【R18】年上上司のオトシ方

二久アカミ

文字の大きさ
34 / 51
3:年上上司の愛し方(※)

(7)※

しおりを挟む


 ソファーの上で互いの体を高めあった後、はあっと一息ついたのは濱口が先だった。

「え……もう一回、やだ?」
「……っ! い、いいから……もう……」
「えー……うん……」

(なんでいやがんだろ……こういうの、恥ずかしい方なのかな……?)

 淡白だけど慣れきっててーのイメージだったのに、なんて非常に勝手なことを思いながら、抱き締めたのに、ふいっと避けられた。

(あ、逃げられる……!)

「礼人さん」

 ソファーから立ち上がった奥村はびくんっと大きく揺れた。濱口は彼のシャツのすそをつかみ、えっと……と話しかける。

「あのさ、もう何もしねえから……一緒に寝ていい?」

 一緒に寝たいです、と言うと、奥村は黙ったままバスルームの方へ行ってしまった。

(いいのかな?)

 イヤならイヤって言うだろ、あの人……、と濱口は赤くなる頬をぺちぺちと叩き、とりあえず、ちょっと履き心地の悪い下着とスーツのパンツを履くと、ぺたぺたと足音をさせながら、ベッドルームに入る。シャワーの音がバスルームからして、そこの中を妄想して盛り上がりそうなのを必死でおさえていたが、寝室の方がやばかった。何度か入ったことはあるけれど、今日は意味が違う。

(あー、なんか聖域に入ってしまった気分だなー……)

 どきどきしながら、ベッドに寝転がると、少し広めのダブルのそれは心地よいスプリングで濱口の体重を支えてくれた。枕やクッションは複数ある。いいかな、と一つのクッションを借りて顔をうずめると、さっきのことが思い出された。

(礼人さん、あんな顔もするんだなあ……うう、写真に残したかった……)

 ごろんごろんとしそうに興奮するのを必死でおさえ、ベッドから追い出されるのを覚悟で待つ。何もしないから、一緒にいたいな、と思って、熱くなった頬を冷やすように、ぺたりと甲をそこに押し当てた。

(……好きだなー……)

 初めてああいう風にできたんだから、もうちょっとその幸せをかみしめたい、そう思って、ちょっと一緒に寝るのだけはねだろう、と心に決めて目を閉じていると、目蓋の裏の視界がふとさらに暗くなった気がして、驚いて目をあける。
 電気が消えていて驚き、え……? と振り向こうとすると、奥村が「見るな」とそれを制した。

「え……」

 濱口の傍に奥村がくる気配がする。どくどくどく、と高鳴る胸の音だったが、ぎしり、とベッドが揺れた瞬間に跳ねそうになった。

「え、うわっ……」

 軋んだベッドの勢いだけではなくて、濱口は入り口に背中を向けるようにうつ伏せていたのをひっくり返される。ぐいっと体重をかけられて、跨がられて驚きを通り越して声も出ない。……自分の上に乗っている恋人は、下着しか身につけず、ほぼ全裸に近い状態でいたのだから。

(!!!!)

 え、ちょっと待って、オレ、逆がいいんだけど……! ってか目のやり場に困る……っ、とあまりの展開に大混乱の濱口だったが、奥村は濱口の腰のあたりにのっかったまま、じぃっと彼を見つめていた。
 本人は気付いているのだろうか。本当に艶やかで、暗い部屋にもようやく慣れてきた目で見ても、真っ白な肌は美しく光っている。一瞬だったのだろうが、時が止まったかのように思えた濱口は、こういうの……やっぱり慣れてんの? なんてどきどきしながらもとても複雑で。年上だし仕方がないよな、と少し凹んで考えていると、奥村が上からぼそりと呟いた。

「できんのか?」
「え?」
「オレ、おっさんだし……男、だし……」
「は……?」
(何言って、こんなキレイで……)

 彼の言葉にぽかんと口をあけそうになると、奥村は顔を赤らめて、視線をうつろわせた。

「お前は……スキとか言ってくるけど、懐いてるだけで……そういう……のは、どうしたいのか、わかんなくて」

 そう言うと、ぐっと息を飲み、呆然としている濱口の手をとり……そして、胸を触らせた。

「……っ!」
「こんなの……なんもねえし……」

 ぺたんこ、だし……といいながら自分の胸に手をあてさせる。もっていかれた胸の中心あたりから、どくどくどくと彼の心臓の音がきこえ、濱口は顔を赤らめた。

「な、何言って……」
「下……あるし……気持ち悪い、だろ?」
(何言ってんの!? 意味わかんねえ……! さっきしたじゃん! 気持ち悪いわけないでしょーが!?)

 濱口がなんといっていいかを考えあぐねている間に、奥村は唇を迷わせ、少し震えながら、淡々と言葉を続ける。

「ガキじゃねえんだし。こういうの、やっぱりできねえ……だろ。できねえよな。オレもする気には……」

 何言ってるの、と思わず濱口は彼の言葉を止めた。男同士なんて、ずっとわかっていて、奥村が男性との経験がなさそうなのは意外だったけれど……今更? なんて思うのは無理もない。濱口は一つ深呼吸をして、黙ってしまった奥村に、それってさ、と話しかけた。

「礼人さんは……別れたいってこと……?」
「……そうじゃ……ねえけど」

 黙って俯いてしまった彼に、どうして? と濱口は起き上がって詰め寄った。

「なんで、そういうこと言うんだよ……? さっき気持ちよかったし……っ、そりゃ、オレだって……男としたことねーけど、礼人さんとはしたい……から」

 言葉がつまって、思わずキスをした。びくっと震える身体を抱き締めて、逆方向に押し倒す。思わず軋んだベッドの上で奥村は驚きの表情を浮かべ、はっと気付いたように濱口の腕に抵抗した。

「礼人さん。オレ、本気でスキなんです。でも、礼人さんが、こういう風にするの、あんまりスキじゃないのかもって、怖くてできなかっただけで……何もしないって思ってたけど。オレがどれだけスキか考えたことあんのかよ……そんな格好で、オレ……っ」

 煽られるって……と言い見つめていると、奥村は視線をうろうろさせ、ふいっと逸らしてしまった。体が震えている。怖いのかもしれない、と思うと、力が緩んで気が抜けた。奥村は濱口に自分は男だと分からせたかったのかもしれない。けれど、こんなに大好きな人の裸を見せられて、煽られないわけがないのに。スキだって何度も伝えてきてるのに……

(なんでこの人、わかんねえんだろ……)

 ちゅっ、と額にキスをして、体を弄っていく。先程のソファーとは違い、広いので、奥村の長い腕を抵抗できないように体から引き離し、シーツに縫い付けていく。それに焦ったのか、キスの合間に、ちょっと待て……、と抵抗の声が擦れていた。濱口は待つ気などなくて、彼の直の肌に感動しながら触れていく。

「待てねえ……んだけど……礼人さんは……ヤだ……?」

 奥村は目線が虚ろで濱口を直視できないようだった。何かを言おうとしているが、そんなのは無視して、濱口は強引に彼の首筋に口付け、ちゅうっと強く吸う。うっすらと痕がついたのがわかる。わずかな独占欲が満たされて、これ、気付かれたら怒られるかな、なんて思いながら、彼と視線をあわすように見つめる。

「できないなんてことねーよ。できる、っつーか……したい、ってずっと思ってた。……抱かせてください。お願いします……スキなんです」

 礼人さんのこと、と、濱口が告げると、奥村が迷うような視線を見せた。構ってられるか!と濱口は強引に唇を塞ぎ、強くなった抵抗の力を押さえつけて行く。

「んっ……んぅっ」
「逃げんな……って……っ」

 彼の利き腕をおさえて、空いた左手で胸を弄っていく。小さくぷくりと立ち上がっている薄桃色のそれを指で捏ね、ひくひくと震える様を見て興奮した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

ミルクと砂糖は?

もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

処理中です...