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第二章
30.ラスケイオス
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かつて清には、イギリスからもたらされた阿片によって国が大きく傾いた歴史がある。イギリスは当時、清に流出した銀を補う為に阿片貿易で巨額の利益を築いたが、いわゆる依存性の危険性を知りながらも黙って売り続けた。
その中毒性に清が気づいたときには瞬く間に人民の間に広がり、各地で問題が頻発することとなった。事態を重く見た清は阿片の全面貿易禁止と、国内に持ち込まれた阿片の全てを没収、処分する決定を下したことでその対応に激怒したイギリスとの間で戦争が勃発するのだが、それはどうでもいい話だ。
ここで重要なのは、売り捌く側にとって数多の人間の人生がどう転がり落ちようが知ったことではないということ。
いくら廃人が生まれようが、自らの懐が潤えばそれでいい――何百年何千年経とうが、人間の根本は本質的に変わりはしない。
最後まで着いてこようと付きまとっていたアイリスを突き放すと、無悪は一人リステンブールの街を離れた。
久方ぶりにガキから開放されたことで、ここいらで溜まった性欲を吐き出そうと名も知らぬ街の路端を歩いていると、客引きをしていた娼婦と視線が交わる。
メロンと同等の大きさの胸を主張するドレスに衆人の視線は集まっていたが、無悪の視線に気がついた女は男性そのものを挟み込むようなジェスチャーをして誘惑してきた。
売春婦を抱くのにメリットもクソもあったものじゃないが、猛る感情を吐き出すにはちょうど良い。
――この世界のどこかに、オヤジを殺した仇が今ものうのうと暮らしている。
御し難い殺意が体中を駆け巡る。
理性を振り払った怒りが獣欲を伴い、連れ込まれた室内に艶めかしい嬌声がこだまする。
大抵の女は、無悪の上半身から下半身にかけて彫られた阿修羅像の刺青に言葉をなくす。
売春婦も初めて目にする刺青に最初こそ驚いていたが、果てることのない無尽蔵な体力で責め立てられるうちに快楽が勝りどうでも良くなったようで、抜かずイカずで数時間の間イカされ続けた結果、息も絶え絶えにシーツに倒れ込むとベッドに腰掛けていた無悪の背中の彫り物に手を伸ばした。
「触るな。お前のような安い女が触れていい代物じゃねえんだよ」
「なによ、ケチね。それよりまた声かけてちょうだいよ。なんなら次からはまけとくわよ」
手を振り払うと、頬を膨らませて精一杯可愛らしさをアピールしていたが、厚い化粧の下に隠された年相応の気配は隠しきれるものではない。
「おい。お前はフリーの売春婦じゃねえよな」
しばらく縁のなかった虚脱感にしばし酔いしれながら尋ねる。
「ええ、ここいらじゃあたし等みたいな日陰者は、アキツ組に所場代を納めないで勝手に商売出来ないからね。それがどうしたんだい?」
「実は人探しをしてるんだがな――」
無悪はとある人物を探していることを告げ、「○○○の名を知ってるか」と尋ねるやいなや、声を震わせ蒼白な顔で質問に質問を返してきた。
「あんた……どうしてその人を探してるんだい」
「会って直々に確かめてみたいことがあるんだよ」
「知らないよ……あたしは知らないから。あんたも命が惜しけりゃ、その名を軽々しく吐かないことだね。それと二度と声は掛けないでおくれよ」
そう言い残すと、内腿に情事の名残を残したまま女は着の身着のまま部屋をあとにした。金を支払い忘れていたが、そのことに気が付かないほど動転していたらしい。
予想していた以上の拒絶反応に、探している男の影響力の大きさを実感した無悪は阿修羅像が睨みを利かせる背中の上からシャツを羽織ると、再び夜の街に繰り出した。
単独行動を初めて数日後――辿り着いた街、ラスケイオスは、まるでメキシコの世界最大の麻薬カルテルと現地当局の蜜月関係を模したような街だった。
反社会的勢力が地元の政財界に幅を利かせた結果、見事に癒着しきっている。事前に妖精姫から聴いていた情報では、アキツ組のアジトは外部の人間に居場所を悟られぬよう、国内に点在する複数の拠点に定期的に移動しているらしい。
つまり、闇雲に探したところでアジトの場所を突き止めるのはおろか、接触を図るのも困難というわけだ。
「まさか、『一から拠点を探しだせ』とでも言うんじゃないだろうな。それなら話は別だぞ」
「それこそまさかです。一流の偵察でさえ居場所を特定するだけで数ヶ月は掛かりそうな依頼を、素人のサカナシさんに頼むはずもないことくらい少し考えればお判りになるでしょう」
確かにここが日本であれば、鬼道会の情報網を駆使すれば人一人の行方を辿ることはそう難しいこと造作ではないが、こと異世界ともなると人脈もなければ土地勘もない。
素直に頷くと、それには及ばないと三枚の羊皮紙を差し出された。
妖精姫の指摘通り、ゼロから居場所を探るような無駄な徒労などまっぴらゴメンだ。謎の多いアキツ組の動向を妖精姫は独自に監視していたようで、おおよその居場所は三つに絞り込まれていた。
その調査結果に従い、二つの候補地は既に訪れていたが見事に空振りに終わった。
残された一枚に記載された地図をもとに、足を踏み入れたラスケイオスで無悪がまず何よりも優先するべきことは、アキツ組との接触。それに尽きる。
それも下っ端ではなく幹部――出来ればトップに近ければ近いほどいいが、なまじ文明が劣っているせいで顔も名前も容易に割り出せない。
接触の機会を伺うこと数日後――思わぬ形でアイツと出会うことになった。
その中毒性に清が気づいたときには瞬く間に人民の間に広がり、各地で問題が頻発することとなった。事態を重く見た清は阿片の全面貿易禁止と、国内に持ち込まれた阿片の全てを没収、処分する決定を下したことでその対応に激怒したイギリスとの間で戦争が勃発するのだが、それはどうでもいい話だ。
ここで重要なのは、売り捌く側にとって数多の人間の人生がどう転がり落ちようが知ったことではないということ。
いくら廃人が生まれようが、自らの懐が潤えばそれでいい――何百年何千年経とうが、人間の根本は本質的に変わりはしない。
最後まで着いてこようと付きまとっていたアイリスを突き放すと、無悪は一人リステンブールの街を離れた。
久方ぶりにガキから開放されたことで、ここいらで溜まった性欲を吐き出そうと名も知らぬ街の路端を歩いていると、客引きをしていた娼婦と視線が交わる。
メロンと同等の大きさの胸を主張するドレスに衆人の視線は集まっていたが、無悪の視線に気がついた女は男性そのものを挟み込むようなジェスチャーをして誘惑してきた。
売春婦を抱くのにメリットもクソもあったものじゃないが、猛る感情を吐き出すにはちょうど良い。
――この世界のどこかに、オヤジを殺した仇が今ものうのうと暮らしている。
御し難い殺意が体中を駆け巡る。
理性を振り払った怒りが獣欲を伴い、連れ込まれた室内に艶めかしい嬌声がこだまする。
大抵の女は、無悪の上半身から下半身にかけて彫られた阿修羅像の刺青に言葉をなくす。
売春婦も初めて目にする刺青に最初こそ驚いていたが、果てることのない無尽蔵な体力で責め立てられるうちに快楽が勝りどうでも良くなったようで、抜かずイカずで数時間の間イカされ続けた結果、息も絶え絶えにシーツに倒れ込むとベッドに腰掛けていた無悪の背中の彫り物に手を伸ばした。
「触るな。お前のような安い女が触れていい代物じゃねえんだよ」
「なによ、ケチね。それよりまた声かけてちょうだいよ。なんなら次からはまけとくわよ」
手を振り払うと、頬を膨らませて精一杯可愛らしさをアピールしていたが、厚い化粧の下に隠された年相応の気配は隠しきれるものではない。
「おい。お前はフリーの売春婦じゃねえよな」
しばらく縁のなかった虚脱感にしばし酔いしれながら尋ねる。
「ええ、ここいらじゃあたし等みたいな日陰者は、アキツ組に所場代を納めないで勝手に商売出来ないからね。それがどうしたんだい?」
「実は人探しをしてるんだがな――」
無悪はとある人物を探していることを告げ、「○○○の名を知ってるか」と尋ねるやいなや、声を震わせ蒼白な顔で質問に質問を返してきた。
「あんた……どうしてその人を探してるんだい」
「会って直々に確かめてみたいことがあるんだよ」
「知らないよ……あたしは知らないから。あんたも命が惜しけりゃ、その名を軽々しく吐かないことだね。それと二度と声は掛けないでおくれよ」
そう言い残すと、内腿に情事の名残を残したまま女は着の身着のまま部屋をあとにした。金を支払い忘れていたが、そのことに気が付かないほど動転していたらしい。
予想していた以上の拒絶反応に、探している男の影響力の大きさを実感した無悪は阿修羅像が睨みを利かせる背中の上からシャツを羽織ると、再び夜の街に繰り出した。
単独行動を初めて数日後――辿り着いた街、ラスケイオスは、まるでメキシコの世界最大の麻薬カルテルと現地当局の蜜月関係を模したような街だった。
反社会的勢力が地元の政財界に幅を利かせた結果、見事に癒着しきっている。事前に妖精姫から聴いていた情報では、アキツ組のアジトは外部の人間に居場所を悟られぬよう、国内に点在する複数の拠点に定期的に移動しているらしい。
つまり、闇雲に探したところでアジトの場所を突き止めるのはおろか、接触を図るのも困難というわけだ。
「まさか、『一から拠点を探しだせ』とでも言うんじゃないだろうな。それなら話は別だぞ」
「それこそまさかです。一流の偵察でさえ居場所を特定するだけで数ヶ月は掛かりそうな依頼を、素人のサカナシさんに頼むはずもないことくらい少し考えればお判りになるでしょう」
確かにここが日本であれば、鬼道会の情報網を駆使すれば人一人の行方を辿ることはそう難しいこと造作ではないが、こと異世界ともなると人脈もなければ土地勘もない。
素直に頷くと、それには及ばないと三枚の羊皮紙を差し出された。
妖精姫の指摘通り、ゼロから居場所を探るような無駄な徒労などまっぴらゴメンだ。謎の多いアキツ組の動向を妖精姫は独自に監視していたようで、おおよその居場所は三つに絞り込まれていた。
その調査結果に従い、二つの候補地は既に訪れていたが見事に空振りに終わった。
残された一枚に記載された地図をもとに、足を踏み入れたラスケイオスで無悪がまず何よりも優先するべきことは、アキツ組との接触。それに尽きる。
それも下っ端ではなく幹部――出来ればトップに近ければ近いほどいいが、なまじ文明が劣っているせいで顔も名前も容易に割り出せない。
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※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
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