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悔しさ
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やつの身長は七メートルほどだろうか。
鳥型のモンスターではあるが、その足は他の鳥型モンスターとは比べ物にならないくらい逞しく、長毛で覆われた胴体は驚異的なまでに発達している。
そして最も危険なのが、逞しい足の先にある鋭利な鉤爪だ。
黒光りしたそれは、機敏な動きを得意とするコカトリスからすれば最高の武器になるだろう。
実のところを言うと、俺はコカトリスと相見えるのは初めてだ。
文献で見たことはあったが、詳しい情報についてはあまりよく知らない。
油断や慢心は始めからするつもりはない。
何があるか分からないので全力でいくつもりだ。
「——斬ッ!」
初撃。俺は素早くコカトリスの懐に入り込み、横薙ぎに刀を振るった。
胴体を目掛け、横に一閃に斬り裂いていくように。
コカトリスの不意をついたこの一撃は確実にダメージを与えた。
少なくとも俺はそう思っていた。
なぜなら確かな感覚があったから。
俺の手のひらがそう告げていた。数々のモンスターの血肉を断ったあの感覚だ
「……グゲェ……??」
しかし、コカトリスは「なにをしたんだ?」とでも言わんばかりの素っ頓狂な声をあげると、瞬時に翼をはためかせ始める。
突然の謎の行動に一瞬だが戸惑いを見せた俺を目掛けて、コカトリスは足の鋭利な鉤爪を用いた攻撃を、自身が後ろ方向に回転することで繰り出してきた。
「グッ……!」
俺は突如として襲いかかる鋭利な鉤爪を回避しようと上体を後ろに逸らすが、若干ではあるがかすってしまった。
斬り裂かれた俺の脇腹からはドクドクと真っ赤な血がとめどなく溢れ出し、次第に意識が遠のいていくのがわかる。
既にこの戦闘に至るまでにボロボロだった俺の体は、かなり前から悲鳴を上げていたのだ。
「……ハァ……ハァハァ……クソがッ……!」
俺は虚になっていく視界の中、確実にダメージを与えたであろうコカトリスの胴体を確認してみるが、そこには一切の傷がなかった。
「グゲェェェェェッ!!」
脇腹を押さえて蹲る俺の姿を嘲るように、コカトリスは甲高い声を出し、足をドタドタと踏み鳴らした。
まるで身に纏う異物を排除するかのように。
「……ははっ……そ、そういうことかよ……」
それからわずか数秒後。
ベチャッ……ベチャッ……という生々しい血肉の音ともにコカトリスの胴体に生えた長毛の中から落ちてきたのは、このフロアに生息する複数の小型モンスターだった。
俺が不意を突いた一撃で胴体を斬ったあの感覚……それはコカトリス本体を斬った感覚ではなかったのだ。
コカトリスは持ち前の長毛の中に身代わりのなるようなモンスターの死体を隠し、自身の肉を断たせたかのように見せかけ、その隙を突いて攻撃を仕掛けたのだ。
「グゲェェェグゲェェェェェッッッッッーーー!!!」
目を見開いて苦悶の表情を浮かべる俺に向かって、コカトリスは馬鹿にするように叫び声を上げた。
言葉こそ伝わらないが、確実に俺の姿を見て楽しんでいるのが伝わる。
それから数分間、コカトリスは苦しみ悶える俺の姿を見ながら嬉々として雄叫びを上げ続けていたが、次第に飽きてきたのか、ジリジリと俺を目掛けて接近を始めた。
その表情や仕草には確かな余裕を感じた。
「ここまで……か」
俺はよろよろと壁に寄り掛かり、満身創痍な意識の中で呟いた。
「ごめんな……父さん……母さん……村のみんな……」
俺は自然と言葉を紡いでいた。
この世の”悪”を具現化したような禍々しいモンスターに家族と共に村を滅ぼされたあの日から、俺は冒険者として少しずつではあるが実力を高めてきた。
だが、それも今この一瞬で終わろうとしている。
かけがえのない存在を失い、仲間に裏切られ、自分を見失い、逃げるようにダンジョンに飛び込んだ。
俺はこのまま逃げていいのか?
俺はここで死んでいいのか?
俺は……俺はまだやれるだろ?
「……」
悔しい。悔しいっ! 悔しいッ!
——悔しいッッ!
「悔しいッ! 負けてたまるかよ! こんなところで逃げてたまるか! 俺は強くなるんだ! どんな敵にだって立ち向かわなければならないんだ!」
俺は自分の魂を鼓舞し、鼓動を強引に早めることで、全身の血の巡りを一時的に活性化させた。
そして既に底をついた体力を振り絞り、その場に立ち上がる。
既に息は絶え絶えで、いつ死んでもおかしくない状態だ。
俺ができる攻撃は——たった一回のみ。
「グゲェ?」
コカトリスは「まだやるのか?」とでも言うように首をかしげている。
背後は壁。追い詰められた状況。周りに助けを求めることもできない。
本来ならば絶体絶命。
だが——やるしかない。
何かを察したコカトリスは瞬時に体勢を変えると一気に跳躍し、鋭利な鉤爪で俺の首元を削ごうとしてくる。
かくいう俺もすぐさま刀を構え、真っ向からコカトリスとぶつかることを決めた。
「閃刀斬ッッッッ……!!」
ここで俺の意識は無くなった。
世界が闇に覆われると同時に体中全てのエネルギーがプツッと消失した感覚に陥ったのだった。
鳥型のモンスターではあるが、その足は他の鳥型モンスターとは比べ物にならないくらい逞しく、長毛で覆われた胴体は驚異的なまでに発達している。
そして最も危険なのが、逞しい足の先にある鋭利な鉤爪だ。
黒光りしたそれは、機敏な動きを得意とするコカトリスからすれば最高の武器になるだろう。
実のところを言うと、俺はコカトリスと相見えるのは初めてだ。
文献で見たことはあったが、詳しい情報についてはあまりよく知らない。
油断や慢心は始めからするつもりはない。
何があるか分からないので全力でいくつもりだ。
「——斬ッ!」
初撃。俺は素早くコカトリスの懐に入り込み、横薙ぎに刀を振るった。
胴体を目掛け、横に一閃に斬り裂いていくように。
コカトリスの不意をついたこの一撃は確実にダメージを与えた。
少なくとも俺はそう思っていた。
なぜなら確かな感覚があったから。
俺の手のひらがそう告げていた。数々のモンスターの血肉を断ったあの感覚だ
「……グゲェ……??」
しかし、コカトリスは「なにをしたんだ?」とでも言わんばかりの素っ頓狂な声をあげると、瞬時に翼をはためかせ始める。
突然の謎の行動に一瞬だが戸惑いを見せた俺を目掛けて、コカトリスは足の鋭利な鉤爪を用いた攻撃を、自身が後ろ方向に回転することで繰り出してきた。
「グッ……!」
俺は突如として襲いかかる鋭利な鉤爪を回避しようと上体を後ろに逸らすが、若干ではあるがかすってしまった。
斬り裂かれた俺の脇腹からはドクドクと真っ赤な血がとめどなく溢れ出し、次第に意識が遠のいていくのがわかる。
既にこの戦闘に至るまでにボロボロだった俺の体は、かなり前から悲鳴を上げていたのだ。
「……ハァ……ハァハァ……クソがッ……!」
俺は虚になっていく視界の中、確実にダメージを与えたであろうコカトリスの胴体を確認してみるが、そこには一切の傷がなかった。
「グゲェェェェェッ!!」
脇腹を押さえて蹲る俺の姿を嘲るように、コカトリスは甲高い声を出し、足をドタドタと踏み鳴らした。
まるで身に纏う異物を排除するかのように。
「……ははっ……そ、そういうことかよ……」
それからわずか数秒後。
ベチャッ……ベチャッ……という生々しい血肉の音ともにコカトリスの胴体に生えた長毛の中から落ちてきたのは、このフロアに生息する複数の小型モンスターだった。
俺が不意を突いた一撃で胴体を斬ったあの感覚……それはコカトリス本体を斬った感覚ではなかったのだ。
コカトリスは持ち前の長毛の中に身代わりのなるようなモンスターの死体を隠し、自身の肉を断たせたかのように見せかけ、その隙を突いて攻撃を仕掛けたのだ。
「グゲェェェグゲェェェェェッッッッッーーー!!!」
目を見開いて苦悶の表情を浮かべる俺に向かって、コカトリスは馬鹿にするように叫び声を上げた。
言葉こそ伝わらないが、確実に俺の姿を見て楽しんでいるのが伝わる。
それから数分間、コカトリスは苦しみ悶える俺の姿を見ながら嬉々として雄叫びを上げ続けていたが、次第に飽きてきたのか、ジリジリと俺を目掛けて接近を始めた。
その表情や仕草には確かな余裕を感じた。
「ここまで……か」
俺はよろよろと壁に寄り掛かり、満身創痍な意識の中で呟いた。
「ごめんな……父さん……母さん……村のみんな……」
俺は自然と言葉を紡いでいた。
この世の”悪”を具現化したような禍々しいモンスターに家族と共に村を滅ぼされたあの日から、俺は冒険者として少しずつではあるが実力を高めてきた。
だが、それも今この一瞬で終わろうとしている。
かけがえのない存在を失い、仲間に裏切られ、自分を見失い、逃げるようにダンジョンに飛び込んだ。
俺はこのまま逃げていいのか?
俺はここで死んでいいのか?
俺は……俺はまだやれるだろ?
「……」
悔しい。悔しいっ! 悔しいッ!
——悔しいッッ!
「悔しいッ! 負けてたまるかよ! こんなところで逃げてたまるか! 俺は強くなるんだ! どんな敵にだって立ち向かわなければならないんだ!」
俺は自分の魂を鼓舞し、鼓動を強引に早めることで、全身の血の巡りを一時的に活性化させた。
そして既に底をついた体力を振り絞り、その場に立ち上がる。
既に息は絶え絶えで、いつ死んでもおかしくない状態だ。
俺ができる攻撃は——たった一回のみ。
「グゲェ?」
コカトリスは「まだやるのか?」とでも言うように首をかしげている。
背後は壁。追い詰められた状況。周りに助けを求めることもできない。
本来ならば絶体絶命。
だが——やるしかない。
何かを察したコカトリスは瞬時に体勢を変えると一気に跳躍し、鋭利な鉤爪で俺の首元を削ごうとしてくる。
かくいう俺もすぐさま刀を構え、真っ向からコカトリスとぶつかることを決めた。
「閃刀斬ッッッッ……!!」
ここで俺の意識は無くなった。
世界が闇に覆われると同時に体中全てのエネルギーがプツッと消失した感覚に陥ったのだった。
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