ハーレムキング

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4章 論理と感情を合わせる方法 編

ハーレムキングは日常を謳歌する

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 イデア・アーク。通称 賢者の国

 そこは、魔法と論理が交差する学術都市だった。

 街は水晶と石材を組み合わせた優美な意匠に包まれ、空には時折、浮遊する魔導灯や移動魔導具の気球が漂っていた。
 各所に魔法式の街灯が配され、昼でもふんわりと灯をともしている。
 どこか幻想的でありながら、機能美に満ちた都市。

 オレはそんな未知の場所を存分に楽しんでいた!

「サラ、見よ! この街灯は魔力でついているらしい! つまり夜道も安全! 真っ暗な道を怖い思いをして歩く必要がなくなるわけだ! ハーレム構築にはうってつけの街だな!」

「……あの、王様。お願いですから、少しは落ち着いてください。すっごくいろんな人から見られてますよ……?」

 サラが引きつった笑顔で手を引っ張るが、オレの興奮は収まらない。
 なにせ、ここイデア・アークは、魔法理論と構築魔術の聖地。
 ありとあらゆる不思議が、生活の一部として存在しているのだから。

 王としての知見を深めるためにも、たっぷり堪能しておかねばならない!

「次はこいつを見ろ、これは“自動給湯魔具”だぞ! 触媒を入れるだけで温水が出るらしい! そしてこっちは……“風の循環板”? おお、涼しい! これはいい!」

「はぁぁぁ……全て魔法の応用技術の宝庫なんです。生活に寄り添う魔法も、研究され尽くしていてすごいですよね」

 サラは呆れたようにため息を吐いていたが、結局その瞳はどこかきらきらしていた。
 素直になれ。恥も外聞も捨ててしまえ。今はこの場所を存分に楽しもうではないか!

「おや、あれは?」

 市場の通りには、魔法道具の露店が立ち並び、構築魔法を施された小物や魔具が売られていた。
 火を灯すための触媒石、保温式の籠、浮遊するスイーツ皿まで……見ているだけで飽きない。

 オレはひとつ、銀の指輪を手に取った。

「ふむ……謎の指輪だな。どんな効果があるんだ?」

「“重力軽減の指輪”だそうです。物を運ぶ時に便利って……」

「なるほど、有用だな! 荷物持ちがはめれば荷物が軽くなり、剣士がはめれば重い剣を楽々振り回せるわけだ! 素晴らしい!」

 そんなやりとりをしながら歩いていると、ふいに路地の先で子どもたちの笑い声が聞こえてきた。

 小さな広場で、五、六人の子供たちが、透明な球体を転がして遊んでいる。その中にはまた別の子供たちが入っていて、キャッキャッと騒ぎながら自由気ままに転がされていた。

「なんだそれは!?」

「わぁ……あれ、中に空気が入って転がってるんですね。重力を軽くする魔法を付与してあるみたいなので、投げたらフワフワ飛ぶみたいですよ。さっきの指輪を応用した遊び道具みたいですね」

 サラが感嘆の声を上げた瞬間だった。

「おじちゃん! あそぼー!」

 唐突に、ひとりの子どもがオレの腕を掴んできた。

 おじちゃん呼びは見逃してやろう!

「ふははははっ! よかろうよかろう! 子供の遊びに全力で応えるのも王の器というもの!」

「どんな器ですか、それ」

 オレは大真面目に言い放ち、しゃがみ込んだ。透明な球体を持ち上げる
 すると周囲の子どもたちがわっと集まり、「もっと上に持ち上げて!」「あっちに走ってー!」「もっと速く!」と無茶ぶりの嵐。

 最終的に、オレは透明な球体の中に子供たちを詰め込んで、全身全霊のパワーを振り絞って転がしたり投げたりして遊んでいた。

「ふはははははっ! どうだ! 楽しいか!」

 オレが叫ぶと、子供たちはギャーギャー悲鳴を上げながら笑い転げていた。
 やがて、十分ほど遊ぶと、子供たちは飽きたのかオレを残して別の遊びを始めてしまった。
 ふむ、やはり子供の飽きは早いな。

「……楽しそうでしたね、王様」

「ふはははっ! 当たり前だ! 子供の笑顔を守るのも王の務めだろう? しかも、あそこにヒロインに相応しい可愛い女の子がいた! ちょっと声をかけてくる!」

「ダメダメダメダメダメ! そんなに見境なく声なんてかけちゃダメですよ! 王様ぁぁあああ!!!」

 イデア・アークの日常は、こうして穏やかに過ぎていった。

 


 昼下がり。

 子どもたちとのひと騒動のあと、オレとサラは街の中心部へと足を運んでいた。

 目指すのは、イデア・アークの中心部だ。
 サラの要望でそこを目指しているが、そこに何があるのかまでは聞いていない。ただ、明らかに高い建造物が増えてきた、目を奪われる箇所も多い。

 だが、それよりもオレの内心は、先ほどの女の子のことでいっぱいだった!

「くっ……君が呼び止めたせいで、可愛らしい女の子を逃してしまった!」

「反省してください! あんな血気盛んな顔のまま凄いスピードで走って行ったせいで、あの女性、青ざめてましからね?」

「ふむ、分別は大事ということか?」

 確かに、オレが声をかけた女の子は真っ青な顔で固まっていた。しかも、声をかけても言葉が返ってこなかった。最終的にはサラがオレの腕を掴んで離れてしまった。

「くれぐれも気をつけてください!」

「断る!」

「はぁ!?」

「王は指図を受けない! まあ、助言や注意としてなら聞いてやるがな! 無論、守るかどうかは約束できん! ふははははっ!」

「王様の愚図!」

「なんとでも言え! それよりも、まずはこの建物について教えてくれ!」

「もうっ……ここは魔法理論総合研究棟と呼ばれる施設ですよ」

 サラが見上げるその先には、青白く輝くクリスタルの柱がいくつも立ち並び、石造りの施設と融合するように組み込まれた構造が広がっていた。

 周囲には、白衣姿の研究者や魔道士風のローブをまとった者が出入りし、魔法式を記したスクロールや浮遊板を片手に、忙しなく行き来している。

「ここでは何をするんだ?」

「魔法理論の研究です。中には広い講堂があって、定期的に魔法に関する研究結果を発表するんです。そこで新たな魔法が発見されたり、古い魔法が改良されたり……私たちに馴染みのある魔法のほとんどは何百年も前にここで生まれたとされています」

「ふむ。実に興味深い。だが、王の本分は理論ではないのだ。あまり理解できないな」

 オレが魔法理論を理解できないのは、元よりこの世界の人間ではないことに起因しているのかもしれない。まあ、既に前世の記憶とやらは完全に消えたので、その辺りについては全くの不明だ。どうでもいいことか。

「せっかくなら魔法理論に興味持ってくださいよ……! 王様は頭がいいはずなので、すぐに色んな魔法を習得できると思いますよ?」

 サラが呆れつつも微笑むが、無理なものは無理だ、

 オレは次に隣の建物に目を向けた。そこは誰でも立ち寄れる展示ギャラリーのような区画があり、簡易な魔術の原理や、触れることで発動する触媒の体験ブースなども用意されていた。

 オレはそのうちのひとつ、“音声記録式の魔導石”というものに手を伸ばしてみた。

「ほう、これは?」

 指先で軽く触れると、澄んだ声が魔石から流れる。

『本日は研究塔へようこそ。こちらでは、魔法式の構造と理論の解説を……』

 おお、しゃべった!

「これ、報告とか記録用に使われてるんです。神殿でも一部採用され始めてると聞いたことがあります。ですが、正式に導入されるにはもうちょっと先かなという感じですね」

「魔法の力を文字にして“書く”のではなく、媒体の中に記録して“残す”……ということか。なかなか文化的だな」

 オレは感心しながら、記録された魔法陣の展示を眺めた。
 文字ではなく、魔力の流れを“紋様”として記述したもの、これこそが構築魔法の基本概念らしい。
 まるでわからない。

 言葉の代わりに、形で語るのか。
 ふむ、王たる者、言葉に頼らぬ理解力も必要かもしれん。

「次は神殿区に行ってみませんか? ここ、イデア・アークにも神殿の分所があるみたいなんです」

「おお、それは良い。神聖魔法と構築魔法の融合などというものが見られるのか! 君の目的の場所ではないか!」

 そうして、今度は神殿の外苑へと移動する。

 そこは一般参拝者向けに解放された広場で、中央には青白い光を灯す聖具が据えられ、周囲には祈りを捧げる者たちの姿があった。

 敷地の片隅には、見習い神官たちが勉学に励む姿もあり、サラはどこか懐かしそうにその様子を見つめていた。

「……思い出しますね。私も昔はああして、毎朝祈ってました」

「懐かしいか?」

「ええ。でも、戻りたいとは思いません。今はもっと外の世界が見たいですから」

 オレはふっと笑った。

「外の世界は王であるオレが見せてやるから安心しろ! 今日も明日も、明後日も、その先もずっとだ! そのために、ここまで来たのだからな!」

「……はい、ありがとうございますっ」

 そう答えたサラの笑顔は、少しだけ照れたような、しかしどこか誇らしげなものだった。
 普段よりも大人びた顔になっているのは気のせいか? やはり大好きな魔法を目にした効果だろうか。

 とにかく、照れくさそうにするサラは可愛い! それだけは確かだった!
 
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