追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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疑いは晴れ……た?

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 足取りが重いし調子も上がらないので、俺は一旦立ち止まり、変わり映えのないつまらない空模様を静かに眺めた。

 そんな中、前方ではDランク相当のモンスターに向けて、氷の上級魔法が惜しみなく打ち込まれている。

「——ぼーっとしてないで早く着いてきて」

「……はい」

 気怠いオーラを全開にしている俺より数メートル先を歩いているのは、天下のSランクパーティー【氷雹】のメンバー、レイカさんだ。
 俺たちは適当に自己紹介を済ませた後にすぐさま調査に乗り出し、今はその調査の途中というわけだ。

 ここに至るまでレイカさんはくだんのモンスターのランクや死亡時刻を正確に調査していたため、おそらく真面目な性格なのだろう。
 今も顎に指を添えて、ジッと絶命したモンスターの姿を見ている。

「どうですか? 何かわかりましたか?」

 俺の中では調査をするまでもなくもうすでに解決していることだが、折角Sランクパーティーの一人と仲を深めるチャンスなので適当に言葉をかけていく。

「……君は……えっと……」

「……ゲイルです」

 レイカさんは人の名前を覚えるのが苦手なようだ。
 その証拠に先程から何度も似たようなやりとりをした記憶がある。

「そうだった。ルーくんはここまで見てきてどう思う?」

 それと呼び方に特徴がある。
 一体誰なんだ、ルーくんって。

「……事件性は低いかと思いますがね」

「どうしてそう思うの?」

 どうしてと言われても俺が暇つぶしにやったからとしか言えないが、ここは適当にそれっぽいことでも言っておくことにしよう。

「仮にこれをやったのが愉快犯なのだとしたら、現場を見ていた冒険者パーティーは今頃この世にいないと思います。それとモンスターの首を斬った跡から推察するに、犯人は最低でもBランク以上の冒険者かと」

 俺はレイカさんから目を逸らして、絶命したモンスターに目をやった。

 絶対にありえない話だが、もしも俺が理性を失って殺戮衝動を抑えるためにやっていたのだとしたら、人とモンスターを見境なく殺していたに違いない。
 
「……そう」

 俺の言葉にレイカさんはいまいち納得いかない様子だ。
 何か疑問点でもあったのだろうか。

「ねぇ、君も冒険者だよね?」

「ええ……それが何か?」

 レイカさんはこちらに一歩近づくと、俺のことをジッと見上げた。
 レイカさんの身長は俺の肩くらいまでしかないので、まるで上目遣いかのようになっている。
 
 しかしそんなことはどうでもいいくらいに、俺を見上げるその瞳は怪しく光っていた。

「ううん。その刀、随分使い込んでるなって思って」

「そうですね。大切な相棒なんで」

 俺は静かに刀を抜いた。
 これは俺がAランク冒険者になると同時に購入したものだ。貯金を叩いてオーダーしただけあって中々の業物に仕上がってくれた。

「そっ……話を戻すけど、冒険者ランクはいくつ?」

 レイカさんは自分から質問をしたというのに特に俺の刀に興味はないらしく、すぐに話題を元に戻した。

「一番下のEランク冒険者ですよ。現にここまで着いてくるのも大変でしたしね」

 俺は懐から取り出したギルドカードをひらひらとレイカさんに見せた。
 そこにはランクこそ記されていないが、新品同然のように傷も汚れもないことから貰ったばかりのものだとわかる。

 それに特に無駄話を交えることなくスタスタと一人でに行動するものだからある意味大変ではあった。

「ふーん……」

 それを見たレイカさんはフッと俺から目を逸らして背を向けた。

「……」

 俺はそれに対して無言で返事をする。
 どうやら俺は疑われているみたいだ。
 ここまでの質問責めもそのためだったんだな。

「帰ろっか」

 なんの脈絡もなく、突然レイカさんが口にした。

「はい」

 現在俺たちがいるところはアノールド寄りの荒野地帯だ。
 イグワイアまではまだまだ距離があるので、調査としては半分も進んでいないことになるが、レイカさんが言うなら仕方がない。

 行きと同じく、俺はフラッと歩き始めたレイカさんの後ろから静かに着いていくことにした。

 俺の実力が悪い意味で疑われている以上、無駄な言い争いや態度は悪い方向へ加速させてしまうからな。
 波風を立たせないようになるべくイエスマンでいたほうがよさそうだ。





「——そうですか!調査していただきありがとうございました! 何はともあれ、事件性がないなら安心しました」

 俺は今、ギルドの最奥に設けられた部屋にいた。

 そこでは初老の男性——ギルドマスターとレイカさんが調査結果について報告しており、俺は柔らかいソファに腰をかけているだけの状態だ。

「……うん。多分大丈夫」

 レイカさんはフゥっと嘆息すると、ソファに腰をかけなおした。

「レイカ様が言うのであればそうなのでしょう。ところで……一つお聞きしたいことがあるのですが……」

「なに?」

 ギルドマスターは手のひらを擦り合わせて媚を売るような姿勢を見せた。
 いくらアノールドの冒険者ギルドのトップに君臨するギルドマスターと言っても、天下のSランクパーティーのメンバー様には敵わないらしい。

「アノールドにはどのくらい滞在される予定がお聞きしてもよろしいでしょうか……?」

「決めてない。けど、まだいる予定だよ。なんかあった?」

 普通Sランクパーティーは一つの国に留まることなく旅を続けているはずだが、レイカさんは違うらしい。
 そもそも単独行動していること自体が十分珍しいのだが。

「は、はい! 実は……えっと……その」

 ギルドマスターはレイカさんだけに用件があるのか、レイカさんに助けを求めるように視線を動かしていた。

 俺は邪魔者らしいな。ただのEランク冒険者では聞けないような重要な内容なのだろう。
 ここは気を遣って俺が出て行った方がいいな。

「あ、すみません。先に席を外しますね。では、またどこかで——ん? 腕なんか掴んでどうしました?」

 俺が軽く謝辞を述べて部屋を後にしようと席を立ったその時だった。
 レイカさんはガシッと俺の腕を掴み、ぶんぶんと首を横に振った。

「この人……えっと……ペルル?」

「レイカさん。俺はゲイルです」

 案の定レイカさんは俺の名前を覚えていなかったので、俺は表情を変えることなく簡潔に訂正した。

「そうだった。それ、ルーくんも一緒に行けるならいいよ」

「えぇっ!? ゲイルさん……でしたっけ? 彼はEランク冒険者ですよね……? 大丈夫ですか?」

 調査に行く時は流れに任せて俺も着いて行ったが、普通に考えればこうなるだろうな。
 
 それよりもなんでここまでレイカさんが俺に構うのかがわからないな。
 俺のことを疑うならこんなに堂々と接近してくるのも変だしな。

「大丈夫……ね?」

 レイカさんは強く掴んでいた俺の左手をグンっと引っ張り無理やり着席させる。
 そして俺の目を見て、小さく首を傾げた。

 ここはどうするのが正解なのだろうか。
 断るべきか? 堂々と受諾するべきか?
 まだ疑われていると考えれば大人しく従うべきか?
 そうだな……変に断ってもいい事はない。
 それにギルドマスターの前だ。妙な噂でも広められたら困るからな。
 ここは流れに任せるとしよう。

「足を引っ張らないように頑張ります」

 俺は真剣な眼差しをつくり、ギルドマスターに対して無難な心意気を伝えた。

「うん。ルーくんもこう言ってるし、早く要件を聞かせて?」

 そして追い討ちとばかりに、レイカさんは半ば強引に話を進めたのだった。

 あー……変なことやらされたらどうしよう。


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