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甘党
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「はぁぁっ!!」
静かな森の中。
レオーネは木の棒を持って殴りかかってきた。
「甘い。脇腹がガラ空きだ」
俺は横にステップを踏み攻撃を回避すると、隙だらけの脇腹を指で小突いた。
「っ!」
「休むな! 魔法使いだからって近接戦をサボっていいわけじゃないんだぞ」
「わ、わかってますよ!」
手を叩いてゲキを飛ばすと、レオーネは木の棒を握る手に一層強い力を込めて駆け出した。
俺はまたも軽くあしらい、隙だらけの脇腹や腹部、足元などを軽く突いていく。
こんなトレーニングを始めて早三ヶ月か。
魔法ばかりに囚われていたレオーネに体術や剣術を教えるのは中々大変だったが、要領も頭もいい彼女はたった三ヶ月でメキメキと成長していた。
「……よし、そろそろ休憩にするか」
ある程度の鍛錬をこなしたところで、俺は側にある切り株に腰を下ろした。
「はぁはぁ……っ……さ、さすがに、疲れますね……」
「お疲れ」
俺は四つん這いになって息を荒げるレオーネの前に水筒を投げ置いた。
俺としてはまだ物足りないのだが、これ以上続けるとレオーネがぶっ倒れてしまうので我慢する。
「ありがとうございます。気が利きますね……っ! あぁぁっ、あ、貴方って優しいのかおかしな人なのかわからないですね! この水筒の中身は何ですか!? 変な味がします!」
レオーネは水筒に口をつけた瞬間に嗚咽して顔を歪ませた。
「水じゃなかったか?」
「お酒です! それもウイスキーの原液です! バカなんですか?」
「ほんとだ」
俺は水筒の蓋を開けて匂いを嗅いだ。
しっかりとしたウイスキーの芳醇な匂いがする。
野営の時に飲もうとして、水入りの水筒と同じ水筒にウイスキーを入れていたのを忘れていた。
「えーっと……これが水入りの水筒だ。ほら」
俺はすぐに魔法収納にアクセスして、水入りの水筒を取り寄せてウイスキー入りの水筒を収納した。
紛らわしいから今度印をつけておこう。
「ありがとうございます。単なる旅人のくせに、体術も剣術も魔法も何もかもが異様なまでに優れてるんですね」
レオーネは出会ってからの三ヶ月間で既に見慣れているだろうに、今更俺という人間にため息を溢していた。
「旅人は一人で行動するからなんでもできないといけないんだよ。レオーネだってソロで冒険者をやってるならわかるだろ?」
「ええまあ、わからなくもないですが、流石に貴方ほど多才ではありませんし、貴方ほど強くなれるとは思っていませんよ」
レオーネは普段の強気でクールな態度はどこへやら、珍しく疲れ切った様子で嘆息していた。
「でも、上級悪魔を倒せるくらい強くなりたいんだろ? 上級悪魔って強さはピンキリだけど、基本的には魔法耐性が異常なくらい高いから、俺くらい……いや、俺よりも強くならないと厳しいぞ?」
悪魔の正体や発生法則については何一つとして解明されていない。
いきなり地面から生えてくるやつもいれば、天から落下してくるやつもいる。本当に不規則的なのだ。
おまけに魔法耐性がめちゃくちゃ高くて、体も厚い鎧のような頑強な肉体で覆われているので体術や剣術も効きにくい。
まともにやりあって勝てる保証はどこにもない。
「貴方なら簡単に倒せると思います」
レオーネは仰向けに寝転がった。
期待を裏切るようで悪いが、正直今の俺の実力では最も強い上級悪魔と戦っても、五分五分かそれ以下の戦績になると思う。
それくらい難敵なのだ。
「……そんなことより、何か面白い話はないのか?」
俺は期待の眼差しを向けてくるレオーネの隣に座り込んだ。
身の上話も悪くはないが、俺としてはもっと楽しい話がしたい。
「いい加減話すネタもないですよ……毎日毎日会うたびに面白いことがあるわけじゃないですからね。ましてやエルフの里には人間のような娯楽もありませんし」
「んー……確かにそうだな。もうエルフについては粗方知り尽くしたからな」
この三ヶ月間を通して、レオーネからはエルフの里のことやエルフという種族のことについて聞きまくっていた。
例えば、エルフは清廉潔白な性格で嘘が下手とか、エルフ同士が生まれ持った容姿に惹かれる習性はなく、人のことは全て中身で判断するとか、エルフの里の真ん中には憩いの噴水と呼ばれる祈りのスポットがあり、レオーネの両親は毎日のように通っているとか……色々だ。
また、エルフは人間のことを忌み嫌っているということを最初に教えてくれたが、レオーネはそういうわけでもないらしい。
他にも冒険者を志すエルフや人間の開放的な生活に憧れるエルフなどは、積極的に里から外の世界に繰り出すそうだ。
俺が王都やその他の街で見かけるエルフはそういった性格の者たちなのだろう。エルフたちの中では変わり者と呼ばれるらしい。
もちろんそれは人間に混じってソロ冒険者をしているレオーネも例外ではない。
「そうだ。じゃあレオーネのことを教えてくれよ」
「私のことですか?」
「ああ」
「嫌です。つまらないと言われるのが目に見えてますから」
レオーネは上体を起こすと勢いよく首を横に振った。
つまらないことなんてないのに、彼女は些か自分に自信を持ててないような気がする。
「いやいや、普段はクールな感じなのに褒めたらすぐ照れちゃうところとか面白いぞ?」
「黙りなさいっ!」
レオーネは木の棒で軽く叩いてきた。
「痛っ……くない……けど、そんなに自分のことを話すのが嫌なのか?」
「嫌ではありません。ただ、私のことを知ってもつまらないよで、話すだけ無駄だと言っているのです」
「はいはい、悪かったよ。ほら、とっておきのデザートをやるから機嫌を直してくれ」
俺は小さく頬を膨らませるレオーネの前に、真白い皿の上に乗せられた一切れのケーキを持っていった。
「……」
レオーネは俺のことを横目でチラリと確認すると、すぐにケーキに視線を移して唾を飲んだ。
本人は気がついていないらしいが、実はレオーネは甘党である。
エルフの里は味気ない食事が多いらしく、しっかりとした味を感じられるのは精霊の森の木々に実る果実くらいだ。
その果実を食べている時のレオーネの表情はほんのり和らぎ、喜ばしく頬が緩んでいた。
「食べていいぞ」
「……いただきます」
レオーネは”仕方なく食べてあげる”とでも言いたげな飄々とした表情で、ケーキの隣に置かれたフォークを手に取った。
そして、小さくフォークでケーキをすくうと、ゆっくりと口に運ぶ。
その瞬間。
レオーネはだらしなく頬を蕩けさせると、恍惚の笑みを浮かべてもきゅもきゅと口を動かし始めた。
「……ええ、はい……中々、美味しい……ですね。感謝してもいいですよ?」
素直じゃないやつだ。
それからは端的に感想を口にしながらも素早く食べ進めていき、やがて三十秒も経たないうちにケーキは彼女の胃の中に収められることになった。
「ふむ……普段はクールを装って他のエルフと同じように野菜と水だけで栄養を摂取しているくせに、やっぱり甘いものが好きだったんだな」
「そ、そんなことありませんよっ?! 私は誇り高きエルフですから!」
「別に隠さなくていいだろ? 確かに他のエルフとは違うみたいだけど、それも一つの個性だしな」
なぜレオーネはわたわたと慌てふためいているのだろうか。
単一種族での集団生活を好むエルフだからと言って、別に自我を封じ込めたり周囲に全部を合わせる必要なんて全くない。
食事くらい好きにすればいいと、俺は思う。
別に野菜と水ばかり摂取するのが誇り高いわけでもナオと思うしな。
「そ、そうですか……こんな私が甘いものばかり食べたいなんて思ってたらおかしくないですか? 他のエルフは全員菜食主義ですよ?」
「おかしくない。好きなように好きなものを食べればいいだろ?」
「……ありがとうございます」
レオーネはなぜか足を組み替えて正座すると、ぺこりと頭を下げてきた。
既に皿の上にケーキはない。
「気にするな」
なんのお礼なのかよくわからなかったが取り敢えず返事をしておいた。
同時に森の隙間から見える空が薄暗くなっていることに気がつく。
「続きはまた明日にしようか」
「そうですね」
俺に釣られてレオーネも空を眺めた。
「気をつけろよ」
「ええ、ただの一本道ですが気をつけて帰ります」
「またな」
俺はそそくさと立ち去るレオーネに手を振った。
彼女も半身を向けながら軽く手を振り返してくる。
やがて背中が遠くなり、姿が見えなくなると、俺は切り株に腰を下ろして息を吐いた。
もうここに来てから三ヶ月か。
魔法や体術、剣術を教える代わりに、エルフの里やエルフという種族の特性について教えてもらう毎日だ。
決まって夕方から始める模擬戦を終えると、先ほどのように呑気に喋りながら休憩をとり、薄暗くなることで俺たちは解散する。
なんて事のない日常だったが、俺は楽しかった。
ソロ冒険者として活動したいが目立ちたくはないというジレンマを抱えていたので、本当の姿や名前は隠し通してきたが、レオーネには明かしても良いと思えていた。
「よし、決めた」
俺は一つの決心をした。
あと三ヶ月、この関係を保ち続けることができたら、彼女に俺の素性を明かしてみよう。
同じソロ冒険者だし、種族の垣根を超えたこの関係性なら理解してくれると思う。
何ヶ月間も偽りの姿で騙し続けてきた俺に幻滅しないだろうか。
それだけが心配だ。
「……早いけど、今日は寝るか」
俺はまだ夜も更けない時間ではあるが、洞窟という名の精霊の祠へと帰還した。
そして、高揚感を胸に秘めつつも、三ヶ月後のその日を楽しみにしながら瞳を閉じる。
この時はまだ知る由もなかった。
三ヶ月後のその日に、エルフの里に強大な敵が現れることなんて。
静かな森の中。
レオーネは木の棒を持って殴りかかってきた。
「甘い。脇腹がガラ空きだ」
俺は横にステップを踏み攻撃を回避すると、隙だらけの脇腹を指で小突いた。
「っ!」
「休むな! 魔法使いだからって近接戦をサボっていいわけじゃないんだぞ」
「わ、わかってますよ!」
手を叩いてゲキを飛ばすと、レオーネは木の棒を握る手に一層強い力を込めて駆け出した。
俺はまたも軽くあしらい、隙だらけの脇腹や腹部、足元などを軽く突いていく。
こんなトレーニングを始めて早三ヶ月か。
魔法ばかりに囚われていたレオーネに体術や剣術を教えるのは中々大変だったが、要領も頭もいい彼女はたった三ヶ月でメキメキと成長していた。
「……よし、そろそろ休憩にするか」
ある程度の鍛錬をこなしたところで、俺は側にある切り株に腰を下ろした。
「はぁはぁ……っ……さ、さすがに、疲れますね……」
「お疲れ」
俺は四つん這いになって息を荒げるレオーネの前に水筒を投げ置いた。
俺としてはまだ物足りないのだが、これ以上続けるとレオーネがぶっ倒れてしまうので我慢する。
「ありがとうございます。気が利きますね……っ! あぁぁっ、あ、貴方って優しいのかおかしな人なのかわからないですね! この水筒の中身は何ですか!? 変な味がします!」
レオーネは水筒に口をつけた瞬間に嗚咽して顔を歪ませた。
「水じゃなかったか?」
「お酒です! それもウイスキーの原液です! バカなんですか?」
「ほんとだ」
俺は水筒の蓋を開けて匂いを嗅いだ。
しっかりとしたウイスキーの芳醇な匂いがする。
野営の時に飲もうとして、水入りの水筒と同じ水筒にウイスキーを入れていたのを忘れていた。
「えーっと……これが水入りの水筒だ。ほら」
俺はすぐに魔法収納にアクセスして、水入りの水筒を取り寄せてウイスキー入りの水筒を収納した。
紛らわしいから今度印をつけておこう。
「ありがとうございます。単なる旅人のくせに、体術も剣術も魔法も何もかもが異様なまでに優れてるんですね」
レオーネは出会ってからの三ヶ月間で既に見慣れているだろうに、今更俺という人間にため息を溢していた。
「旅人は一人で行動するからなんでもできないといけないんだよ。レオーネだってソロで冒険者をやってるならわかるだろ?」
「ええまあ、わからなくもないですが、流石に貴方ほど多才ではありませんし、貴方ほど強くなれるとは思っていませんよ」
レオーネは普段の強気でクールな態度はどこへやら、珍しく疲れ切った様子で嘆息していた。
「でも、上級悪魔を倒せるくらい強くなりたいんだろ? 上級悪魔って強さはピンキリだけど、基本的には魔法耐性が異常なくらい高いから、俺くらい……いや、俺よりも強くならないと厳しいぞ?」
悪魔の正体や発生法則については何一つとして解明されていない。
いきなり地面から生えてくるやつもいれば、天から落下してくるやつもいる。本当に不規則的なのだ。
おまけに魔法耐性がめちゃくちゃ高くて、体も厚い鎧のような頑強な肉体で覆われているので体術や剣術も効きにくい。
まともにやりあって勝てる保証はどこにもない。
「貴方なら簡単に倒せると思います」
レオーネは仰向けに寝転がった。
期待を裏切るようで悪いが、正直今の俺の実力では最も強い上級悪魔と戦っても、五分五分かそれ以下の戦績になると思う。
それくらい難敵なのだ。
「……そんなことより、何か面白い話はないのか?」
俺は期待の眼差しを向けてくるレオーネの隣に座り込んだ。
身の上話も悪くはないが、俺としてはもっと楽しい話がしたい。
「いい加減話すネタもないですよ……毎日毎日会うたびに面白いことがあるわけじゃないですからね。ましてやエルフの里には人間のような娯楽もありませんし」
「んー……確かにそうだな。もうエルフについては粗方知り尽くしたからな」
この三ヶ月間を通して、レオーネからはエルフの里のことやエルフという種族のことについて聞きまくっていた。
例えば、エルフは清廉潔白な性格で嘘が下手とか、エルフ同士が生まれ持った容姿に惹かれる習性はなく、人のことは全て中身で判断するとか、エルフの里の真ん中には憩いの噴水と呼ばれる祈りのスポットがあり、レオーネの両親は毎日のように通っているとか……色々だ。
また、エルフは人間のことを忌み嫌っているということを最初に教えてくれたが、レオーネはそういうわけでもないらしい。
他にも冒険者を志すエルフや人間の開放的な生活に憧れるエルフなどは、積極的に里から外の世界に繰り出すそうだ。
俺が王都やその他の街で見かけるエルフはそういった性格の者たちなのだろう。エルフたちの中では変わり者と呼ばれるらしい。
もちろんそれは人間に混じってソロ冒険者をしているレオーネも例外ではない。
「そうだ。じゃあレオーネのことを教えてくれよ」
「私のことですか?」
「ああ」
「嫌です。つまらないと言われるのが目に見えてますから」
レオーネは上体を起こすと勢いよく首を横に振った。
つまらないことなんてないのに、彼女は些か自分に自信を持ててないような気がする。
「いやいや、普段はクールな感じなのに褒めたらすぐ照れちゃうところとか面白いぞ?」
「黙りなさいっ!」
レオーネは木の棒で軽く叩いてきた。
「痛っ……くない……けど、そんなに自分のことを話すのが嫌なのか?」
「嫌ではありません。ただ、私のことを知ってもつまらないよで、話すだけ無駄だと言っているのです」
「はいはい、悪かったよ。ほら、とっておきのデザートをやるから機嫌を直してくれ」
俺は小さく頬を膨らませるレオーネの前に、真白い皿の上に乗せられた一切れのケーキを持っていった。
「……」
レオーネは俺のことを横目でチラリと確認すると、すぐにケーキに視線を移して唾を飲んだ。
本人は気がついていないらしいが、実はレオーネは甘党である。
エルフの里は味気ない食事が多いらしく、しっかりとした味を感じられるのは精霊の森の木々に実る果実くらいだ。
その果実を食べている時のレオーネの表情はほんのり和らぎ、喜ばしく頬が緩んでいた。
「食べていいぞ」
「……いただきます」
レオーネは”仕方なく食べてあげる”とでも言いたげな飄々とした表情で、ケーキの隣に置かれたフォークを手に取った。
そして、小さくフォークでケーキをすくうと、ゆっくりと口に運ぶ。
その瞬間。
レオーネはだらしなく頬を蕩けさせると、恍惚の笑みを浮かべてもきゅもきゅと口を動かし始めた。
「……ええ、はい……中々、美味しい……ですね。感謝してもいいですよ?」
素直じゃないやつだ。
それからは端的に感想を口にしながらも素早く食べ進めていき、やがて三十秒も経たないうちにケーキは彼女の胃の中に収められることになった。
「ふむ……普段はクールを装って他のエルフと同じように野菜と水だけで栄養を摂取しているくせに、やっぱり甘いものが好きだったんだな」
「そ、そんなことありませんよっ?! 私は誇り高きエルフですから!」
「別に隠さなくていいだろ? 確かに他のエルフとは違うみたいだけど、それも一つの個性だしな」
なぜレオーネはわたわたと慌てふためいているのだろうか。
単一種族での集団生活を好むエルフだからと言って、別に自我を封じ込めたり周囲に全部を合わせる必要なんて全くない。
食事くらい好きにすればいいと、俺は思う。
別に野菜と水ばかり摂取するのが誇り高いわけでもナオと思うしな。
「そ、そうですか……こんな私が甘いものばかり食べたいなんて思ってたらおかしくないですか? 他のエルフは全員菜食主義ですよ?」
「おかしくない。好きなように好きなものを食べればいいだろ?」
「……ありがとうございます」
レオーネはなぜか足を組み替えて正座すると、ぺこりと頭を下げてきた。
既に皿の上にケーキはない。
「気にするな」
なんのお礼なのかよくわからなかったが取り敢えず返事をしておいた。
同時に森の隙間から見える空が薄暗くなっていることに気がつく。
「続きはまた明日にしようか」
「そうですね」
俺に釣られてレオーネも空を眺めた。
「気をつけろよ」
「ええ、ただの一本道ですが気をつけて帰ります」
「またな」
俺はそそくさと立ち去るレオーネに手を振った。
彼女も半身を向けながら軽く手を振り返してくる。
やがて背中が遠くなり、姿が見えなくなると、俺は切り株に腰を下ろして息を吐いた。
もうここに来てから三ヶ月か。
魔法や体術、剣術を教える代わりに、エルフの里やエルフという種族の特性について教えてもらう毎日だ。
決まって夕方から始める模擬戦を終えると、先ほどのように呑気に喋りながら休憩をとり、薄暗くなることで俺たちは解散する。
なんて事のない日常だったが、俺は楽しかった。
ソロ冒険者として活動したいが目立ちたくはないというジレンマを抱えていたので、本当の姿や名前は隠し通してきたが、レオーネには明かしても良いと思えていた。
「よし、決めた」
俺は一つの決心をした。
あと三ヶ月、この関係を保ち続けることができたら、彼女に俺の素性を明かしてみよう。
同じソロ冒険者だし、種族の垣根を超えたこの関係性なら理解してくれると思う。
何ヶ月間も偽りの姿で騙し続けてきた俺に幻滅しないだろうか。
それだけが心配だ。
「……早いけど、今日は寝るか」
俺はまだ夜も更けない時間ではあるが、洞窟という名の精霊の祠へと帰還した。
そして、高揚感を胸に秘めつつも、三ヶ月後のその日を楽しみにしながら瞳を閉じる。
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