最凶の極道は異世界で復讐を希う

きょんきょん

文字の大きさ
29 / 32
第二章

27.圧倒的強者

しおりを挟む
 異世界に飛ばされて以来、異なる文化習慣を目にしてきたが中でも衝撃を受けたのは、〝入浴〟という習慣が広く一般に浸透していなかったことだ。

 現代の日本であれば指先一つで追い焚きも事足りるが、電気もなければガスもないこの世界で給湯器のような文明の利器など望むべくもなく、手作業で薪割りから準備をしなくてはならない。

 そもそも風呂を所有するという発想自体が、富を蓄えたものにしか許されぬ贅の極みでそれだけ手間のかかる風呂に毎日浸かれるというのは、一種の社会的地位ステータスの指標となる。

 王侯貴族や大商人を除いた下層に位置する殆どの国民は、井戸や川から組んできた冷水で体の汚れを落としているという。つまり何が言いたいかというと、この世界の住人は外見の美醜びしゅうを問わず、〝臭いやつはそれなりに臭い〟というわけだ。

「お前も入ったらいいじゃねえか。そうそう風呂に入る機会もないんだろ。そういや、少し臭うぞ」
「そ、そんなことないですよ! 今朝だって朝一番に体を拭いたんですから。僕は後で入らせていただくので結構です」

 大人が手足を広げてくつろいでも、なおゆとりのある広さの風呂に肩まで浸かっていた無悪は、浴室の外にいるアイリスに声を掛けてやったのだがにべもなく断られた。

 その拒絶の具合から、まさか男児専門の小児性愛者ロリコンだと思われて警戒されているのだとしたら勘違いも甚だしい。

「しかし……ヤクザになって裏社会の頂点を目指していたこの俺が、まさか異世界で戦闘の特訓を受けてるとは組の奴らもまさか思ってもいないだろうな」

 妖精姫とナシをつけたあとのこと。無悪は深刻な風呂事情について、どうにかならないか尋ねた。

「公衆浴場があるにはありますが、クエストから帰還した冒険者の方々が入れ替わりで入るものですから、お湯の表面に皮脂が膜を張っている状態ですのでお勧めはしませんよ」
「それじゃあかえって体が汚れるだけだろ。そうだ、アンタくらいの有力者だったら家に風呂の一つや二つくらいあるんじゃないのか」
「コホン……。自慢ではありませんが、確かに趣向を凝らした露天風呂があります。ですがサカナシさんには貸しませんよ? そもそも高潔なハイエルフが自らの生活圏テリトリーに男性をのこのこと招き入れるわけないじゃないですか。控えめに言ってもサカナシさんは女性に飢えた小鬼将軍ゴブリンロード――いえ、小鬼王ゴブリンキングに見えてならないんですから」

 小鬼ゴブリンがこの世界で最も弱い部類に属する。単体では雑魚でしかないが、知恵が回る分徒党を組むと厄介な相手になる。女性を犯してさらい、男性は殺害して食料にするのだとか。

「安心しろ。俺に利益メリットがない限り抱きはしない。まあ、それでも抱いてほしいというのであれば話は別だが、『男』も知らなそうな高慢ちきなあんたじゃ、とても俺の相手が務まるとも思えんが」

 直截ちょくせつ的な言葉は、妖精姫の触れてはならない逆鱗を刺激してしまったようで、耳の先端まで瞬時に紅く羞恥に染めた直後に抜き身の日本刀ポントウを喉元に突きつけられたかのような緊張が室内に走った。

下衆ゲスな考えは止してください。これだから人間族の男は……」

 聞き取れない声でぶつくさと文句を垂れながら、胡乱な眼差しを向けてきた妖精姫は「ある条件を呑んでいただければ構いませんよ」と、その条件とやらを提示してきた。

「これから一週間、サカナシさんには特訓を受けてもらいます」
「特訓だと?」
「ええ、私から依頼を持ちかけておいてなんですが、今現在の無悪さんの実力は潜在能力こそ高いものの、ひよっ子の域を出ません。先程私の殺気にあてられて失禁していた三つ首竜ヒュドラも、かつては将来を嘱望されていた冒険者でしたが本物の強者達を目にしてからはあのように腑抜けてしまったのです。万が一、任務遂行中にゴールド級以上に相当する強敵を相手取らなくてはいけなくなった場合、現在のサカナシさんでは無事に切り抜けられるとは到底思えませんからね」
「おい妖精姫。あんたがどう思おうが勝手だが、言葉は慎重に選べよ。俺のどこが弱いって言うんだ」

 正面から臆面もなく「弱い」と告げられたのはいつ以来だろうか。コンマ数秒で記憶を掘り起こした限り、無悪の海馬に似たような過去は保存されていなかった。常に人を支配する立場の自分が、「弱いから特訓してやろう」と虚仮にされている状況に殺意が沸かないはずがない。

 腰に提げているグロックを西部劇の射手ガンマンよろしく引き抜くと、何人もの命を奪った凶弾を放つ銃口を妖精姫の眉間に向けた。
 目を瞑っても絶対に外すことのない距離で、妖精姫は涼しい顔を崩そうとしない。

「元いた世界では、さぞお強かったのでしょう。私を前にして啖呵を切る度胸は褒めて差し上げてもいいですが、それは蛮勇というものです」

 余裕の笑みすら浮かべ、意識は己に向けられていたグロックに向いている。

「なんとも興味深い術式が組まれてます。形状からして……効率よく相手を殺傷することだけに特化してるとみて間違いありませんね。同じ武器が巷に溢れでもしたら、冒険者は皆廃業に追い込まれるでしょうね。ですが折角の性能を持ち主がこれっぽっちも引き出せていません。これでは宝の持ち腐れとしかいいようがありませんよ」
「なんだと? どういう意味だ」
「試しに一度、装填されている弾を私に向けて撃ってみてください」
「……ちなみに依頼主が死んでも報酬は頂くが、それでもいいのか」
「構いませんよ。どうせ傷一つつけられませんし」
「ああそうかい。ならさっさと死ね」

 あまりに舐め腐った態度に、脳髄から溢れ出た殺意が引鉄トリガーを引かせた。直後――室内に乾いた発砲音が反響する。

 骨片と脳味噌と脳漿が、派手に飛び散り盛大に床を汚す――はずだったのだが、硝煙漂う銃口の先で妖精姫は傷一つなく、勝者の笑みを浮かべて座っていた。

「どういうことだ。どうしてアンタは無事なんだ」

 銃弾を外したつもりはない。
 そもそも目隠しをしても外さない距離なのだが、それでも外したというのならまだわかる。
 問題は妖精姫が放たれた銃弾を

「詳細を明かすことはできませんが、私が得意とする〝魔法〟の一つだと言っておきましょうか」
「言うに事欠いて、まさか魔法だと? 秒速379メートルで放たれる弾丸を止められるっていうのか。笑えん冗談ジョークだな」
「目の前で起こった事象くらい素直に認めてください。とにかくこれから一週間の間は、私が及第点を出せる程度には修行をつけて差し上げますから。覚悟しておいてくださいね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...