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いざ王宮へ
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「……はぁ……」
俺は宿のベッドに転がって汚い天井を眺めた。
ドウグラスとの決闘まで残された時間は三日間のみ。
周りの視線や態度が中々厳しいので気楽にクエストを受けることもできない。
現に俺はドウグラスに宣戦布告をされてからすぐに宿に帰ってきた。
「決闘に備えて手加減する練習もしないといけないしな……」
俺は部屋の隅に立て掛けてある細剣を見た。
俺の刀が完成するまでの間はこの細剣をユルメルから借りることにしているが、まだまだ使い慣れていないせいか手加減をできるか心配だ。
モンスターが相手なら問題ないだが、今回の相手は人間。ましてや格下だ。決して舐めているわけではなく、しっかりと考えなければならないのだ。
「……どうにかしないとな」
俺の方が実力は数段上なので負けることはない。
本気を出しているフリをしながら決闘に臨むのがいいだろう。
「——ゲイルさん。お客さんがお見えになってます」
なんてことを考えながらボーッとしていると、扉の向こうから女将の声が聞こえてきた。
俺はすぐに部屋を出て、一階へ続く階段を降りていく。
俺に客なんていないはずだが……。
自慢じゃないが、アノールドにはほとんど知り合いがいないし、いたとしてもその相手は特段俺と深い関係を持っていない。
「——あっ……レイカさんでしたか」
階段を降りた先で立っていたのは【氷雹】のレイカさんだった。
「久しぶり。準備はできてる?」
レイカさんは相変わらずクールな装いと雰囲気をしており、抑揚のない声で話しかけてくる。
「準備……ですか? 一体何の……?」
一体何の準備だろうか。
手紙や伝言を預かったわけでもないしな……何のことだ。
「……王宮にいる偉い人と話がしたいんでしょ?」
俺の問いにレイカさんは「何を言っているんだ……」とでも言いたげな、ため息混じりの言い方をして、俺のことをジト目で見てきた。
「すみません……その件でしたか。レイカさんさえよければすぐに向かいましょう」
俺は王宮という言葉を聞いてふと思い出した。
そうだそうだ、レイカさんが幼児退行した時に約束を取り付けたっけな。
直近の記憶のインパクトが強すぎて忘れかけていた。
「うん」
レイカさんはそれだけ言ってすぐに宿から出て行ったので、俺も女将に軽く礼を済ませてから後を追うことにした。
それにしてもこんなに早くお偉いさんとの対面の機会が訪れるとはな。
流石はSランクパーティーのメンバーだな……このコネクションは大切にしないとな。
◇
俺は柔らかいソファにゆったりと背中を預けて座りながら、充てがわれた豪華な一室を眺めていた。
イグワイアの王宮では戦闘ばかりで悠長に見学できなかったので、価値を理解することこそできないが新鮮な気分を味わえる。
「王宮っていうのは豪勢なとこですねー」
ここはアノールドの王宮。
Sランクパーティーのメンバーであるレイカさんの連れとして、俺は易々と王宮に入ることができた。
もしかしたら予め話を通しておいてくれたのかもしれない。
「うん……それより、一つ質問していい?」
俺の真横に座るレイカさんが俺の方を見ながら言った。
「はい。なんですか?」
「私、ここ何日かある場所でクエストを任されててアノールドにいなかったんだけど……ルーくん、何かやらかした?」
レイカさんは顎に手を当てながら不思議そうにしているが、アノールドにいなかったのなら知らないのも納得だ。
俺が曲解なく真実を簡潔に教えよう。
「実はある冒険者と揉めてしまって、三日後にコロシアムで決闘をするんですよね。下馬評は俺の方が圧倒的に不利なので周りの目も冷たいんですよ」
宿から王宮に来るまでの道のりで、俺たちは周囲から様々な視線を集めていた。
それは俺に向けられた冷たい目とレイカさんに向けられた憧憬を孕んだ目の二つだったが、レイカさんはそこでいつもと違う視線に気がついたのだろう。
「ふーん……で、勝てそう?」
「まあ……はい」
普通に戦えば勝てるだろう。
ドウグラスが実力を隠していたりすれば別だが、そんな様子もなかったしな。
「そっ」
俺に特に興味がないのか、それとも別に気にしていないのか、レイカさんは素っ気ない返事をした。
「……」
ここで俺たちの間には何でもない沈黙が訪れたが、短い付き合いとはいえ互いのことを多少は分かっているので、特に気まずいことはない。
それから十秒、それとも一分が経った頃だろうか。
その時は訪れた。
丁寧な間を置いた三回のノックが部屋に響いた。
それはノックをした本人の心の落ち着きを表しているようだった。
「——失礼します。お待たせいたしました」
そして低く渋みのある声とともにガチャリと扉が開かれると、そこからは整えられた白い口髭が特徴的な男が部屋に入ってくる。
「久しぶり。アウタート」
それを見たレイカさんはスッと立ち上がると、慣れた様子で挨拶を済ませた。
一召使いにここまでするとは思えないので、この男性が王宮のお偉いさんで間違いなさそうだ。
「これはこれはレイカ様。クエストお疲れ様でした……それで、そちらの方が例の?」
アウタートと名乗る男性は恭しくレイカさんに礼を済ませると、俺の方を見て目をパチクリと瞬かせた。
「そう。よくわからないけど話があるみたい。聞いてあげてほしい」
どうすればいいかわからずに未だにソファに腰をかけている俺のことをレイカさんは目を細めて一瞥した。
どうやら「挨拶をして」ってことみたいだな。
「……初めまして。冒険者をしています、ゲイルと言います。この度は時間を作っていただきありがとうございました」
俺は昔から泥臭く冒険者ばかりしてきたせいで社交辞令など分からないので、今自分ができる精一杯の言葉で自己紹介をして最後に軽く頭を下げた。
「そうですか。話は座りながらゆっくりいたしましょうか……おっと、紹介が遅れました。わたくしの名前はアウタート。国王の側近として王宮に仕えております故、何卒お見知り置きを」
アウタートさんは俺とレイカさんに着席を促すと、自身の自己紹介を始めた。
まさか国王の側近とはな。
王の血族を抜けば、もっとも権力のあるポジションじゃないか……。
これは丁寧に話を進めていかないとな。
俺は宿のベッドに転がって汚い天井を眺めた。
ドウグラスとの決闘まで残された時間は三日間のみ。
周りの視線や態度が中々厳しいので気楽にクエストを受けることもできない。
現に俺はドウグラスに宣戦布告をされてからすぐに宿に帰ってきた。
「決闘に備えて手加減する練習もしないといけないしな……」
俺は部屋の隅に立て掛けてある細剣を見た。
俺の刀が完成するまでの間はこの細剣をユルメルから借りることにしているが、まだまだ使い慣れていないせいか手加減をできるか心配だ。
モンスターが相手なら問題ないだが、今回の相手は人間。ましてや格下だ。決して舐めているわけではなく、しっかりと考えなければならないのだ。
「……どうにかしないとな」
俺の方が実力は数段上なので負けることはない。
本気を出しているフリをしながら決闘に臨むのがいいだろう。
「——ゲイルさん。お客さんがお見えになってます」
なんてことを考えながらボーッとしていると、扉の向こうから女将の声が聞こえてきた。
俺はすぐに部屋を出て、一階へ続く階段を降りていく。
俺に客なんていないはずだが……。
自慢じゃないが、アノールドにはほとんど知り合いがいないし、いたとしてもその相手は特段俺と深い関係を持っていない。
「——あっ……レイカさんでしたか」
階段を降りた先で立っていたのは【氷雹】のレイカさんだった。
「久しぶり。準備はできてる?」
レイカさんは相変わらずクールな装いと雰囲気をしており、抑揚のない声で話しかけてくる。
「準備……ですか? 一体何の……?」
一体何の準備だろうか。
手紙や伝言を預かったわけでもないしな……何のことだ。
「……王宮にいる偉い人と話がしたいんでしょ?」
俺の問いにレイカさんは「何を言っているんだ……」とでも言いたげな、ため息混じりの言い方をして、俺のことをジト目で見てきた。
「すみません……その件でしたか。レイカさんさえよければすぐに向かいましょう」
俺は王宮という言葉を聞いてふと思い出した。
そうだそうだ、レイカさんが幼児退行した時に約束を取り付けたっけな。
直近の記憶のインパクトが強すぎて忘れかけていた。
「うん」
レイカさんはそれだけ言ってすぐに宿から出て行ったので、俺も女将に軽く礼を済ませてから後を追うことにした。
それにしてもこんなに早くお偉いさんとの対面の機会が訪れるとはな。
流石はSランクパーティーのメンバーだな……このコネクションは大切にしないとな。
◇
俺は柔らかいソファにゆったりと背中を預けて座りながら、充てがわれた豪華な一室を眺めていた。
イグワイアの王宮では戦闘ばかりで悠長に見学できなかったので、価値を理解することこそできないが新鮮な気分を味わえる。
「王宮っていうのは豪勢なとこですねー」
ここはアノールドの王宮。
Sランクパーティーのメンバーであるレイカさんの連れとして、俺は易々と王宮に入ることができた。
もしかしたら予め話を通しておいてくれたのかもしれない。
「うん……それより、一つ質問していい?」
俺の真横に座るレイカさんが俺の方を見ながら言った。
「はい。なんですか?」
「私、ここ何日かある場所でクエストを任されててアノールドにいなかったんだけど……ルーくん、何かやらかした?」
レイカさんは顎に手を当てながら不思議そうにしているが、アノールドにいなかったのなら知らないのも納得だ。
俺が曲解なく真実を簡潔に教えよう。
「実はある冒険者と揉めてしまって、三日後にコロシアムで決闘をするんですよね。下馬評は俺の方が圧倒的に不利なので周りの目も冷たいんですよ」
宿から王宮に来るまでの道のりで、俺たちは周囲から様々な視線を集めていた。
それは俺に向けられた冷たい目とレイカさんに向けられた憧憬を孕んだ目の二つだったが、レイカさんはそこでいつもと違う視線に気がついたのだろう。
「ふーん……で、勝てそう?」
「まあ……はい」
普通に戦えば勝てるだろう。
ドウグラスが実力を隠していたりすれば別だが、そんな様子もなかったしな。
「そっ」
俺に特に興味がないのか、それとも別に気にしていないのか、レイカさんは素っ気ない返事をした。
「……」
ここで俺たちの間には何でもない沈黙が訪れたが、短い付き合いとはいえ互いのことを多少は分かっているので、特に気まずいことはない。
それから十秒、それとも一分が経った頃だろうか。
その時は訪れた。
丁寧な間を置いた三回のノックが部屋に響いた。
それはノックをした本人の心の落ち着きを表しているようだった。
「——失礼します。お待たせいたしました」
そして低く渋みのある声とともにガチャリと扉が開かれると、そこからは整えられた白い口髭が特徴的な男が部屋に入ってくる。
「久しぶり。アウタート」
それを見たレイカさんはスッと立ち上がると、慣れた様子で挨拶を済ませた。
一召使いにここまでするとは思えないので、この男性が王宮のお偉いさんで間違いなさそうだ。
「これはこれはレイカ様。クエストお疲れ様でした……それで、そちらの方が例の?」
アウタートと名乗る男性は恭しくレイカさんに礼を済ませると、俺の方を見て目をパチクリと瞬かせた。
「そう。よくわからないけど話があるみたい。聞いてあげてほしい」
どうすればいいかわからずに未だにソファに腰をかけている俺のことをレイカさんは目を細めて一瞥した。
どうやら「挨拶をして」ってことみたいだな。
「……初めまして。冒険者をしています、ゲイルと言います。この度は時間を作っていただきありがとうございました」
俺は昔から泥臭く冒険者ばかりしてきたせいで社交辞令など分からないので、今自分ができる精一杯の言葉で自己紹介をして最後に軽く頭を下げた。
「そうですか。話は座りながらゆっくりいたしましょうか……おっと、紹介が遅れました。わたくしの名前はアウタート。国王の側近として王宮に仕えております故、何卒お見知り置きを」
アウタートさんは俺とレイカさんに着席を促すと、自身の自己紹介を始めた。
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これは丁寧に話を進めていかないとな。
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