、酒に弱いガランドはちびちびとジョッキに口をつけながら暗い表情で語っていた。


 遡ること一週間前。エペ村を脱出した無悪一行は、ようやく辿り着いたリステンブールの街で先ず何よりも先に魔石を現金に換金する必要があった。

 宿を取るにも食事をするにも先立つ物が手元になければ何もできず、換金のために「ギルドに向かう」と告げたアイリスの後を、無悪は大人しく続いた。

「そもそも『ギルド』とはなんだ」
「えっとですね、ギルドとは冒険者の方々に仕事を斡旋する公的な施設のことを指します。庶民からの依頼もあれば、貴族からの依頼もありますし、ギルドに所属していると国から戦争への参加要請も求められます。それと倒したモンスターの素材や魔石も鑑定してくれるのですが、素材の状態に応じた硬貨に換金してもらえるんですよ」

 話を聞くに、冒険者とやらは個人事業主のようなもので、自分の裁量で仕事を選べるので自由が利く反面、不慮の事故で依頼が受けられなくなることもあるということか。

 上手くいけば一攫千金も夢ではないが、傷病保険が存在するわけでもなく全てが自己責任の職業。平和ボケした日本では考えられないくらいに人一人の命の価値が軽いこの世界では、冒険者という人種は向こう見ずな考えの持ち主が多いとガランドは語る。

「冒険者の登録証ライセンスは、簡単な手続きさえ済ませれば誰でも発行してもらえるので、一般の方々も取得可能な年齢に達すると慣例的に取得します。サカナシさんも登録だけ済ませておくのもいいかもしれませんね」
「その冒険者の免許は、ジジイもお前も取得してるのか」
「もちろんじゃよ。とはいってもワシは騎士団に属しておったから冒険者の経験は殆どないがの」
「僕も冒険者として依頼を受けたことはないです」

 そんな話をしながらギルドに向かっていると、突然けたたましく鳴る笛の音と怒声が目抜き通りに轟いた。

「そこのお前達っ! 立ち止まれ!」

 地面を鳴らして前方から駆けてきた集団は、腰から提げていた刀の鞘から抜剣すると周囲を取り囲んで至近距離できっさきを向けてきた。

「……なんだ貴様らは。邪魔だ、とっと失せろ」
「そこの人相の悪いお前に問う。奴隷の首輪を装着した子供と、障害を持つ老人を引き連れて一体何が目的でリステンブールに訪れたのか白状しろ。まさか、白昼堂々と人身売買に手を染めてるわけではあるまいな」
「サカナシさん……不味いです」

 背後でアイリスは小声で囁きながら、現状を手短に説明した。

「おそらく彼らはこの街の衛兵です。この国は人身売買は禁止されてるのですが、どうやら僕とおじいちゃんを奴隷だと勘違いした衛兵さんがサカナシさんを捕らえに来たんだと思います」

 どうすればいいと小声で返すと、「一切逆らわないでください」とだけ言い残し、スーツのポケットへいくつか魔石を入れた。直後にアイリスはガランドとともに衛兵の一人に引き剥がされ、無悪は反論も聞き入れられずに連行された。


「人生山あり谷ありだよ。少しは機嫌直しな」

 女主人は紫煙をくゆらせていた無悪の前に、「これはサービスだよ」と三枚肉スペアリブの塊のような肉が載せられた皿を置いていった。あまりの重さにバランスの悪いテーブルが軋んだほどで、日本では嗅いだことのない香辛料スパイスの香りに腹の虫が盛大に鳴る。

 思い返すと、この世界に放り出されてから一度もまともな食事にありついていない。

「おい店主。なんだ、このやたらとデカい大皿の料理は」
「何って、そいつは一角熊ラーマの肉さね。本来は筋が硬くて、下処理に二日はかかるもんで普段は滅多なことじゃ客に提供しないんだけどね、なんだかその子の健気さに私もほだされちまってさ、無実の罪で投獄されてたっていうアンタが今日釈放されるって前々から聞かされたら、何もしないわけにもいかないだろ」
「一角熊の肉はなかなか手に入らなくて、僕たちのような庶民には高級品なんですよ」
「ワシらも年に一度食べれるか食べれないかの代物だぞ。さ、冷めないうちに食べてしまおう」

 一角熊の肉は長時間煮込んだと言う割には弾力があり、噛めば噛むほどに濃厚な旨味が溶け出す一品だった。

 その他にも次から次へと出てくる品を平らげ、ようやく一息ついて背凭せもたれに体重を預けると、扉を突き破る勢いで無悪を捕えた衛兵の男が店内に転がり込んできた。
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