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第二章
29.潜入捜査
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十年ほど前、鬼道会に鬼畜という言葉すら生温い冷酷無比な男が存在した。
一度激すれば血の雨が降り、容赦というものを知らず、血の気が荒いことで有名な福建マフィアですらその男を歌舞伎町で見かければ、顔を背け道を譲るという逸話が残されているほどだった。
身内のヤクザはもちろん、無悪をもってしても迂闊に近寄り難い雰囲気を放っていた男は、一切の感情を表に出すことなく一時期は最年少での幹部入りも噂されていた。
暴力が即ち正義である極道の世界において、日本の裏社会の頂点を目指していた無悪にとって邪魔で仕方ない存在の一人。男の名は播磨拳藤《はりまけんどう》――その実態は、極秘裏に送り込まれた潜入捜査の刑事だった。
今でこそ鬼道会の内部統制は盤石の地盤を築いていたが、過去には組を二分するほどの内部分裂の危機に陥ったことがある。
国内の覇権を早急に握り、ゆくゆくは海外へ手広くシノギの展開を目論む大鰐会長が率いる一派と、もう一方は兎にも角にも警察の目から逃れるべく、派手な抗争もしかけなければ国内の対抗組織との棲み分けを図ろうと主張していた腰抜けの舎弟頭一派。
一大勢力である鬼道会が二つに袂を分かてば、求心力と組織運営に歪みが生ずることは過去の例から見ても間違いなく、これを機にと他の組織が縄張りを脅かすことも想定された。
週刊誌には大鰐会長と舎弟頭を隠し撮った写真が大々的に掲載され、愚民の不安を煽る記事が毎号綴られていた。事実、時間が経つにつれ分裂の話は現実味を帯び始め、内部の緊張感は一触即発の状態だった。
「暴力団撲滅」と、出来もしないスローガンを長年掲げていた無能な警視庁上層部は、突如巻き起こった鬼道会の内紛に光明を見出す。
これ幸いと混乱に乗じて、これまでのような末端の枝組織をチンケな罪状で追い込むような弱腰の方針から、本丸である鬼道会本家の首にお縄をかけてやろうと鼻息を荒くし、大鰐源蔵会長を含め本家幹部の一斉摘発の計画を極秘裏で進めていた。
しかし、ここで最大の難問が立ちはだかった。情報提供者――通称「S」の存在だ。
相手はそこいらの組長ではない。
絶対的な情報を掴まない限り、鬼道会本家に家宅捜査令状を突きつけて突入する大義名分が存在せず、どうにかして一斉摘発に漕ぎ着けるためにはそれ相応の内部情報が必要となる。
でないと撲滅など永遠に絵に描いた餅でしかなかった。
――やはり鬼道会の牙城を崩すことなど到底不可能なのか。
そう思われていたある日のこと、急遽白羽の矢が立てられたのが当時ノンキャリアで、しかも交番勤務の年若い男性警官だった。
男の父親は元警官だったが、警邏中に挙動不審な行動を見せる男に職務質問で声をかけたところ、所持していた折りたたみナイフで腹部を数回刺され殺害されたという。
後でわかったことだが、現行犯逮捕された男は覚醒剤の乱用で鬼道会の系列から破門された元ヤクザだった。交番勤務でノンキャリの一警官でしかなかった男は、ある日突然本庁に招集されると、普段お目にかかることのないキャリア組の前に立たされ、潜入捜査の詳細を聞かされた。
人一倍悪を許さず、自らの手で反社会的勢力を葬りたいと望んでいることを把握した上で、上層部は男に提案を持ち掛けたのだ。
「君に潜入捜査を頼みたい」
ハナから断る選択肢などなかった。
「播磨拳藤」なる戸籍謄本を手渡され、その日を境にこれまでの自分を一旦棄て去り、公僕からヤクザ稼業に身をやつす。
播磨は一七〇センチほどと、日本の成人男性の平均身長ににも及ばない身長で無悪とは頭一個分も上背が低いが、不釣り合いなほどに逞しい四肢と胴体に闘牛のような首が見るものを圧倒する迫力を備えていた。
播磨は与えられた職務を全うし、警察上層部の予想を遥かに超える勢いで鬼道会の信頼を得て中枢に食い込んでいく。
だが、ある時を境に定期的に送られてくる報連相が途絶えがちになっていたことを不安視していた上層部は、別の人間を新たに監視の為に送り込んだのだが――事態は最悪な方向へと向かっていた。
危機察知能力に長けていた播磨は、近寄ってきた男が新しく送り込まれた潜入捜査員だと勘づくと、その刑事を呼び出して始末したのだ。
何故そんなことをしでかしたのか。
親の仇であるはずのヤクザと接していくうちに、堅気の生活では到底得ることなどできない快楽に飲まれていったのだ。
暴力と金は時に人を狂わしてしまう――その二つを意のままに操れるようになると、気付いた頃には潜入捜査のことなど播磨の頭から抜け落ちていた。
当然警察は焦る。おとり捜査とも言われる潜入捜査だが、基本的に日本では警察によるおとり捜査は認めておらず、これまでマスコミには行ってもいないと発表していた。
実際は数多くの潜入捜査員が広域指定暴力団や新興宗教の内部に送り込まれているが、その大半が過度なストレスにより脱走するか身バレしたのち、処分されるかもしくは暴力と金に目が眩むかが殆どだった。
万が一にも自らが送り込んだ警官が、反社会的勢力側に鞍替えしたと世間に知れ渡ってしまえば、自分達が出世争いの競争から脱落することは決定的だった。
それだけにとどまらず、かつての同胞を手に掛けるという凶行に及んだとなると、その大失態は警察庁上層部全員の首が飛んでもおかしくない事態である。当然世間に知られるわけにはいかない。
こうして播磨は、潜入捜査員となり数年で心身ともに立派なヤクザとなる。播磨は鬼道会に対してというより、大鰐会長にカリスマ性を見出し神のように崇め始めた。
狂信的ともいえる姿勢と戦闘力に、内部紛争で長期間揺れていた大鰐会長一派が放っとくわけもなく、鬼道会の代紋に泥をつけるような弱腰の舎弟頭一派は播磨の手によって粛清されていった。その数は両手では足りない数に及んだという。
播磨が実は潜入捜査官ではないか――そのような噂を小耳に挟むようになった頃、最初で最後となったが本人と酒を飲み交わす機会があった。
十ほど歳上の播磨に呼び出され、真実を問い質すべく誘いに乗って指定されたバーに遅れて辿り着くと、カウンター席で一人グラスを傾けていた播磨の背中には自らの手で葬ってきた者達の怨嗟が、暗い影のようにこびりついているように見えた。
無悪自身は無神論者であるし、魑魅魍魎の類も信じてはいない。ただ、この世界では弱った人間ほど蹴落としてきた人間に引っ張られるように、呆気なく死んでしまうものでそういう人間を何人も見てきた無悪は直感した。
――コイツはもう長くはない。
無悪の到着に遅れて気がついた播磨が、力無く振り返ると普段は狂気が宿る瞳に、積もり積もった疲弊の色が濃く窺えた。
目の下には炭を塗ったような隈がはっきりと浮かんでいる。到着するまでの間に一人で飲んでいたようで、席につくなり呂律の回らない舌で尋ねてきた。
「なあ……もしもだ、もしも目の前にいる男が、元は卑しい警察の犬だったとしたら、お前はどうする」
「そんなことを聞くために、わざわざ俺を呼び出したんですか」
その質問自体が、自分で自分を潜入捜査官だと暴露するに等しい内容であることは播磨も承知の上で答えたのだろう。
それから先の話を促したわけでもないのだが、これまでの半生を語り始め「俺は道を誤った」と氷を鳴らした。
珍しく人の話を聞き役に徹していた無悪は、バーテンが手にしていたウイスキーのボトルを奪いとると、一気に飲み干してカウンターに叩きつけた。
「初めの質問に答えようか。直々に指令が下されれば、この俺がもう一度答えてやる。鬼道会の代紋を汚した罰として貴様を粛清してやるよ」
荒々しくボトルをカウンターにたたきつけると、胃から度し難い感情の波が迫り上がってきた。誰にも打ち明けることはなかったが、無悪は播磨のことを大鰐源蔵の次にヤクザとして買っていた。
その男に長年騙されていたという事実は、五臓六腑が燃え盛るほどの怒りを無悪に与えた。ほんの僅かだが潜入捜査ではあってほしくなかったと願う自分がいた事も事実だった。
「はは……お前は昔からブレるということを知らないな。その調子で会長を支えてやれ。そのうち鬼道会は、お前なしでは立ち行かなくなるだろうからな」
「どうして俺に身分を打ち明けた。ハナから裏切るつもりで潜入したんだとしたら、とっとと役目を果たして組を抜けりゃ良かっただろ」
実際はそう上手くことが運ばないことを知りながら問い質す。
「俺は弱かったんだよ。金と暴力の力に負けて、信念を捻じ曲げてしまった負け犬なんだ。どうして打ち明たんだろうなぁ……。強いて言えば、断罪されたかったのかもしれんな」
「言ってる意味が分からないな。ここに来るまでは、ことによっちゃ独断で消そうとも思っていたが、今のあんたはまるで生きた屍だ。その腑抜けた面を見てたら殺す気も失せちまったよ」
「生きる屍か、違いねぇ」
播磨は苦笑いをして立ち上がる。
会話をものの数分で切り上げた播磨は、財布にあるだけの札を置いてふらつく足取りで去っていった。別れの言葉はなかった。
それから数日後――歌舞伎町の雑居ビルの屋上から飛び降り自殺を図った播磨の遺体が発見された。
警視庁上層部は長年頭痛の種だった男の不可解な死に、原因を究明するよりも先にほっと胸を撫で下ろしたに違いない。
一度激すれば血の雨が降り、容赦というものを知らず、血の気が荒いことで有名な福建マフィアですらその男を歌舞伎町で見かければ、顔を背け道を譲るという逸話が残されているほどだった。
身内のヤクザはもちろん、無悪をもってしても迂闊に近寄り難い雰囲気を放っていた男は、一切の感情を表に出すことなく一時期は最年少での幹部入りも噂されていた。
暴力が即ち正義である極道の世界において、日本の裏社会の頂点を目指していた無悪にとって邪魔で仕方ない存在の一人。男の名は播磨拳藤《はりまけんどう》――その実態は、極秘裏に送り込まれた潜入捜査の刑事だった。
今でこそ鬼道会の内部統制は盤石の地盤を築いていたが、過去には組を二分するほどの内部分裂の危機に陥ったことがある。
国内の覇権を早急に握り、ゆくゆくは海外へ手広くシノギの展開を目論む大鰐会長が率いる一派と、もう一方は兎にも角にも警察の目から逃れるべく、派手な抗争もしかけなければ国内の対抗組織との棲み分けを図ろうと主張していた腰抜けの舎弟頭一派。
一大勢力である鬼道会が二つに袂を分かてば、求心力と組織運営に歪みが生ずることは過去の例から見ても間違いなく、これを機にと他の組織が縄張りを脅かすことも想定された。
週刊誌には大鰐会長と舎弟頭を隠し撮った写真が大々的に掲載され、愚民の不安を煽る記事が毎号綴られていた。事実、時間が経つにつれ分裂の話は現実味を帯び始め、内部の緊張感は一触即発の状態だった。
「暴力団撲滅」と、出来もしないスローガンを長年掲げていた無能な警視庁上層部は、突如巻き起こった鬼道会の内紛に光明を見出す。
これ幸いと混乱に乗じて、これまでのような末端の枝組織をチンケな罪状で追い込むような弱腰の方針から、本丸である鬼道会本家の首にお縄をかけてやろうと鼻息を荒くし、大鰐源蔵会長を含め本家幹部の一斉摘発の計画を極秘裏で進めていた。
しかし、ここで最大の難問が立ちはだかった。情報提供者――通称「S」の存在だ。
相手はそこいらの組長ではない。
絶対的な情報を掴まない限り、鬼道会本家に家宅捜査令状を突きつけて突入する大義名分が存在せず、どうにかして一斉摘発に漕ぎ着けるためにはそれ相応の内部情報が必要となる。
でないと撲滅など永遠に絵に描いた餅でしかなかった。
――やはり鬼道会の牙城を崩すことなど到底不可能なのか。
そう思われていたある日のこと、急遽白羽の矢が立てられたのが当時ノンキャリアで、しかも交番勤務の年若い男性警官だった。
男の父親は元警官だったが、警邏中に挙動不審な行動を見せる男に職務質問で声をかけたところ、所持していた折りたたみナイフで腹部を数回刺され殺害されたという。
後でわかったことだが、現行犯逮捕された男は覚醒剤の乱用で鬼道会の系列から破門された元ヤクザだった。交番勤務でノンキャリの一警官でしかなかった男は、ある日突然本庁に招集されると、普段お目にかかることのないキャリア組の前に立たされ、潜入捜査の詳細を聞かされた。
人一倍悪を許さず、自らの手で反社会的勢力を葬りたいと望んでいることを把握した上で、上層部は男に提案を持ち掛けたのだ。
「君に潜入捜査を頼みたい」
ハナから断る選択肢などなかった。
「播磨拳藤」なる戸籍謄本を手渡され、その日を境にこれまでの自分を一旦棄て去り、公僕からヤクザ稼業に身をやつす。
播磨は一七〇センチほどと、日本の成人男性の平均身長ににも及ばない身長で無悪とは頭一個分も上背が低いが、不釣り合いなほどに逞しい四肢と胴体に闘牛のような首が見るものを圧倒する迫力を備えていた。
播磨は与えられた職務を全うし、警察上層部の予想を遥かに超える勢いで鬼道会の信頼を得て中枢に食い込んでいく。
だが、ある時を境に定期的に送られてくる報連相が途絶えがちになっていたことを不安視していた上層部は、別の人間を新たに監視の為に送り込んだのだが――事態は最悪な方向へと向かっていた。
危機察知能力に長けていた播磨は、近寄ってきた男が新しく送り込まれた潜入捜査員だと勘づくと、その刑事を呼び出して始末したのだ。
何故そんなことをしでかしたのか。
親の仇であるはずのヤクザと接していくうちに、堅気の生活では到底得ることなどできない快楽に飲まれていったのだ。
暴力と金は時に人を狂わしてしまう――その二つを意のままに操れるようになると、気付いた頃には潜入捜査のことなど播磨の頭から抜け落ちていた。
当然警察は焦る。おとり捜査とも言われる潜入捜査だが、基本的に日本では警察によるおとり捜査は認めておらず、これまでマスコミには行ってもいないと発表していた。
実際は数多くの潜入捜査員が広域指定暴力団や新興宗教の内部に送り込まれているが、その大半が過度なストレスにより脱走するか身バレしたのち、処分されるかもしくは暴力と金に目が眩むかが殆どだった。
万が一にも自らが送り込んだ警官が、反社会的勢力側に鞍替えしたと世間に知れ渡ってしまえば、自分達が出世争いの競争から脱落することは決定的だった。
それだけにとどまらず、かつての同胞を手に掛けるという凶行に及んだとなると、その大失態は警察庁上層部全員の首が飛んでもおかしくない事態である。当然世間に知られるわけにはいかない。
こうして播磨は、潜入捜査員となり数年で心身ともに立派なヤクザとなる。播磨は鬼道会に対してというより、大鰐会長にカリスマ性を見出し神のように崇め始めた。
狂信的ともいえる姿勢と戦闘力に、内部紛争で長期間揺れていた大鰐会長一派が放っとくわけもなく、鬼道会の代紋に泥をつけるような弱腰の舎弟頭一派は播磨の手によって粛清されていった。その数は両手では足りない数に及んだという。
播磨が実は潜入捜査官ではないか――そのような噂を小耳に挟むようになった頃、最初で最後となったが本人と酒を飲み交わす機会があった。
十ほど歳上の播磨に呼び出され、真実を問い質すべく誘いに乗って指定されたバーに遅れて辿り着くと、カウンター席で一人グラスを傾けていた播磨の背中には自らの手で葬ってきた者達の怨嗟が、暗い影のようにこびりついているように見えた。
無悪自身は無神論者であるし、魑魅魍魎の類も信じてはいない。ただ、この世界では弱った人間ほど蹴落としてきた人間に引っ張られるように、呆気なく死んでしまうものでそういう人間を何人も見てきた無悪は直感した。
――コイツはもう長くはない。
無悪の到着に遅れて気がついた播磨が、力無く振り返ると普段は狂気が宿る瞳に、積もり積もった疲弊の色が濃く窺えた。
目の下には炭を塗ったような隈がはっきりと浮かんでいる。到着するまでの間に一人で飲んでいたようで、席につくなり呂律の回らない舌で尋ねてきた。
「なあ……もしもだ、もしも目の前にいる男が、元は卑しい警察の犬だったとしたら、お前はどうする」
「そんなことを聞くために、わざわざ俺を呼び出したんですか」
その質問自体が、自分で自分を潜入捜査官だと暴露するに等しい内容であることは播磨も承知の上で答えたのだろう。
それから先の話を促したわけでもないのだが、これまでの半生を語り始め「俺は道を誤った」と氷を鳴らした。
珍しく人の話を聞き役に徹していた無悪は、バーテンが手にしていたウイスキーのボトルを奪いとると、一気に飲み干してカウンターに叩きつけた。
「初めの質問に答えようか。直々に指令が下されれば、この俺がもう一度答えてやる。鬼道会の代紋を汚した罰として貴様を粛清してやるよ」
荒々しくボトルをカウンターにたたきつけると、胃から度し難い感情の波が迫り上がってきた。誰にも打ち明けることはなかったが、無悪は播磨のことを大鰐源蔵の次にヤクザとして買っていた。
その男に長年騙されていたという事実は、五臓六腑が燃え盛るほどの怒りを無悪に与えた。ほんの僅かだが潜入捜査ではあってほしくなかったと願う自分がいた事も事実だった。
「はは……お前は昔からブレるということを知らないな。その調子で会長を支えてやれ。そのうち鬼道会は、お前なしでは立ち行かなくなるだろうからな」
「どうして俺に身分を打ち明けた。ハナから裏切るつもりで潜入したんだとしたら、とっとと役目を果たして組を抜けりゃ良かっただろ」
実際はそう上手くことが運ばないことを知りながら問い質す。
「俺は弱かったんだよ。金と暴力の力に負けて、信念を捻じ曲げてしまった負け犬なんだ。どうして打ち明たんだろうなぁ……。強いて言えば、断罪されたかったのかもしれんな」
「言ってる意味が分からないな。ここに来るまでは、ことによっちゃ独断で消そうとも思っていたが、今のあんたはまるで生きた屍だ。その腑抜けた面を見てたら殺す気も失せちまったよ」
「生きる屍か、違いねぇ」
播磨は苦笑いをして立ち上がる。
会話をものの数分で切り上げた播磨は、財布にあるだけの札を置いてふらつく足取りで去っていった。別れの言葉はなかった。
それから数日後――歌舞伎町の雑居ビルの屋上から飛び降り自殺を図った播磨の遺体が発見された。
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