ハーレムキング

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4章 論理と感情を合わせる方法 編

ハーレムキングは魔法を知る

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 その日も、穏やかな昼下がりだった。

 広場に面した露店の軒先で、オレとサラはちょっとした魔道具屋を眺めていた。

 水晶に似た触媒石や、精巧な刻印が施された杖の飾り。見た目は美しいが、オレにはさっぱり用途がわからん。

「……こういうの、セイクリールじゃ滅多に見なかったなぁ。装飾の式が違う……古代式?」

 サラが興味津々で、小ぶりな聖具型の触媒に触れる。

 オレはその横で腕を組みながら、ふと呟いた。

「しかし、魔法というのはややこしいな。オレは拳ひとつで片をつける主義だから、いまいち仕組みがわからん。そもそも、魔法というのは一体どういう原理で成り立ってるのだ? 王でさえ理解が及ばんぞ」

「えっ、そこからですか?」

 サラが思わず吹き出した。だが、すぐに少しだけ指を立てて口元に寄せる。

「……でも、王様がそう言ってくれるの、ちょっと新鮮です。じゃあ、せっかくだから、改めて説明してみますね」

「うむ、頼む。拳で殴って覚えるには限界があるからな」

「そこはちゃんと覚える努力してください……」

 サラは軽くため息をついた後、真剣な顔つきで話し始めた。

「まず、魔法体系は、大きく“四大系統”に分類されます。“神聖魔法”“元素魔法”“精霊魔法”“禁呪”です。会ったばかりの時に説明しましたよね?」

「禁呪? 響きがいいな。オレにぴったりだ。ハーレムに禁忌はつきものだし」

「それも以前説明した時に全く同じことを言ってましたよ。魔法においては王様の理解度は低めですねぇ! ぷっ!」

 サラは珍しく吹き出してケラケラと笑っている。

 ふむ、意図的に過去を振り返る主義ではないから気づかなかったな。

「続けますね。“元素魔法”は火・水・風・土といった自然属性を直接操作する、最も基本的な魔法です。攻防両方に使えて、初歩から高等まで幅広い術が存在します」

「ふむ、オレの拳を“火”で強化するような魔法も含まれるのか?」

「ええ、近接強化の“フレイムブースト”なんかもそれです。習得しやすい汎用性が魅力ですね」

 サラは指をもう一本立てた。

「“神聖魔法”は、神殿系列に伝わる回復・浄化・防御系の術です。聖具や祈りを媒介にして神意を借りる、いわば“奇跡”の魔法です」

「サラの十八番だな」

「はい。“癒しの光”や“清めの結界”など、王様がたくさん見てきた私の魔法はそこに該当します」

「なるほど」

「次に“精霊魔法”。これは自然界に宿る精霊たちと契約し、その力を借りて魔法を行使するものです。使い手は限られますが、相性が良ければ非常に強力な効果を得られます」

「確か……エルフが得意とするやつだな。見たことはないが薄ら覚えている」

 エルフは森の引きこもりと称されているらしく、そうそうお目にかかれる種族ではない。精霊魔法とやらも使い手がエルフしかいないので同様だ。

「そして最後が“禁呪”——これは、古代に封じられた再現不可の超大規模魔法です。国家転覆レベルの強大すぎる儀式や、命を代償にした術などが含まれていて、今では実用されていません」

「……禁呪! 響きがますますいいな。命を削る魔法か……熱い! 熱すぎるぞ!」

「ほ、本当に使おうとしないでくださいね!? 王様の身が持ちませんから!」

 サラが焦って止めてきたので、オレは喉を鳴らして誤魔化した。

「ところで、オレさ“構築魔法”という言葉を耳にしたことがあるのだが、あれは元素魔法とは別なのか?」

「それは“構築式元素魔法”のことです。元素魔法の上位応用で、術式や魔法陣を用いて緻密に魔法を組み立てる方式を指します。攻撃だけじゃなく、分析・補助・干渉などの分野でも活用されてます」

「なるほど。拳より複雑だな」

「そりゃそうです! 構築魔法は理論と知識がないと全然使えませんからね。私も多少の理解はあってもきちんと使えませんし」

 そのあたりでサラがふと、何かを思い出したように顔を上げた。

「……ねぇ、王様。イデアに行ってみませんか?」

「イデア?」

 眉を上げるオレに、サラは真剣な眼差しで答える。

「正式にはイデア・アーク。魔法と理論、賢者の思想が集う“賢者の国”です。構築魔法の研究が盛んで、神聖魔法の応用融合術も進んでると聞きました。どうしても、見てみたいんです……ダメ、ですか?」

 その言葉は、純粋な知への渇望だった。

 ——ふむ、よかろう。断る理由はない!
 ましてそのような可愛い上目遣いで見つめられたら断ることなどできるはずがない!

 オレは腕を組んで頷き、堂々と宣言する。

「よし、決まりだ! 賢者の国、イデア・アーク! 知識が力に昇華されるならば、王としても無視できん! 何よりも最近は日銭稼ぎばかりで刺激が足りず、他の街に行こうにもあてがなければどうしようもない日々だった! この機会に賢者の国へと旅立とうではないか!」

「ほんとに!? いいんですか?」

「サラ、君が“行きたい”と言ったのだ。ならば、それはすでに王命と同義! 王は庇護下に入った民を何よりも大切にするのが当然のルールだからな!」

「……ほんと、こういうときは頼りになりますよね」

 サラは呆れながらも、口元に笑みを浮かべていた。

「ところで、新ヒロインはいるのか?」

「そんなの私が知るわけないじゃないですか!」

「そうか」

「あ、でも、構築魔法に精通している魔法使いは問答無用で賢い方達なので、一風変わった出会いはあるかもしれません」

「……ワクワクしてきたぞ! オレのハーレムが完成するまではまだまだ道は長い! 現時点で構成員が一人、候補が二人……足りない、ハーレム国家建国のためにはまるで足りないではないか!」

「あの……構成員の一人って私ですか?」

 何を困惑しているんだ、サラ。

「当然。サラは既にオレのハーレムの一員だ! 正真正銘の王の女だ! アレッタとルシアに関してはこれからだろう!」

「っ……そ、そうなんですね、その割には身体的接触も全くありませんし、王様からグイグイくることもない気がしますけど……」

「なんだ、グイグイきてほしいのか?」

「そ、そそそそ、そんなわけないじゃないですか! 清らかで神聖な神官に何を聞いてるんですか! ほら、早く行きますよ! 馬車で急いでも一週間はかかるんですから!」

 サラはオレの全身を杖で軽く殴打してきた。焦りが丸見えだ。オレのことが好きすぎるあまり情緒が不安定になっている。

 だが、安心してくれ。オレは君が真に受け入れてくれるその時まで手を出す気はない。ハーレムは一筋縄では行かない長い旅路なのだ。
 一生を共にする相手なのだから、心の底から大切にするのが当たり前だ!

 オレはハーレムキング、つまりは王なのだから!


 ——かくして。

 神聖魔法の可能性を追い求める少女の夢と、拳で世界を切り拓く王の旅路は、新たな地へと向かって進み出す。

 その名も“イデア・アーク”。

 知の殿堂にして、おそらく新たなヒロインが待ち受ける、次なるステージへ——!
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